02-12 · 相続・遺言 · 条文解説系

遺言執行者の権限と義務|選任方法・権限の範囲・平成30年改正のポイント

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う者です。遺言執行者は、遺言者(被相続人)の意思を実現するために選任され、相続財産の管理・遺産の引渡し・登記手続き等を行います。平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)により、遺言執行者の権限が大幅に明確化されました。この記事では、遺言執行者の選任方法・権限・義務・平成30年改正のポイントを解説します。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う者です。遺言執行者は、遺言者(被相続人)の意思を実現するために選任され、相続財産の管理・遺産の引渡し・登記手続き等を行います。平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)により、遺言執行者の権限が大幅に明確化されました。この記事では、遺言執行者の選任方法・権限・義務・平成30年改正のポイントを解説します。

カテゴリ:相続・遺言 / 種別:条文解説系
関連条文:(本法)民法第1006条・第1007条・第1009条・第1010条・第1011条・第1012条・第1013条・第1014条・第1015条・第1016条・第1019条

こんな方へ

  • 遺言に遺言執行者が指定されているが、何をする人か確認したい
  • 遺言執行者を選任したい場合の手続きを確認したい
  • 遺言執行者の権限・できること・できないことを整理したい
  • 相続人が遺言執行者の行為を妨害できるか確認したい
  • 平成30年改正で何が変わったか確認したい

この記事でわかること

  • 遺言執行者の法的立場と選任方法
  • 遺言執行者の主な権限(できること)
  • 遺言執行者の義務と相続人への通知義務
  • 相続人による妨害行為の効力(第1013条)
  • 平成30年改正による権限の明確化

結論:遺言執行者は「遺言の内容を実現する独立した権限を持つ者」

根拠条文:(本法)民法第1012条第1項(遺言執行者の権利義務) 根拠条文:(本法)民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)

項目内容
法的立場遺言の内容を実現するための独立した権限を持つ者(改正前旧第1015条の「相続人の代理人とみなす」規定は平成30年改正で削除
選任方法遺言による指定・遺言による指定の第三者への委託・家庭裁判所による選任
主な権限相続財産の管理・遺贈の履行・特定財産承継遺言の執行(対抗要件具備行為含む)
相続人の妨害遺言執行者がある場合の相続人の処分行為等は無効(ただし善意の第三者には対抗できない:第1013条)
平成30年改正権限の明確化(特定財産承継遺言・第三者への遺贈の執行・通知義務等)

重要: 改正前の旧第1015条は「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」と規定していましたが、平成30年改正でこの規定は削除され、改正後の現行第1015条は「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と整理されました

判断フロー:遺言執行者は必要か・選任できるか

この遺言について遺言執行者が必要か・どう選任するか?

遺言執行者が必要・有効な場面

  • 遺言で遺言執行者が指定されている
  • 認知・推定相続人の廃除等の遺言内容がある
  • 遺贈の履行が必要
  • 遺産の内容が複雑・争いが予想される

遺言執行者がいない場合の対応

  • 遺言に指定がない・指定された者が就任を拒絶した

遺言で指定された者は、就任を承認することで遺言執行者となります(民法第1006条第1項)。認知・推定相続人の廃除等は遺言執行者のみが実行できる権限であり、遺贈の履行も遺言執行者がいる場合は遺言執行者のみが行うことができます(民法第1012条第2項)。

遺言に指定がない場合や、指定された者が就任を拒絶した場合は、利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てることが可能です(民法第1010条)。

未成年者・破産者は遺言執行者になることができません(民法第1009条)。

遺言執行者の選任・就任の手続きは個別の事情によって異なるため、弁護士・司法書士への相談を推奨します。

① 遺言執行者の選任方法

遺言執行者は、遺言による指定または家庭裁判所による選任で決まります。

根拠条文:(本法)民法第1006条(遺言執行者の指定) 根拠条文:(本法)民法第1010条(遺言執行者の選任)

遺言による指定(第1006条第1項)

遺言者(被相続人)が遺言の中で遺言執行者を指定する方法です。1人または数人を指定でき、また指定を第三者に委託することもできます。

遺言執行者に指定された者は、就任を承諾するかどうかを選択できます(就任を拒絶することも可能です)。

家庭裁判所による選任(第1010条)

遺言執行者がない場合または遺言執行者がなくなった場合、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます。

遺言執行者になれない者(第1009条)

根拠条文:(本法)民法第1009条(遺言執行者の欠格事由)

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

これ以外の者(弁護士・司法書士・行政書士・受遺者・相続人等)は遺言執行者になることができます。

就任の通知義務(第1007条第2項・平成30年改正で新設)

根拠条文:(本法)民法第1007条(遺言執行者の任務の開始)

第1007条第1項により、遺言執行者は就任を承諾したときは直ちにその任務を行わなければならないとされ、第2項(平成30年改正で新設)により、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する義務が明文化されました。

② 遺言執行者の権限(できること)

