遺産分割協議が相続人間でまとまらない場合、家庭裁判所の調停または審判を利用することができます。感情的な対立・連絡拒否・特定の相続人の非協力等、話し合いで解決できないケースは少なくありません。遺産分割は家事事件手続法別表第二事件であり、調停前置主義は適用されないため、当事者は調停・審判のいずれの申立ても法律上可能です。ただし、実務上はほとんどのケースで家庭裁判所の判断により付調停に付されます。この記事では、遺産分割がまとまらない場合の対処方法・調停・審判の流れを解説します。
カテゴリ:相続・遺言 / 種別:トラブル系
関連条文:(本法)民法第258条・第258条の2・第903条・第904条の2・第904条の3・第907条第1項・第2項・第908条第2項~第5項/家事事件手続法第86条第1項・第191条第1項・第244条・第245条第1項・第272条第1項・第4項・第274条第1項・第284条
こんな方へ
- 相続人間で遺産分割の話し合いがまとまらない
- 調停と審判の違い・進め方を整理したい
- 調停を経ずに直接審判を申し立てられるか確認したい
- 調停・審判で考慮される事情(特別受益・寄与分・分割方法等)を整理したい
- 即時抗告等の不服申立ての手続を確認したい
この記事でわかること
- 遺産分割協議→調停→審判の流れと選択(調停前置主義は適用されない)
- 調停・審判それぞれの管轄裁判所
- 付調停の運用
- 遺産分割の方法(現物・換価・代償・共有)の根拠条文
- 令和3年(2021年)民法等の一部改正による10年経過後の特別受益・寄与分の主張制限
結論:遺産分割協議がまとまらない場合は調停または審判を申立て可能。実務上は調停から開始することが一般的
根拠条文:(本法)民法第907条第1項(遺産分割の協議) 根拠条文:(本法)民法第907条第2項(協議が調わない場合の家庭裁判所への請求)
| 段階 | 内容 | 決定方法 | 主な根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 協議 | 相続人全員による話し合い | 全員合意が必要 | 民法第907条第1項 |
| 調停 | 家庭裁判所の調停委員会が仲介 | 全員合意で成立(成立しなければ審判申立てがあったものとみなす) | 家事事件手続法第244条・第272条第4項 |
| 審判 | 家庭裁判所が分割方法を決定 | 裁判所が決定(不服なら2週間以内に即時抗告) | 民法第907条第2項、家事事件手続法第86条第1項 |
重要: 遺産分割は家事事件手続法別表第二事件(同法別表第二の12項)であり、調停前置主義(同法第257条第1項)は適用されません。したがって、当事者は調停・審判のいずれの申立ても法律上可能です。ただし、実務上は最初から審判を申し立てても、ほとんどのケースで家庭裁判所の判断により付調停(同法第274条第1項)に付され、まずは話し合いによる解決が図られます。
判断フロー:どの段階で何をするか
遺産分割がまとまらない場合、どう進めるか?
協議段階での対応
- 感情的対立があるが話せる場合は弁護士を代理人として交渉
- 特定の相続人が応じない・連絡不能の場合は調停または審判申立てへ
調停を申立てる場合
- 申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 調停委員会が双方の意見を聞いて調整
- 全員合意で調停成立(調停調書作成)
- 調停不成立の場合は調停申立ての時に審判申立てがあったものとみなす
調停・審判は申立てから解決まで1年以上、事案によっては数年単位となる場合もあります。令和3年(2021年)民法等の一部改正による10年経過後の主張制限(民法第904条の3)にも注意が必要です。早期の弁護士への依頼が重要です。
① 遺産分割協議(民法第907条第1項)
→ 遺産分割は、まず共同相続人による協議で行うのが原則です。
根拠条文:(本法)民法第907条第1項
共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託した場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
協議の要件
- 共同相続人全員の参加(一人でも欠けると協議は無効。02016「相続人と連絡が取れない場合」参照)
- 全員の合意(多数決ではなく合意制)
- 遺言による分割方法の指定や分割禁止特約がないこと(民法第908条第2項〜第5項)
分割禁止特約(民法第908条第2項〜第5項)
根拠条文:(本法)民法第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
被相続人の遺言により、または共同相続人の契約により、相続開始から5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止することができます(令和3年(2021年)民法等の一部改正により旧第907条第3項から第908条第2項〜第5項に移動:02002 v5・02016 v5 で整理済み)。
② 遺産分割調停
→ 調停は、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1名・調停委員2名以上)が中立的立場から双方の意見を聞き、合意形成を支援する手続です。
根拠条文:(本法)家事事件手続法第244条(家事調停の対象)
