遺産分割協議を進めようとしたが、相続人の一人と連絡が取れない・所在が不明という状況は珍しくありません。相続人全員の合意なしには遺産分割協議は成立しないため、連絡が取れない相続人がいる場合は法的な対処が必要です。この記事では、相続人と連絡が取れない場合の調査方法・不在者財産管理人・失踪宣告制度を解説します。
カテゴリ:相続・遺言 / 種別:トラブル系
関連条文:(本法)民法第25条第1項・第28条・第30条第1項・第2項・第31条・第32条・第882条・第907条第1項・第2項・第908条/戸籍法第89条/家事事件手続法第145条・第148条
こんな方へ
- 遺産分割を進めたいが、相続人の一人と連絡が取れない
- 相続人の住所・所在が判明しないため遺産分割が進まない
- 失踪宣告と不在者財産管理人のどちらが適しているか確認したい
- 相続人が認知症等で判断能力に問題がある場合の対処を知りたい
この記事でわかること
- 相続人の所在調査方法(戸籍の附票・住民票等)
- 不在者財産管理人の選任申立てと権限外行為許可
- 失踪宣告の要件・効力と取消し
- 認定死亡との違い
- 認知症等の相続人がいる場合の対処(成年後見制度との関係)
結論:相続人全員の参加なしに遺産分割協議は成立しない。所在不明の相続人がいる場合は「不在者財産管理人」または「失踪宣告」の活用が主な選択肢
根拠条文:(本法)民法第907条第1項(遺産の分割の協議) 根拠条文:(本法)民法第25条第1項(不在者の財産の管理) 根拠条文:(本法)民法第30条(失踪の宣告)
| 状況 | 対処方法 | 主な根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続人の住所は判明しているが連絡がとれない | 郵便・内容証明等で連絡を試みる | — |
| 相続人の住所・所在が不明 | 戸籍・住民票等で調査後、不在者財産管理人の選任申立て | 民法第25条第1項 |
| 相続人が長期間(7年以上)生死不明 | 失踪宣告により法律上死亡とみなす | 民法第30条第1項・第31条 |
| 戦争・船舶沈没・震災等の危難で生死不明 | 危難失踪(特別失踪)の宣告 | 民法第30条第2項・第31条 |
| 災害等で死亡が確実視される場合 | 認定死亡(戸籍法第89条) | 戸籍法第89条 |
| 相続人が認知症等で意思能力がない | 成年後見人の選任が必要 | 民法第7条・第11条・第15条 |
重要: 連絡が取れないことを理由に、その相続人を除外して遺産分割協議を行った場合、その協議は無効となります(共同相続人全員の参加が必須:民法第907条第1項)。
判断フロー:どう対処するか
相続人と連絡が取れない場合、どう対処するか?
まずは所在調査を行う場面
- 戸籍の附票・住民票による現住所確認
- 親族・知人への聞き込み
- 海外在住者は外務省の在外公館経由の調査も検討
住所が判明している場合の連絡
- 郵便(書留・内容証明等)による連絡
- 受領拒否・不在で届かない場合は次の段階へ
各手続には数か月〜数年単位の時間と費用がかかります。所在調査の段階で判明するケースも多く、初動対応が重要です。判明しない場合は、不在者財産管理人(短期間生死不明)か失踪宣告(長期間生死不明)の選択になります。早期の対応が重要です。
① 相続人の調査方法
→ まずは法的手段で相続人の所在を調査します。連絡不能の段階で安易に「除外して協議」してしまうと、協議全体が無効になります。
戸籍の附票・住民票の請求
相続人は被相続人の相続手続のために、他の相続人の戸籍の附票(住民異動の記録)・住民票を請求できます(戸籍法第10条の2第1項、住民基本台帳法第12条の3)。これにより、現住所や異動先の確認が可能な場合があります。
戸籍をたどった調査
被相続人の戸籍から相続人を特定し、その相続人の戸籍・附票を取得することで、現住所や転居先を調査します。海外に転居している場合は、外務省の在外公館を通じた調査も検討できます。
調査段階で所在が判明するケースも多く、初動対応が重要です。
公示送達は使えないこと
公示送達(民事訴訟法第110条)は訴訟上の送達方法であり、遺産分割協議では使用できません。協議は当事者間の合意による行為であり、送達の概念は適用されません。所在不明の場合は、公示送達ではなく不在者財産管理人または失踪宣告による対応が必要です。
② 不在者財産管理人(民法第25条第1項)
→ 所在不明の相続人の財産を管理し、遺産分割協議に参加させるための制度です。
根拠条文:(本法)民法第25条第1項(不在者の財産の管理)
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
選任申立て
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立権者 | 利害関係人または検察官 |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地・居所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第145条) |
| 主な必要書類 | 申立書・不在者の戸籍謄本・戸籍附票・不在の事実を示す資料・財産目録・申立人の利害関係資料 |