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な範囲で一切の行為を行う権限を持ちます。

根拠条文:(本法)民法第1012条(遺言執行者の権利義務)

第1012条第1項:包括的な権利義務(平成30年改正で明確化)

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

→ 改正前は権限の範囲が不明確でしたが、改正により「遺言の内容を実現するため」の包括的権限が明確化されました。

第1012条第2項:遺贈の履行は遺言執行者のみ(平成30年改正で明確化)

遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

→ 受遺者は、遺言執行者がいる場合、相続人ではなく遺言執行者のみを相手方として遺贈の履行を求めることができます(最判昭和43年(1968年)5月31日民集22巻5号1137頁も同旨)。

主な権限

権限の種類内容根拠
相続財産の管理相続財産の調査・目録作成・保全第1012条第1項
遺贈の履行受遺者への遺贈の引渡し(遺言執行者のみが行う)第1012条第2項
認知・廃除の手続き遺言による認知(戸籍法第64条)・推定相続人の廃除(民法第893条)・廃除取消し(民法第894条第2項)の家庭裁判所への申立て民法第893条
特定財産承継遺言の対抗要件具備行為「相続させる」遺言があった場合の登記申請等第1014条第2項(平成30年改正で新設)
預貯金債権の払戻し・解約特定財産承継遺言の場合第1014条第3項(平成30年改正で新設)
訴訟行為相続財産に関する訴訟の当事者となること第1012条第3項民法第644条等準用)

特定財産承継遺言(「相続させる」遺言)における権限(第1014条・平成30年改正)

根拠条文:(本法)民法第1014条第2項(特定財産承継遺言の執行)

「特定の不動産をAに相続させる」という内容の遺言(特定財産承継遺言)について、遺言執行者は当該共同相続人が民法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為(登記申請等)を行うことができます(第1014条第2項)。

根拠条文:(本法)民法第1014条第3項(預貯金債権の払戻し・解約)

特定財産承継遺言の対象が預貯金債権である場合、遺言執行者は対抗要件具備行為に加え、払戻しの請求および契約の解約の申入れができます。ただし、解約の申入れについては、その預金又は貯金に係る契約の全部の解約の申入れをする場合に限る(同項ただし書)。

なお、遺言で別段の意思表示があるときはその意思に従う第1014条第4項)。

第1015条:遺言執行者の行為の効果(平成30年改正で大幅変更)

根拠条文:(本法)民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

改正前の旧第1015条「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」は平成30年改正で削除され、現行第1015条として上記内容に整理されました。改正により「相続人の代理人」という誤解を招く表現が排除され、遺言執行者は相続人の利益のためではなく、遺言の内容を実現するために職務を行えばよいことが明確化されました。

③ 遺言執行者の義務

遺言執行者は、相続人への通知・財産目録の作成・善管注意義務等の義務を負います。

主な義務

義務の種類内容根拠条文
任務開始義務就任を承諾したときは直ちに任務を行う民法第1007条第1項
通知義務任務開始時に遅滞なく相続人に遺言の内容を通知(平成30年改正で新設)民法第1007条第2項
財産目録の作成・交付遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付。相続人の請求があるときは立会い・公証人による作成民法第1011条第1項・第2項
善管注意義務善良な管理者の注意をもって職務を行う(委任の規定の準用)民法第1012条第3項民法第644条準用)
報告義務相続人の請求があるときに職務処理状況を報告民法第1012条第3項民法第645条準用)

④ 相続人による妨害の禁止(第1013条・平成30年改正)

遺言執行者がある場合、相続人は遺言の執行を妨害する行為をすることができません。違反行為は無効ですが、善意の第三者には対抗できません。

根拠条文:(本法)民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

第1013条第1項:妨害行為の禁止

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

第1013条第2項:違反行為の効力(平成30年改正で新設)

前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

→ 改正前は判例(最判昭和62年(1987年)4月23日民集41巻3号474頁)で「妨害行為は無効」とされていましたが、平成30年改正により「無効+善意の第三者に対抗できない」として明文化されました。善意の第三者(妨害行為を知らない者)は保護されますが、悪意の第三者(妨害行為を知っている者)には対抗できます。

第1013条第3項:相続人の債権者の権利行使(平成30年改正で新設)

前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

→ 相続人の債権者・相続債権者は、相続財産に対する強制執行等の権利行使を妨げられません。

⑤ 遺言執行者の復任権(第1016条・平成30年改正で原則自由化)

根拠条文:(本法)民法第1016条第1項(遺言執行者の復任権)

部分改正前改正後(平成30年改正・2019年7月1日施行)
第三者への任務委任やむを得ない事由がなければ復任不可遺言者が遺言で反対の意思を表示していた場合を除き、自己の責任で第三者に任務を行わせることができる

→ 改正により、復任は原則自由となりました。ただし遺言者が遺言で反対の意思表示をしていた場合は復任できません。

第三者に任務を行わせた場合の遺言執行者の責任は、原則として当該第三者の行為について責任を負うことになりますが、やむを得ない事由がある場合は選任・監督上の責任のみを負います(第1016条第2項)。