申立て方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(または相続人全員の合意で定めた裁判所):家事事件手続法第245条第1項 |
| 申立権者 | 共同相続人(一人でも申立て可能) |
| 費用 | 申立手数料(収入印紙1,200円)・郵便切手数千円程度 |
| 必要書類 | 申立書・被相続人の戸籍謄本・相続人全員の戸籍謄本・遺産目録・不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書等 |
調停の進め方
調停では、原則として当事者同士が直接対面しない形で進められます。調停期日(通常1〜2か月に1回程度)に相続人全員または代理人が出頭し、調停委員が当事者から個別に意見を聞きながら(交互面談方式)、分割方法の調整を行います。1回の期日は2〜3時間程度が一般的です。
調停成立・不成立
- 調停成立:全員合意により調停調書が作成されます。調停調書は確定判決と同一の効力を持ち、強制執行も可能です(家事事件手続法第268条第1項)
- 調停不成立:家事事件手続法第272条第1項により、当事者間に合意が成立する見込みがない場合、家事調停事件は終了します。
調停不成立時の審判への移行(家事事件手続法第272条第4項)
根拠条文:(本法)家事事件手続法第272条第4項
第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
→ 遺産分割は別表第二事件であるため、調停不成立時に「調停申立ての時に審判の申立てがあったものとみなす」ことになります。新たに申立書を提出する必要はありません。これは「自動移行」と説明される場合がありますが、法律上は「申立てがあったものとみなす」という擬制(時的遡及効果)です。
「調停前置主義」は遺産分割には適用されない
根拠条文:(本法)家事事件手続法第257条第1項(調停前置主義)
家事事件手続法第257条第1項の調停前置主義は、離婚・離縁等の人事訴訟事項について、訴え提起前に調停申立てを義務付けるものです。遺産分割は別表第二事件であり、調停前置主義の対象ではありません。当事者は最初から審判を申し立てることも法律上可能です(後述③)。
③ 遺産分割審判
→ 遺産分割審判は、家庭裁判所が遺産分割の方法を決定する手続です。最初から申立て可能ですが、実務上は付調停に付されることが多くあります。
根拠条文:(本法)民法第907条第2項
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
審判の管轄(家事事件手続法第191条第1項)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第191条第1項) |
| 調停との管轄の違い | 調停は相手方の住所地、審判は相続開始地 |
付調停(家事事件手続法第274条第1項)
根拠条文:(本法)家事事件手続法第274条第1項
家庭裁判所は、家事審判の申立てがあった場合において、いつでも、職権で、事件を家事調停に付することができる。
→ 当事者が直接審判を申し立てた場合でも、家庭裁判所は職権で付調停(家事審判事件を調停に付すこと)の決定をすることができ、ほとんどのケースで付調停がなされ、まずは話し合いによる解決が図られます。
遺産分割の方法
家庭裁判所は、当事者の主張・証拠・諸事情を考慮して、相当と認める方法で分割を決定します。審判の内容は必ずしも当事者の希望どおりになるとは限りません。主な分割方法は以下のとおりです:
| 方法 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 各相続人に具体的な財産を割り当てる | 原則的方法 |
| 換価分割 | 財産を売却して代金を分割する | 民法第258条の2第2項により第258条準用 |
| 代償分割 | 特定の相続人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う | 家庭裁判所の裁量 |
| 共有分割 | 財産を相続人間の共有とする | 民法第898条以下 |
主な考慮事項
④ 令和3年(2021年)民法等の一部改正による10年経過後の主張制限(民法第904条の3)
→ 令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益・寄与分の主張が原則できなくなりました。
根拠条文:(本法)民法第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
根拠法:「民法等の一部を改正する法律」(、2023年4月1日施行)により新設された規定です。
制限の内容
- 原則:相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益(第903条)・寄与分(第904条の2)の規定は適用されない
- 例外:
- 10年経過前に家庭裁判所に遺産分割の請求をした場合
- 10年経過前6か月以内にやむを得ない事由により家庭裁判所に分割請求をできなかった場合(事由消滅から6か月以内に請求すれば適用)
実務的影響
長期間放置された遺産分割は、特別受益・寄与分の主張ができないまま法定相続分による分割となるため、早期の協議・調停・審判の申立てが重要です。
