02-03 · 相続・遺言 · 手続系

公正証書遺言の必要書類|手続きの流れと費用は?

公正証書遺言は、無効リスクが低く確実に残せる遺言方法です。ただし、証人や書類の準備が必要です。手続きはやや複雑になる傾向があります。この記事では、必要書類・証人・手続き・費用をまとめて解説します。

こんな方へ

  • 遺言書を作りたいが、無効になるのが不安
  • 公証役場での手続きが初めてで何を準備すればいいかわからない
  • 費用や証人の手配方法を知りたい
  • 自筆証書遺言との違いを確認したい

この記事でわかること

  • 公正証書遺言に必要な書類
  • 証人の要件と手配方法
  • 公証役場での手続きの流れ
  • 費用の目安(2025年10月1日改正後の新料金)
  • 自筆証書遺言との違い
  • 根拠条文

結論:公正証書遺言は「書類・証人・公証役場」の3点セット

公正証書遺言を作成するには、必要書類を揃え、作成時には証人2名の立会いが必要です。事前に公証役場と内容を調整したうえで、作成当日に遺言者・証人・公証人が揃って手続きを行います。

根拠条文:(本法)民法第969条(公正証書遺言)

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。
3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。

条文の読み方: 民法第969条は、公正証書遺言の方式として「証人2名以上の立会い」と「遺言者の口授」の2つの中核要件を定めたうえで、具体的な作成手続(筆記方法・読み聞かせ・署名押印・公証人の付記等)は公証人法に委ねる構造となっています(第2項)。証人の欠格事由は民法第974条が別建てで定めるため、公証人法第35条第3項の証人欠格は適用除外とされています(第3項括弧書)。

実務上の注意: 条文では「口授」とありますが、実務上は事前に公証人と内容を打ち合わせて文案を作成します。当日は確認と形式的な口授を行う流れが一般的です(最判昭43.12.20民集22巻13号3017頁も同様の運用を認めています)。

今すぐやること

  1. 財産の内容と相続させたい相手を整理する(事前に公証役場へ相談可能)
  2. 証人2名を手配する(欠格者でないか要確認)
  3. 必要書類を収集する(下記一覧を参照)
  4. 公証役場に予約を入れる(事前相談から作成まで通常2〜4週間)

判断フロー①:証人を誰に頼むか

この人物を証人として依頼できるか?

証人になれる

  • 成年である
  • 推定相続人・受遺者・その配偶者・直系血族でない
  • 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人でない

証人になれない(欠格)

  • 未成年者
  • 推定相続人・受遺者・その配偶者・直系血族
  • 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人

欠格者が証人として関与すると方式違反となり遺言が無効と判断されるリスクが高くなります。候補者が決まったら手配前に必ず要件を確認してください。候補者がいない場合は公証役場や司法書士・行政書士へ相談するとよいでしょう。

判断フロー②:どの公証役場に行くか

遺言者は公証役場へ自ら出向けるか?

出向ける場合

  • 公証役場に出向ける(住所地・勤務地・財産所在地のいずれの管轄でも可)

出向けない場合

  • 体が不自由で公証役場に行けない
  • 入院中・施設入居中

出張の場合は通常の手数料に加えて出張費が加算されます。事前に公証役場へ連絡・確認してください。

必要書類一覧

遺言者の本人確認書類と、財産・相続人を証明する書類が中心です。

■ 最低限必要な書類

書類備考
遺言者の本人確認書類実印+印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内)、または顔写真付き身分証明書+認印
遺言者の戸籍謄本相続人との関係を証明するため
相続人の戸籍謄本通常は相続関係の確認のために提出を求められるが、内容により省略される場合もある
証人の本人確認書類運転免許証等・住所・氏名・生年月日がわかるもの

■ 財産の内容によって必要な書類

財産の種類必要書類
不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書
預貯金通帳のコピー等(金融機関名・口座番号がわかるもの)
有価証券証券会社の口座情報がわかるもの
その他財産内容に応じて公証役場に確認

■ 受遺者が相続人以外の場合

書類備考
受遺者の住民票等住所・氏名を確認できる書類

※必要書類は内容・公証役場によって異なる場合があります。事前に公証役場へ確認することを強くおすすめします。なお、本人確認の根拠は公証人法第28条(嘱託人の本人確認義務)、代理嘱託の根拠は公証人法第32条にあります。

証人の要件

⚠ 証人選びを間違えると、遺言全体が無効となる可能性が高いです。

根拠条文:(本法)民法第974条(証人・立会人の欠格事由)

証人になれない人:

  • 未成年者
  • 推定相続人(法定相続人となる予定の者)
  • 受遺者(遺言によって財産を受け取る予定の人)
  • 上記の配偶者および直系血族
  • 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人

