02-06 · 相続・遺言 · 要件系

遺留分とは何か|割合・侵害された場合の請求と時効

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の相続割合です。遺言によっても遺留分を完全に排除することはできず、侵害された場合には遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使して金銭の支払いを求めることができます。この記事では、遺留分の割合・請求の手順・時効を条文とともに解説します。

こんな方へ

  • 遺言で自分への相続分が少なすぎると感じている
  • 遺留分がいくらになるか計算したい
  • 遺留分侵害額請求の手順と期限を確認したい
  • 遺言書を作成する際に遺留分を考慮したい
  • 特定の相続人に遺留分がないケースを確認したい

この記事でわかること

  • 遺留分とは何か(定義と法的根拠)
  • 遺留分権利者(誰が請求できるか)
  • 遺留分の割合(総体的遺留分・個別的遺留分)
  • 遺留分侵害額の計算方法
  • 請求の手順と時効
  • 遺留分を考慮した遺言書の作り方

結論:遺留分は「一定の相続人に保障された最低限の相続割合」であり、遺言でも奪えない

遺留分は、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母等)に保障された相続財産の一定割合です。遺言によっても遺留分を完全に排除することはできず、侵害された場合には遺留分侵害額請求権を行使して原則として金銭による解決が図られます。

根拠条文:(本法)民法第1042条第1項(遺留分の帰属及びその割合)

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
相続人の構成総体的遺留分の割合各人の個別的遺留分の割合
直系尊属のみが相続人相続財産の1/3直系尊属の人数で等分
それ以外(配偶者・子等が含まれる場合)相続財産の1/2法定相続分×1/2

遺留分がない相続人: 兄弟姉妹・甥姪には遺留分がありません(民法第1042条第1項柱書「兄弟姉妹以外の相続人」)。

今すぐやること

  1. 遺留分権利者かどうかを確認する(配偶者・子・直系尊属のみ。兄弟姉妹は対象外)
  2. 遺留分の割合を計算する(下記「遺留分の計算」参照)
  3. 時効に注意する(遺留分侵害を知った日から1年・相続開始から10年)
  4. まず相手方に請求の意思表示を行う(内容証明郵便等)
  5. 争いが生じた場合は調停・訴訟を検討する

判断フロー①:遺留分を請求できるか

自分は遺留分権利者か?

遺留分権利者(請求できる)

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の子・孫等(代襲相続人を含む)
  • 被相続人の直系尊属(子がいない場合)

遺留分権利者でない(請求できない)

  • 被相続人の兄弟姉妹・甥姪
  • 相続放棄した者
  • 遺留分を事前に放棄した者(家庭裁判所の許可を得た場合)
  • 相続欠格者・廃除された者

相続欠格(民法第891条)・廃除(民法第892条)に該当する者も、相続権そのものを失うため遺留分を主張できません。代襲相続人は被代襲者の遺留分を引き継ぎます(民法第1042条第1項柱書第887条第2項・第3項)。

判断フロー②:遺留分侵害額請求ができるか

遺留分が侵害されているか?

侵害されている可能性がある

  • 遺言により自分の取り分が遺留分の額を下回っている
  • 被相続人が生前に特定の相手方に多額の贈与を行った

期間制限に注意

  • 「知った時」から1年未満かつ相続開始から10年未満(行使可能性あり)
  • 「知った時」から1年経過(短期消滅時効が完成している可能性あり)
  • 相続開始から10年経過(長期期間制限により形成権消滅の可能性あり)

「知った日」とは、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことの両方を知った日とされています。正確な時効の起算点は個別の事実関係によるため、早期に専門家へ相談することを推奨します。

① 遺留分権利者と遺留分の割合

遺留分を持つのは配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属に限られます。

根拠条文:(本法)民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)

総体的遺留分と個別的遺留分(第1042条第1項・第2項)

概念意味根拠条文
総体的遺留分遺留分権利者全体に帰属する遺留分の割合(相続財産に対する割合)第1042条第1項
個別的遺留分各遺留分権利者が個別に有する遺留分の割合第1042条第2項(総体的遺留分×法定相続分)

遺留分の割合(具体例)

パターン1:配偶者と子が相続人の場合

相続人法定相続分個別的遺留分
配偶者1/21/4(総体的遺留分1/2×法定相続分1/2)
子1人1/21/4(総体的遺留分1/2×法定相続分1/2)
子2人(各)各1/4各1/8(総体的遺留分1/2×法定相続分1/4)

パターン2:配偶者のみが相続人の場合

相続人法定相続分個別的遺留分
配偶者全部1/2(総体的遺留分1/2)

パターン3:直系尊属のみが相続人の場合(子がいない・配偶者もいない)

相続人法定相続分個別的遺留分
父母2人(各)各1/2各1/6(総体的遺留分1/3×法定相続分1/2)