⑤ 即時抗告(家事事件手続法第86条第1項)
→ 遺産分割審判に不服がある場合、即時抗告により高等裁判所での審理を受けることができます。
根拠条文:(本法)家事事件手続法第86条第1項
即時抗告は、特別の定めがある場合を除き、審判の告知を受ける者が審判の告知を受けた日(二以上の者が告知を受ける場合にあっては、最も遅くその告知を受けた者が告知を受けた日)から二週間の不変期間内にしなければならない。
→ 審判書の告知を受けた日から2週間以内(不変期間)に即時抗告。期間内に即時抗告がなければ審判が確定し、確定した審判は判決と同等の法的効力を持ちます。
⑥ 遺産分割がまとまらない主な原因と対処
| 原因 | 対処の方向性 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 感情的な対立・不信感 | 弁護士を代理人として間接交渉・調停申立て | — |
| 特定の相続人が協議に応じない | 調停申立て(出頭しなくても手続は進む。家事事件手続法第258条第1項により過料の制裁あり:第51条第1項・第3項準用) | 家事事件手続法第258条第1項 |
| 連絡先が不明 | 不在者財産管理人の選任申立て・失踪宣告(02016参照) | 民法第25条第1項・第30条 |
| 認知症等で意思能力がない | 成年後見人等の選任が必要(02013参照) | 民法第7条・第11条・第15条 |
| 財産の評価で意見が対立 | 不動産鑑定士等の専門家による評価・調停での調整 | — |
| 特別受益の主張対立 | 調停・審判での判断(証拠収集が重要) | 民法第903条 |
| 寄与分の主張対立 | 調停・審判での判断 | 民法第904条の2 |
| 遺言の有効性に争いがある | 遺言無効確認訴訟が必要(最判平成6年(1994年)10月13日により別途訴訟手続) | — |
| 相続開始から10年経過 | 特別受益・寄与分の主張不可(原則) | 民法第904条の3 |
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第258条 | 民法 | 周辺 | 裁判による共有物の分割(換価分割の根拠) |
| (本法)第258条の2 | 民法 | 周辺 | 遺産分割の方法(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設) |
| (本法)第903条 | 民法 | 中核 | 特別受益者の相続分 |
| (本法)第904条の2 | 民法 | 中核 | 寄与分 |
| (本法)第904条の3 | 民法 | 中核 | 期間経過後の遺産の分割における相続分(令和3年(2021年)民法等の一部改正で新設・10年経過後の制限) |
| (本法)第907条第1項 | 民法 | 中核 | 遺産分割協議(共同相続人による) |
| (本法)第907条第2項 | 民法 | 中核 | 協議が調わない場合の家庭裁判所への請求 |
| (本法)第908条第2項〜第5項 | 民法 | 周辺 | 分割禁止特約(令和3年(2021年)民法等の一部改正で旧第907条第3項から移動) |
| (本法)第86条第1項 | 家事事件手続法 | 中核 | 即時抗告の期間(2週間) |
| (本法)第191条第1項 | 家事事件手続法 | 中核 | 遺産分割審判の管轄(相続開始地) |
| (本法)第244条 | 家事事件手続法 | 中核 | 家事調停の対象 |
| (本法)第245条第1項 | 家事事件手続法 | 中核 | 家事調停の管轄(相手方の住所地・合意管轄) |
| (本法)第257条第1項 | 家事事件手続法 | 周辺 | 調停前置主義(遺産分割は対象外) |
| (本法)第272条第1項・第4項 | 家事事件手続法 | 中核 | 調停不成立・別表第二事件の擬制 |
| (本法)第274条第1項 | 家事事件手続法 | 中核 | 付調停(審判から調停への移行) |
まとめ
- 遺産分割協議は共同相続人全員の合意で成立(民法第907条第1項)
- 遺産分割は家事事件手続法別表第二事件であり、調停前置主義(同法第257条第1項)は適用されない。当事者は調停・審判のいずれの申立ても可能
- ただし、実務上は審判申立て後に付調停(同法第274条第1項)に付されることが多く、まず調停で話し合いが図られる
- 調停の管轄:相手方の住所地(同法第245条第1項)
- 審判の管轄:相続開始地(同法第191条第1項)
- 調停不成立の場合、家事調停の申立ての時に審判の申立てがあったものとみなす(同法第272条第4項)
- 調停成立により作成される調停調書は確定判決と同一の効力を持つ
- 審判では現物分割・換価分割・代償分割・共有分割から選択
- 特別受益(民法第903条)・寄与分(民法第904条の2)の主張対立が主要争点
- 令和3年(2021年)民法等の一部改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、特別受益・寄与分の主張が原則できなくなった(民法第904条の3)
- 審判に不服がある場合は審判書の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告(家事事件手続法第86条第1項)
- 調停・審判は1年以上、事案によっては数年単位となる場合があるため、早期の弁護士・司法書士への相談が重要