02-20 · 相続・遺言 · 条文解説系

民法第907条とは|遺産分割の協議・審判の根拠規定

民法第907条は、遺産分割の協議および家庭裁判所への分割請求の根拠規定です。第1項は共同相続人による協議分割を、第2項は協議が調わない場合の家庭裁判所への請求を定めています。令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、改正前の第907条第3項(家庭裁判所の審判による分割禁止)は第908条第4項・第5項に移動しました。この記事では、民法第907条の条文の意味・遺産分割の方法・実務上の論点を解説します。

民法第907条は、遺産分割の協議および家庭裁判所への分割請求の根拠規定です。第1項は共同相続人による協議分割を、第2項は協議が調わない場合の家庭裁判所への請求を定めています。令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、改正前の第907条第3項(家庭裁判所の審判による分割禁止)は第908条第4項第5項に移動しました。この記事では、民法第907条の条文の意味・遺産分割の方法・実務上の論点を解説します。

カテゴリ:相続・遺言 / 種別:条文解説系
関連条文:(本法)民法第898条第2項第903条第904条の2第904条の3第906条第906条の2第907条第1項第2項第908条第1項第2項第3項第4項第5項家事事件手続法第191条第1項第244条第245条第1項第257条第1項第272条第4項第274条第1項

こんな方へ

  • 民法第907条の正確な条文の意味を確認したい
  • 遺産分割協議・調停・審判のどれを使うべきか確認したい
  • 遺産分割禁止(民法第908条)の正確な仕組みを確認したい
  • 令和3年(2021年)民法等の一部改正による10年経過後の主張制限(第904条の3)を確認したい
  • 「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)と遺産分割の関係を確認したい

この記事でわかること

  • 第907条第1項(協議分割)と第2項(家庭裁判所への請求)の正確な構造
  • 第907条第2項ただし書(一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれ)の意味
  • 遺産分割が「調停前置主義の対象ではない」ことの法律上の根拠
  • 第908条(令和3年(2021年)民法等の一部改正で5項構成に拡充)の正確な規律
  • 第906条の2第904条の3など令和3年(2021年)民法等の一部改正による新設規定

結論:第907条は遺産分割の協議および家庭裁判所への分割請求の根拠規定。遺産分割は調停前置主義の対象ではない

根拠条文:(本法)民法第907条第1項(遺産の分割の協議又は審判)

共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託した場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

根拠条文:(本法)民法第907条第2項

遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
分割の方法内容主な根拠
協議分割(第907条第1項相続人全員の協議による分割民法第907条第1項(全員合意が必要)
調停分割家庭裁判所の調停委員会が仲介家事事件手続法第244条
審判分割家庭裁判所が分割方法を決定(民法第907条第2項家事事件手続法第272条第4項(調停不成立時の擬制)
遺言による指定被相続人の遺言による分割方法の指定または第三者への委託民法第908条第1項

重要: 遺産分割は家事事件手続法別表第二事件であり、調停前置主義(家事事件手続法第257条第1項)は適用されないため、当事者は調停・審判のいずれの申立ても法律上可能です。実務上は付調停家事事件手続法第274条第1項)に付されることが多く、まずは話し合いによる解決が図られます。詳細は 遺産分割がまとまらない場合の対処法 を参照。

判断フロー:遺産分割はどう進めるか

遺産分割をどのように進めるか?

遺言がある場面

  • 遺言が全財産をカバー
  • 遺言が一部の財産のみ
  • 遺言の有効性に争いがある

遺言がない場面または残余財産がある場面

  • 相続人全員での協議・遺産分割協議書の作成
  • 協議がまとまらない場面:家庭裁判所に調停または審判
  • 一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれの場面:一部分割は不可

第907条第1項:協議分割

第907条第1項は、共同相続人による協議分割の根拠規定です。遺言による分割方法の指定または分割禁止特約がある場合を除き、いつでも協議できます。

根拠条文:(本法)民法第907条第1項(条文:上記参照)

「次条第一項の規定により被相続人が遺言で分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託した場合」の意味

これは民法第908条第1項を引用しています。すなわち:

  • 被相続人が遺言で分割の方法を定めた場合
  • 被相続人が遺言で分割の方法を定めることを第三者に委託した場合

「同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合」の意味

これは民法第908条第2項を引用しています。すなわち、共同相続人間で5年以内(10年以内に終了)の分割禁止契約がある場合。

「いつでも」の意味

協議分割は時期の制限なくいつでも可能です。上記の遺言指定・分割禁止特約・第908条第4項の家庭裁判所の禁止審判等による制限がある場合を除く。

全員参加の原則

  • 相続人が一人でも欠けた状態での協議は法律上の効力を有さず、やり直しが必要
  • 相続人の中に未成年者がいる場合:親権者(利益相反に注意)または特別代理人(民法第826条)が参加
  • 相続人の中に意思能力のない者がいる場合:成年後見人等が参加(成年後見制度の種類と要件 参照)
  • 相続人と連絡が取れない場合:不在者財産管理人または失踪宣告(相続人と連絡が取れない場合 参照)

詳細は 遺産分割協議書の作り方 を参照。

第907条第2項:協議が調わない場合の家庭裁判所への請求

第907条第2項は、協議が調わない場合または協議できない場合の家庭裁判所への請求権を定める規定です。

根拠条文:(本法)民法第907条第2項(条文:上記参照)

申立ての要件

  • 「協議が調わないとき」:合意が得られない場合
  • 「協議をすることができないとき」:相続人の所在不明・連絡不能等で協議自体が困難な場合

ただし書(一部分割の制限)

第907条第2項ただし書は、平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)で追加された規定です:

遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

→ 一部の財産だけを先行して分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合、その一部分割の請求は認められません。例:相続人間の公平性を害する財産配分となる場面等。

管轄

項目内容
調停の管轄相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第245条第1項
審判の管轄相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第191条第1項

改正前第907条第3項は削除(第908条第4項第5項に移動)

改正前の第907条第3項は「特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる」と規定していましたが、令和3年(2021年)民法等の一部改正により削除され、現行の第908条第4項第5項に移動しました(後述④)。

第906条:遺産分割の基準

遺産分割は、遺産の種類・性質・相続人の事情・その他一切の事情を考慮して行います。

根拠条文:(本法)民法第906条(遺産の分割の基準)

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

主な分割方法の種類

分割方法内容根拠
現物分割各財産をそのまま相続人に割り当て原則的方法
換価分割財産を売却して代金を分割民法第258条の2第2項により民法第258条準用
代償分割特定の相続人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う家庭裁判所の裁量
共有分割財産を相続人の共有とする民法第898条以下

第898条第2項(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設)

根拠条文:(本法)民法第898条第2項

相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする

→ 令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)で新設。共有分割の場合の各相続人の持分が法定相続分等によることを明示。

特別受益・寄与分との関係

  • 特別受益民法第903条):被相続人から生前贈与・遺贈を受けた相続人がいる場合の調整
  • 寄与分民法第904条の2):被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人がいる場合の加算

第906条の2(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設)

根拠条文:(本法)民法第906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)

→ 令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)で新設。遺産の分割前に共同相続人の一人によって遺産が処分された場合でも、共同相続人の同意により処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するとみなす規定。

「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)の解釈

最判平成3年(1991年)4月19日:

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。

→ この遺言があった場合、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されます(最判平成14年(2002年)6月10日)。詳細は対抗要件具備行為について 遺言執行者の権限と義務 も参照。

第908条:遺産分割の方法の指定及び遺産分割の禁止(令和3年(2021年)民法等の一部改正で5項構成)

第908条は令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により5項構成に拡充されました。被相続人の遺言・共同相続人の契約・家庭裁判所の審判の3つの方法による分割禁止が整理されています。

根拠条文:(本法)民法第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

第908条の5項構成

内容期間制限
第1項被相続人による遺言での(1)分割方法の指定、(2)指定の第三者への委託、(3)分割禁止分割禁止は相続開始の時から5年を超えない期間
第2項共同相続人による分割禁止契約5年以内(終期は相続開始から10年を超えない)
第3項第2項の契約の更新5年以内(終期は相続開始から10年を超えない)
第4項家庭裁判所による分割禁止の審判(特別の事由がある場合)5年以内(終期は相続開始から10年を超えない)
第5項第4項の審判期間の更新5年以内(終期は相続開始から10年を超えない)

第908条第1項の正確な内容

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

第908条第1項は3つの内容(分割方法の指定指定の第三者への委託5年を超えない期間の分割禁止)を含みます。

第908条第2項第5項(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・拡充)

改正前は共同相続人の合意による分割禁止特約・家庭裁判所の禁止審判についての規定が期間制限が不明確でしたが、令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により5年以内(10年超不可)の期間制限が明文化されました。