証人が1人でも欠格者だった場合、方式違反として遺言が無効となる可能性が高くなります。候補者が要件を満たしているか、手配前に必ず確認してください。

なお、最判平13.3.27(判時1745号92頁、判タ1058号105頁)は「民法所定の証人が立ち会っている以上、証人になれない者が同席していたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず、同遺言は無効でない」と判示しており、欠格者の同席自体ではなく欠格者を「証人」として扱ったか否かが問題となります。

口がきけない者・耳が聞こえない者の特則(民法第969条の2

言語機能や聴覚に障害がある場合でも、公正証書遺言を作成することができます。

根拠条文:(本法)民法第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)

第969条の2は、聴覚・言語機能障害者が公正証書遺言を作成できるよう、平成11年(2000年)改正で新設された規定です。

主な内容は以下のとおりです(具体的な方式の詳細は条文を参照してください):

  • 口がきけない者:遺言者が通訳人の通訳による申述または自書によって、第969条第1項第2号の口授に代えることができる。
  • 遺言者または証人が耳が聞こえない者である場合:公証人の作成内容を通訳人の通訳によって遺言者または証人に伝える方法によることができる。
  • 公証人は、上記の方式に従って公正証書を作成したときは、その旨を証書に付記しなければならない。

なお、公正証書遺言の作成手続については、2025年10月施行の改正により、民法第969条および公証人法が大幅に改正されました。これに伴い、公証人法第37条第2項でウェブ会議方式(映像と音声の送受信による方法)による公正証書作成が新設されたほか、公証人法第40条で電磁的記録による公正証書の作成・列席者の承認・電子署名等の規律が整備されています(事業に係る債務の保証契約に関する公正証書〔民法第465条の6第1項等〕は適用除外・公証人法第37条第3項)。

手続きの流れ

予約から完成まで、通常2〜4週間かかります。

  1. 公証役場に相談・予約

財産内容や相続の希望を伝える。遺言の下書きを持参すると進めやすい。

  1. 公証役場との内容調整

公証人が遺言書の文案を作成。内容の確認・修正を行う。公証人は法令に違反した事項・無効な法律行為等についての証書作成は禁止されている(公証人法第26条:適法性審査義務)ため、内容に疑義がある場合は調整が必要となる。

  1. 必要書類の収集

上記の書類一覧を参照して準備する。

  1. 公証役場で作成手続

遺言者・証人2名・公証人が揃って手続きを行う。具体的には、(1) 公証人が遺言者の口授を聴取・記録し(公証人法第37条第1項)、(2) 公証人が作成した公正証書を列席者に読み聞かせまたは閲覧させ、列席者から記載・記録の正確性についての承認を得る(公証人法第40条第1項)。承認を得たうえで、書面の場合は列席者が署名・押印、電磁的記録の場合は電子署名等を行う(公証人法第40条第4項・第5項)。

  1. 公正証書遺言の完成

原本は公証役場(令和7年10月以降は日本公証人連合会のシステム)で保管される。正本・謄本(紙または電子データ)が遺言者に交付される。

公証人の職務の根拠

根拠条文:(本法)公証人法第1条(公証人の権限) 公証人は、当事者その他の関係人の嘱託により、(1) 法律行為その他私権に関する事実につき公正証書を作成すること、(2) 私署証書に認証を与えること、(3) 定款に認証を与えること、(4) 電磁的記録に認証を与えること、を行う権限を有する。

根拠条文:(本法)公証人法第26条(適法性審査義務) 公証人は、法令に違反した事項、無効の法律行為、および行為能力の制限により取り消すことができる法律行為について証書を作成することができない(公証人の作成禁止事項・適法性審査義務)。

根拠条文:(本法)公証人法第37条(公正証書の記載又は記録の方法) 公証人は、公正証書を作成するには、その聴取した陳述、その目撃した状況その他の自己の実験した事実及びその実験の方法を記載し、または記録しなければならない(第1項)。嘱託人からの申出があり相当と認めるときは、ウェブ会議方式(映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法)によることができる(第2項。ただし民法第465条の6第1項等の事業保証契約の公正証書は除く・第3項)。

根拠条文:(本法)公証人法第40条(公正証書の記載又は記録の正確なことの承認等) 公証人は、作成した公正証書を列席者に読み聞かせまたは閲覧させ、記載・記録の正確性についての承認を得なければならない(第1項)。承認を得たときは、その旨を公正証書に記載・記録し、書面の場合は署名・押印、電磁的記録の場合は法務省令で定める電子的措置を講じる(第4項)。列席者は、書面の場合は署名、電磁的記録の場合は法務省令で定める代替措置を講じる(第5項)。

根拠条文:(本法)公証人法第49条(遺言公正証書の特例) 公証人は、公証人法第18条第2項本文(役場執務原則)の規定にかかわらず、その役場以外の場所において、民法第969条から第970条まで及び第972条に規定する遺言に係る職務を行うことができる(出張公証の根拠)。

費用の目安(2025年10月1日改正後)