| 費用 | 申立手数料(収入印紙)・郵便切手・予納金(数十万円〜100万円程度の場合がある) |
不在者財産管理人の権限と権限外行為許可(民法第28条)
不在者財産管理人の権限は、民法第27条〜第29条(不在者の財産管理人の規定)により定められます。
根拠条文:(本法)民法第28条(管理人の権限)
不在者財産管理人は、保存行為および利用・改良行為は単独で行えますが、処分行為(遺産分割協議への参加を含む)には家庭裁判所の権限外行為許可が必要です(民法第28条)。
遺産分割への参加
不在者財産管理人は、家庭裁判所の権限外行為許可(民法第28条)を得ることで、不在者に代わって遺産分割協議に参加できます。管理人の行為は不在者に帰属します。
権限外行為許可の審査では、遺産分割の内容の相当性(不在者の法定相続分以上の財産を確保する内容となっているか等)が審査されるため、不在者に不利な内容では許可が得られない場合があります。実務上は、不在者の法定相続分相当額の現金を留保するような内容で許可されるケースが多く見られます。
→ 不在者財産管理人の選任後も、遺産分割の成立までには一定の期間(数か月〜1年程度)を要します。
③ 失踪宣告(民法第30条・第31条)
→ 長期間生死不明の場合、失踪宣告により法律上死亡とみなすことができます。失踪宣告は強力な制度である一方、要件や手続が厳格で時間を要します。
根拠条文:(本法)民法第30条第1項(失踪の宣告・普通失踪)
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
根拠条文:(本法)民法第30条第2項(危難失踪・特別失踪)
戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
普通失踪と危難失踪(特別失踪)
| 種類 | 根拠条文 | 要件 | 死亡とみなされる時点 |
|---|---|---|---|
| 普通失踪 | 民法第30条第1項 | 不在者の生死が7年間不明 | 失踪期間(7年)が満了した時(民法第31条) |
| 危難失踪(特別失踪) | 民法第30条第2項 | 戦争・船舶の沈没・震災等の危難に遭遇後、危難が去って1年間生死不明 | 危難が去った時(民法第31条) |
申立権者の重要な違い:失踪宣告の申立権者は「利害関係人」のみであり、検察官は含まれません(民法第30条)。これは不在者財産管理人選任(民法第25条第1項)や相続財産清算人選任(民法第952条第1項)が「利害関係人または検察官」であるのと異なる点です。
失踪宣告の効力(民法第31条)
根拠条文:(本法)民法第31条(失踪の宣告の効力)
前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
→ 「死亡したものとみなす」(推定ではなく擬制)。宣告のあった日ではなく、上記の時点に遡って死亡の効果が発生します。これにより、相続が開始(民法第882条)し、配偶者との婚姻関係も終了します。
失踪宣告手続の概要
家事事件手続法第148条第3項により、家庭裁判所は以下を公告し、一定期間(普通失踪は3か月以上、危難失踪は1か月以上)が経過しなければ失踪宣告の審判ができません:
- 失踪宣告の申立てがあったこと
- 不在者は一定期間内に生存の届出をすべきこと
- 届出がないときは失踪宣告がされること
- 不在者の生死を知る者は届出をすべきこと
公告期間を含めると、申立てから審判確定までは6か月〜1年以上を要します。
失踪宣告の取消し(民法第32条)
根拠条文:(本法)民法第32条(失踪の宣告の取消し)
#### 第32条第1項:取消しの要件と善意行為の保護
失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
→ 善意でした行為(失踪宣告後・取消し前に、失踪者が生存していたことを知らずに行った行為)は、取消し後も影響を受けない。例えば、失踪宣告に基づき相続人が相続財産を売却した場合、売主・買主双方が善意であれば、取引は有効。
#### 第32条第2項:現存利益による返還
失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
→ 失踪宣告により相続人として財産を取得した者は、取消しにより現存利益(生活費・住宅ローン返済等の有用な使用の限度)でのみ返還義務を負います。遊興費等として消費したものは返還義務がありません(最判昭和25年(1950年)10月13日等)。
④ 認定死亡(戸籍法第89条)
→ 災害等で死亡が確実視される場合の制度であり、失踪宣告とは別の制度です。
根拠条文:(本法)戸籍法第89条
水難・火災・震災等で死亡が確実視されるが遺体が発見されない場合、取調べた官公署が死亡地の市町村長に死亡を報告することで、戸籍に死亡記載がなされます(認定死亡)。
失踪宣告との違い
| 項目 | 失踪宣告(民法第30条) | 認定死亡(戸籍法第89条) |
|---|---|---|
| 要件 | 7年間生死不明(普通失踪)等 | 災害等で死亡が確実視 |
| 法的効果 | 死亡とみなす(擬制) | 死亡したものと推定 |