⑥ 遺言執行者の辞任・解任(第1019条)

遺言執行者は、正当な事由があれば家庭裁判所の許可を得て辞任できます。利害関係人は、正当な事由がある場合に解任を家庭裁判所に請求できます。

根拠条文:(本法)民法第1019条(遺言執行者の解任及び辞任)

第1019条第1項:解任

遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

利害関係人(相続人・受遺者・遺言者の債権者等)が、家庭裁判所に解任を請求できます。「正当な事由」としては、(1)任務懈怠、(2)病気・長期不在、(3)健康状態の悪化、(4)一部の相続人への加担・偏頗的取扱い、(5)相続財産の使い込み等が挙げられます。

第1019条第2項:辞任

遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

遺言執行者は、正当な事由(疾病・長期出張・職務能力の欠如等)がある場合に家庭裁判所の許可を得て辞任できます。一度就任した遺言執行者が一方的に辞任することは認められません。

⑦ 平成30年(2018年)相続法改正のポイント

平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)により、遺言執行者の権限が大幅に明確化されました。

根拠法:「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(、2018年7月13日公布、2019年7月1日施行)

主な改正内容

項目改正前改正後(2019年7月1日施行)
法的立場「相続人の代理人とみなす」(旧第1015条)削除。「権限内で遺言執行者であることを示した行為は相続人に対して直接効力を生ずる」(新第1015条)
包括的権限規定が不明確「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」を明文化(第1012条第1項)
通知義務不明確任務開始時に遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する義務を新設(第1007条第2項)
特定財産承継遺言の執行遺言執行者の権限が不明確(登記申請の権利義務なし)対抗要件を備える行為(登記等)を明文化(第1014条第2項)、預貯金の払戻し・解約も明文化(第1014条第3項)
妨害行為の効力判例上「無効」(最判昭和62年(1987年)4月23日)「無効+善意の第三者に対抗できない」と明文化(第1013条第2項)
復任権原則として禁止(やむを得ない事由が必要)遺言者の反対意思がない限り、自己の責任で復任可能(第1016条第1項)

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
(本法)第1006条民法中核遺言執行者の指定(遺言・第三者への委託)
(本法)第1007条民法中核任務の開始・通知義務(第2項:平成30年改正で新設)
(本法)第1009条民法周辺欠格事由(未成年者・破産者)
(本法)第1010条民法中核家庭裁判所による遺言執行者の選任
(本法)第1011条民法周辺財産目録の作成・交付義務
(本法)第1012条民法中核遺言執行者の権利義務(平成30年改正で大幅変更)
(本法)第1013条民法中核遺言執行妨害行為の禁止(第2項・第3項:平成30年改正で新設)
(本法)第1014条民法中核特定財産承継遺言の執行(第2項・第3項:平成30年改正で新設)
(本法)第1015条民法中核遺言執行者の行為の効果(平成30年改正で旧規定削除・新規定整理)
(本法)第1016条民法周辺復任権(平成30年改正で原則自由化)
(本法)第1019条第1項民法周辺遺言執行者の解任(利害関係人が家庭裁判所に請求)
(本法)第1019条第2項民法周辺遺言執行者の辞任(家庭裁判所の許可が必要)

まとめ

  • 遺言執行者は遺言の内容を実現する独立した権限者です(民法第1012条第1項
  • 改正前旧第1015条の「相続人の代理人とみなす」規定は平成30年改正で削除され、改正後の現行第1015条は「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」と整理されました
  • 選任方法は「遺言による指定」「指定を第三者に委託」「家庭裁判所による選任」です(第1006条・第1010条)
  • 未成年者・破産者は遺言執行者になれません(第1009条)
  • 任務開始時に遅滞なく相続人に遺言の内容を通知する義務があります(第1007条第2項・平成30年改正で新設)
  • 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる(第1012条第2項)
  • 特定財産承継遺言について、遺言執行者は対抗要件を備える行為(登記申請等)ができ(第1014条第2項)、預貯金の払戻し・解約もできる(第1014条第3項・全部が遺言の目的の場合に限る)
  • 遺言執行妨害行為は無効+善意の第三者に対抗できない(第1013条第2項・平成30年改正で明文化)
  • 復任は遺言者の反対意思がない限り原則自由(第1016条・平成30年改正で自由化)
  • 解任:利害関係人が家庭裁判所に請求(第1019条第1項
  • 辞任:家庭裁判所の許可が必要(第1019条第2項
  • 改正法は「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年(2018年)相続法改正・2019年7月1日施行

遺言執行者は相続財産に関する訴訟の当事者となる場合があります。遺言執行者の権限や行為の有効性は、遺言の内容・手続・第三者との関係を踏まえて判断されます。個別の事情によって異なるため、弁護士・司法書士への相談をおすすめします。

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