② 遺留分算定の基礎となる財産

遺留分の計算は、相続財産に一定の生前贈与を加算した額を基礎とします。

根拠条文:(本法)民法第1043条(遺留分を算定するための財産の価額) 根拠条文:(本法)民法第1044条(贈与の加算)

算定の基礎となる財産

遺留分算定の基礎財産
= 相続開始時の積極財産(プラスの財産)
 + 一定期間内の生前贈与
 - 相続債務(マイナスの財産)

加算される贈与の範囲(第1044条)

贈与の種類加算される範囲根拠条文
相続人以外(第三者)に対する贈与相続開始前1年以内のもの第1044条第1項本文
相続人に対する贈与相続開始前10年以内のもの(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限る=特別受益に当たる贈与)第1044条第3項(第1項の特則)
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与期間制限なし第1044条第1項後段

→ 相続人に対する贈与の10年制限は、平成30年(2018年)相続法改正で新設されました。改正前は判例(最判平成10年3月24日)により無制限の加算が認められていましたが、改正により原則10年以内に制限されることになりました。

注意: 贈与の加算範囲は複雑で、個別の事情によって判断が変わります。計算については専門家への相談を推奨します。

③ 遺留分侵害額請求権

遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は相手方に金銭の支払いを請求することができます。

根拠条文:(本法)民法第1046条(遺留分侵害額の請求)

平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)により、遺留分制度は「現物返還」から「金銭請求」へと変更されました。

改正前(〜2019年6月30日)改正後(2019年7月1日〜)
遺留分減殺請求権(旧第1031条)遺留分侵害額請求権(新第1046条)
遺贈・贈与の一部を取り消して現物で取り戻す相手方に金銭の支払いを求める
物権的効力(共有関係が発生)金銭債権(金額の支払請求)

遺留分侵害額の計算方法(第1046条第2項)

第1046条第2項は、遺留分侵害額の計算式を以下のように定めています。

遺留分侵害額 = 遺留分
       -(遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の価額:第1号)
       -(遺留分権利者が取得すべき遺産の価額:第2号)
       +(遺留分権利者が承継する相続債務の額:第3号)

つまり、遺留分権利者が既に受け取った遺贈・特別受益や、遺産分割で取得すべき遺産は控除し、承継する相続債務分は加算する形で計算されます。

請求の対象となる遺贈・贈与

第1046条第1項括弧書により、「特定財産承継遺言」(いわゆる「相続させる」旨の遺言)により財産を承継し、または相続分の指定を受けた相続人も、遺留分侵害額請求の対象となる「受遺者」に含まれることが明文化されました(平成30年(2018年)相続法改正)。

受遺者・受贈者の負担額(第1047条第1項)

根拠条文:(本法)民法第1047条(受遺者又は受贈者の負担額)

複数の受遺者・受贈者がいる場合、第1047条第1項は以下の優先順位を定めています。

順位規律根拠
第1号受遺者と受贈者がいる場合は、受遺者が先に負担する第1047条第1項第1号
第2号受遺者間および同時の受贈者間は、目的の価額の割合に応じて負担。ただし、遺言で別段の意思表示があるときはその意思に従う第1047条第1項第2号
第3号複数の受贈者がいる場合は、新しい贈与から順に負担第1047条第1項第3号

④ 遺留分侵害額請求の手順

まず相手方への意思表示を行い、合意できなければ調停・訴訟を検討します。

Step 1:意思表示(時効の完成猶予)

遺留分侵害額請求権は形成権であり、請求の意思表示により権利が行使されて金銭債権が発生します。期間制限(1年・10年)の経過前に意思表示を行うことが必要であり、まず内容証明郵便で請求の意思表示を行うことが実務上推奨されます。

なお、形成権としての遺留分侵害額請求権の期間制限(1年・10年)と、行使によって発生した金銭債権の消滅時効(一般債権:民法第166条)は別個の問題です。金銭債権発生後は、催告民法第150条による6ヶ月の完成猶予)や訴訟提起民法第147条による完成猶予・更新)等による時効管理が必要となります。

Step 2:協議・交渉

相手方との任意の交渉により解決する場合があります。実務上は、金銭の支払いに代えて不動産や株式等の名義移転で和解することも可能です。

Step 3:調停・訴訟

協議がまとまらない場合の手続きとして、家庭裁判所での調停を利用することもありますが、遺留分侵害額請求は地方裁判所の訴訟で解決されることも多い手続きです。調停前置(訴訟前に必ず調停を経ること)は義務とされていません。

調停の管轄:相手方の住所地の家庭裁判所(家事事件手続法第3条の13第1項第2号) 訴訟の管轄:被相続人の最後の住所地の地方裁判所(民事訴訟法第5条第14号)

⑤ 時効

遺留分侵害額請求権には短期の時効があります。1年という短期間のため、対応が遅れると権利行使が困難になる可能性があります。早期の対応が重要です。

根拠条文:(本法)民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

時効の種類起算点時効期間
短期消滅時効遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時1年
長期消滅時効(除斥期間)相続開始の時10年