⑤ 令和3年(2021年)民法等の一部改正による10年経過後の主張制限(第904条の3

令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益・寄与分の主張が原則できなくなりました。

根拠条文:(本法)民法第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

根拠法:「民法等の一部を改正する法律」(、2023年4月1日施行)により新設。

制限の内容

  • 原則:相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、第903条(特別受益)・第904条の2(寄与分)の規定は適用されない(法定相続分による分割となる
  • 例外
  • 10年経過前に家庭裁判所に遺産分割の請求をした場合
  • 10年経過前6か月以内にやむを得ない事由により家庭裁判所に分割請求できなかった場合(事由消滅から6か月以内に請求すれば適用)

→ 長期間放置された遺産分割は、早期の協議・調停・審判の申立てが結論に影響します。

⑥ 遺産分割協議書

協議が成立した場合、遺産分割協議書を作成します。協議書は登記・金融機関手続き等に必要となります。

必要事項

  • 相続人全員の署名・実印
  • 各相続人の印鑑証明書
  • 分割する財産の特定(不動産は地番・地目・地積等を明記)

第907条第1項による遺産分割の対象範囲

第907条第1項は「遺産の全部又は一部の分割」と規定。一部分割も可能ですが、第907条第2項ただし書により、家庭裁判所の審判での一部分割は他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合は認められません。

詳細は 遺産分割協議書の作り方 を参照。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
(本法)第898条第2項民法周辺共同相続の効力(共有持分は法定相続分等。令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
(本法)第903条民法周辺特別受益者の相続分
(本法)第904条の2民法周辺寄与分
(本法)第904条の3民法中核期間経過後の遺産の分割における相続分(10年制限・令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
(本法)第906条民法中核遺産分割の基準(種類・性質・年齢・職業・心身の状態・生活の状況)
(本法)第906条の2民法中核遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
(本法)第907条第1項民法中核協議分割(次条による制限を除き、いつでも協議分割可能)
(本法)第907条第2項民法中核家庭裁判所への請求(協議が調わない場合)・ただし書(一部分割の制限)
(本法)第908条第1項民法中核遺言による分割方法の指定・第三者への委託・5年以内の分割禁止
(本法)第908条第2項民法中核共同相続人の契約による分割禁止(5年以内・終期は相続開始から10年以内)
(本法)第908条第3項民法周辺共同相続人の契約の更新(5年以内・終期は相続開始から10年以内)
(本法)第908条第4項民法中核家庭裁判所の審判による分割禁止(5年以内・終期は相続開始から10年以内)
(本法)第908条第5項民法周辺家庭裁判所の審判期間の更新(5年以内・終期は相続開始から10年以内)
(本法)第191条第1項家事事件手続法周辺遺産分割審判の管轄(相続開始地)
(本法)第244条家事事件手続法周辺家事調停の対象
(本法)第245条第1項家事事件手続法周辺家事調停の管轄(相手方の住所地)
(本法)第257条第1項家事事件手続法周辺調停前置主義(遺産分割は対象外
(本法)第272条第4項家事事件手続法周辺別表第二事件の調停不成立時の擬制
(本法)第274条第1項家事事件手続法周辺付調停

まとめ

  • 民法第907条遺産分割の協議および家庭裁判所への分割請求の根拠規定
  • 第907条第1項:「次条第一項の規定により被相続人が遺言で分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託した場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」
  • 第907条第2項:協議が調わない場合の家庭裁判所への請求権。ただし書(一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合は不可)
  • 遺産分割は家事事件手続法別表第二事件であり、調停前置主義(同法第257条第1項)は適用されない。当事者は調停・審判のいずれの申立ても可能
  • 実務上は付調停家事事件手続法第274条第1項)に付されることが多い
  • 改正前の第907条第3項(家庭裁判所の禁止審判)は令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)で削除され、第908条第4項第5項に移動
  • 第908条は令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)で5項構成:(1)遺言、(2)共同相続人の契約、(3)契約の更新、(4)家庭裁判所の審判、(5)審判の更新(いずれも5年以内・10年超不可)
  • 第906条:遺産分割の基準(種類・性質・年齢・職業・心身の状態・生活の状況その他一切の事情)
  • 第906条の2:遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の規律(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
  • 第904条の3:相続開始から10年経過後の遺産分割では、特別受益・寄与分の主張は原則できない(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
  • 第898条第2項:共有分割の場合の持分は法定相続分等(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・2023年4月1日施行)
  • 「相続させる」遺言は遺産分割の方法の指定と解される(最判平成3年(1991年)4月19日)
  • 遺産分割協議書には全員の署名・実印・印鑑証明書が必要

関連ガイド