| 取消し | 第32条による厳格な手続 | 反証により覆る |
| 手続 | 家庭裁判所の審判 | 取調官公署の報告 |
| 期間 | 公告等で6か月〜1年以上 | 比較的迅速 |
→ 認定死亡は「推定」であるため、後に生存していたことが判明すれば、特別の手続なしに記載が訂正されます。失踪宣告(みなす=擬制)よりも法的効力は弱いですが、災害等で迅速に対応できる利点があります。
⑤ 相続人が認知症等で意思能力がない場合
→ 相続人が認知症等で意思能力に問題がある場合は、成年後見人・保佐人・補助人の選任が必要です。
根拠条文:(本法)民法第7条(後見開始の審判) 根拠条文:(本法)民法第11条(保佐開始の審判) 根拠条文:(本法)民法第15条(補助開始の審判)
意思能力がない(または不十分な)相続人が遺産分割協議に参加するには、成年後見人等が代理して参加する必要があります。意思能力のない者が直接協議に参加した場合、その協議は無効となります。
なお、相続人と成年後見人が同一人物(親が亡くなり、認知症の母の成年後見人を子がしている場合等)で、両者が共同相続人となる場合、利益相反(民法第860条→第826条準用)となるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
→ 成年後見制度の詳細は 成年後見制度の種類と要件 を参照。
⑥ 遺産分割協議が成立しない場合の家庭裁判所への審判申立て
→ 共同相続人間で協議が調わない場合、家庭裁判所に分割を請求できます。
根拠条文:(本法)民法第907条第2項
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
不在者財産管理人や成年後見人が遺産分割協議に参加しても協議が調わない場合、第907条第2項により家庭裁判所への分割請求(遺産分割調停・審判)が可能です。
なお、令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割については、特別受益・寄与分の主張が原則としてできなくなりました(民法第904条の3)。長期化を防ぐため、早期の対応が重要です(02002 遺産分割協議書の作り方・02005 法定相続分との関係)。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第25条第1項 | 民法 | 中核 | 不在者の財産管理人の選任 |
| (本法)第28条 | 民法 | 中核 | 管理人の権限(権限外行為は家庭裁判所の許可が必要) |
| (本法)第30条第1項 | 民法 | 中核 | 普通失踪(7年間生死不明) |
| (本法)第30条第2項 | 民法 | 中核 | 危難失踪(危難から1年間生死不明) |
| (本法)第31条 | 民法 | 中核 | 失踪の宣告の効力(死亡とみなされる時点) |
| (本法)第32条 | 民法 | 中核 | 失踪の宣告の取消し(善意行為の保護・現存利益返還) |
| (本法)第882条 | 民法 | 周辺 | 相続開始の原因(失踪宣告による法律上の死亡を含む) |
| (本法)第907条第1項 | 民法 | 中核 | 遺産分割協議(共同相続人による) |
| (本法)第907条第2項 | 民法 | 中核 | 協議が調わない場合の家庭裁判所への請求 |
| (本法)第89条 | 戸籍法 | 周辺 | 認定死亡 |
| (本法)第145条 | 家事事件手続法 | 周辺 | 不在者財産管理人選任の管轄 |
| (本法)第148条 | 家事事件手続法 | 周辺 | 失踪宣告の手続(公告期間) |
まとめ
- 相続人全員の参加なしに遺産分割協議は成立しません(民法第907条第1項)。除外した場合、協議は無効となります
- まず戸籍の附票・住民票等で所在を調査
- 公示送達(民事訴訟法第110条)は訴訟上の手続であり、遺産分割協議では使えません
- 所在不明の場合は不在者財産管理人(民法第25条第1項)の選任申立て。利害関係人または検察官が申立て可能
- 不在者財産管理人が遺産分割に参加するには民法第28条による家庭裁判所の権限外行為許可が必要
- 生死が7年以上不明の場合は普通失踪(民法第30条第1項)の失踪宣告
- 戦争・船舶沈没・震災等の危難の場合は危難失踪(民法第30条第2項):危難が去って1年間生死不明
- 失踪宣告の申立権者は「利害関係人」のみ(検察官は含まれない)
- 失踪宣告により法律上死亡とみなされる時点:普通失踪は7年経過時、危難失踪は危難が去った時(民法第31条)
- 失踪宣告の取消し(民法第32条):善意でした行為は影響を受けない(第1項後段)、財産取得者は現存利益で返還義務(第2項)
- 認定死亡(戸籍法第89条)は失踪宣告とは別の制度(推定であり、迅速な対応が可能)
- 認知症等の相続人には成年後見人等の選任が必要(民法第7条・第11条・第15条)
- 各手続には数か月〜数年単位の時間と費用がかかるため、弁護士・司法書士への早期相談が重要です
どの手続を選択するかは、所在状況・経過期間・手続負担を踏まえて判断する必要があります。相続人の所在調査・不在者財産管理人・失踪宣告の手続は個別の事情によって異なるため、専門家への早期相談が重要です。