どちらか早い方で時効(または除斥期間)が完成します。

「知った時」の意味: 相続の開始(被相続人の死亡)と、遺留分を侵害する贈与・遺贈の存在の両方を知った時とされています。遺言書の内容を知った日が起算点となることが多いとされていますが、個別の事実関係によって判断が異なります。

時効が迫っている場合は、まず内容証明郵便で請求の意思表示を行うことで時効の完成を阻止することが重要です。

⑥ 遺留分の事前放棄

相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄できます。

根拠条文:(本法)民法第1049条(遺留分の放棄)

相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得ることで有効とされます(同条第1項)。書面による合意だけでは遺留分の事前放棄としての効力は認められません。

家庭裁判所の判断要素(実務)

家庭裁判所は、遺留分放棄の許可審判において、以下の要素を総合的に考慮して判断するとされています。

  • 遺留分放棄が自由意思によるものか
  • 放棄に合理的な理由があるか
  • 放棄に対する代償(生前贈与等)の有無

相続開始の遺留分の放棄(侵害額請求権を行使しないこと)は、権利者が自由に選択でき、家庭裁判所の許可は不要です。

なお、共同相続人の一人が遺留分を放棄しても、他の共同相続人の遺留分には影響しません(同条第2項)。

⑦ 遺言書作成時の遺留分への対応

遺言書を作成する場合は、遺留分を侵害しない内容にすることが紛争防止の観点から重要です。

遺言によって遺留分を侵害すること自体は法律上可能ですが、侵害された遺留分権利者から請求を受ける可能性があります。

紛争防止のポイント

  • 各相続人の遺留分の割合を事前に計算する
  • 遺留分に相当する財産を確保した分割内容にする
  • やむを得ず遺留分を下回る場合は、付言事項(遺言書の補足説明)に理由を記載する
  • 生命保険・生前贈与等を活用して遺留分に相当する財産を別途確保する
  • 婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の遺贈・贈与は、原則として持戻し免除が推定される(民法第903条第4項:平成30年(2018年)相続法改正で新設)が、遺留分の計算では考慮されることに注意

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
(本法)第1042条第1項民法中核総体的遺留分(直系尊属のみ1/3、それ以外1/2)・兄弟姉妹は遺留分なし
(本法)第1042条第2項民法中核個別的遺留分(総体的遺留分×法定相続分)
(本法)第1043条民法中核遺留分算定の基礎となる財産の価額
(本法)第1044条第1項民法中核第三者への贈与の加算(相続開始前1年以内、損害を知って加算した場合は無制限)
(本法)第1044条第3項民法中核相続人への贈与の加算(相続開始前10年以内・特別受益に当たる贈与に限る・平成30年(2018年)相続法改正で新設)
(本法)第1046条第1項民法中核遺留分侵害額請求権(金銭請求権・「相続させる」遺言を受けた相続人も対象)
(本法)第1046条第2項民法中核遺留分侵害額の計算式(遺留分−受遺価額・特別受益−取得相続分+承継債務)
(本法)第1047条第1項民法周辺受遺者・受贈者の負担額(受遺者→受贈者→新しい贈与から順)
(本法)第1048条民法中核遺留分侵害額請求権の期間制限(1年・10年)
(本法)第1049条民法周辺遺留分の放棄(相続開始前の放棄は家裁許可が必要)

まとめ

  • 遺留分は配偶者・子・直系尊属に保障された最低限の相続割合。兄弟姉妹には遺留分がない(民法第1042条第1項柱書
  • 総体的遺留分は直系尊属のみの場合は1/3・それ以外は1/2(第1042条第1項)
  • 個別的遺留分は総体的遺留分×各相続人の法定相続分(第1042条第2項)
  • 遺留分算定の基礎財産には一定期間内の生前贈与が加算される(第三者への1年以内相続人への10年以内損害を知って贈与した場合は無制限:第1044条)
  • 相続人への贈与の10年制限は平成30年(2018年)相続法改正で新設された規定
  • 平成30年(2018年)相続法改正(2019年7月1日施行)により遺留分制度は現物返還から金銭請求(遺留分侵害額請求権)に変更(第1046条)
  • 相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)も遺留分侵害額請求の対象であることが明文化(第1046条第1項括弧書・平成30年(2018年)相続法改正)
  • 受遺者・受贈者が複数いる場合の負担順位は受遺者→受贈者→新しい贈与から順(第1047条第1項)
  • 時効は遺留分侵害を知った日から1年・相続開始から10年のいずれか早い方(第1048条)
  • 時効が迫っている場合はまず内容証明郵便で請求の意思表示を行い、時効の完成を阻止することが重要
  • 相続開始前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要(第1049条第1項)

遺留分侵害額の計算や請求手続きは個別の事情により判断が大きく異なるため、弁護士への相談をおすすめします。

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