総額で数万円〜10万円前後が目安です。財産の額によって変わります。

公証人手数料は財産の価額に応じて法定されており(公証人手数料令第9条・別表)、2025年10月1日から改正後の新料金が施行されています(約25年ぶりの改定)。以下は改正後の新料金です。

目的の価額(財産の価額)手数料
50万円以下3,000円(新設枠)
100万円以下5,000円
200万円以下7,000円
500万円以下13,000円
1,000万円以下20,000円
3,000万円以下26,000円
5,000万円以下32,000円
1億円以下49,000円

遺言加算(公証人手数料令第19条:1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円以下の場合は、上記基本手数料に13,000円を加算(改正前は11,000円)。

正本・謄本の作成費用

  • 紙で発行する場合:1枚につき300円(改正前は250円)
  • 電子データで発行する場合:各1通あたり2,500円(新設)
  • 法律行為に係る証書作成において、紙の枚数が法務省令で定める計算方法により3枚を超える場合は、超える1枚ごとに300円を加算

出張費(公証人が病院・自宅等に出張する場合)

  • 遺言加算を除いた目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料となる場合がある(病床執務加算)
  • 公証人の日当:1日2万円(4時間以内は1万円)
  • 旅費(実費)

目的価額の算定方法:遺言は、相続人・受遺者ごとに別個の法律行為として扱われ、各人ごとに財産の価額により手数料を算定し、その合計額が1通の遺言公正証書全体の手数料となります(日本公証人連合会の実務運用)。

自筆証書遺言との比較

どちらにも一長一短があります。目的に応じて選択してください。

根拠条文:(本法)民法第968条(自筆証書遺言の方式)

項目公正証書遺言自筆証書遺言
作成方法公証役場で公証人が作成遺言者が全文自筆で作成(財産目録は別紙でパソコン作成可)
費用数万円〜原則無料(法務局保管制度の利用は1件3,900円)
証人2名必要不要
無効リスク低い方式不備で無効になりやすい
検認(家庭裁判所)不要必要(法務局保管制度を利用した場合は不要
原本の保管公証役場(または日本公証人連合会のシステム)遺言者または法務局
紛失・改ざんリスクほぼなしあり(法務局保管制度利用時を除く)

なお、自筆証書遺言の保管制度は、法務局における遺言書の保管等に関する法律(2020年7月10日施行)に基づく制度で、法務局(遺言書保管所)が原本を保管します。保管制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きが不要となります。

自筆証書遺言の方式・要件は 自筆証書遺言の有効要件 で解説しています。

遺言能力について

遺言をする時点で意思能力(遺言能力)が必要です。具体的には、遺言の内容を理解し、その法的結果を判断できる能力が求められます。

根拠条文:(本法)民法第963条(遺言能力)

認知症が進行している場合でも、遺言作成時点で遺言能力があれば有効とされる場合があります。ただし判断が難しいケースも多く、早めの対応が重要です。

根拠条文:(本法)民法第973条(成年被後見人の遺言)

成年後見人が付いている場合は、医師2名以上の立会いなど別途要件があります。

このテーマで使う条文一覧

このテーマは以下の条文で構成されています。

条文法令区分内容
(本法)第969条民法中核公正証書遺言(証人2名以上の立会い・口授の2号要件+公証人法準用)
(本法)第969条の2民法中核公正証書遺言の方式の特則(口がきけない者・耳が聞こえない者)
(本法)第974条民法中核証人・立会人の欠格事由
(本法)第963条民法周辺遺言能力の要件
(本法)第973条民法周辺成年被後見人の遺言要件
(本法)第968条民法周辺自筆証書遺言の方式(比較用)
(本法)第1条公証人法周辺公証人の権限(4つの公証事務)
(本法)第26条公証人法周辺適法性審査義務(公証人の作成禁止事項)
(本法)第37条公証人法周辺公正証書の記載・記録の方法(ウェブ会議方式を含む)
(本法)第40条公証人法周辺列席者への読み聞かせ・閲覧、承認、署名・押印または電子署名等
(本法)第49条公証人法周辺遺言公正証書の特例(出張公証の根拠)
(本法)第9条公証人手数料令周辺法律行為に係る証書作成の基本手数料(2025年10月改正後)
(本法)第19条公証人手数料令周辺遺言加算(1億円以下:13,000円)

まとめ

  • 公正証書遺言は公証役場で公証人が作成する遺言
  • 民法第969条は証人2名以上の立会いと遺言者の口授の2要件を定め、具体的な作成手続は公証人法に委ねる構造(第2項)
  • 証人は2名必要(欠格者が1人でもいると無効になる可能性が高い)
  • 必要書類は最低限のもの+財産に応じた書類の2段階で準備
  • 費用は2025年10月改正後の新料金で計算(基本手数料+遺言加算13,000円+枚数加算等)
  • 公証人は適法性審査義務を負う公証人法第26条)ため、違法・無効な内容は作成不可
  • 口がきけない者・耳が聞こえない者でも特則により公正証書遺言を作成できる(民法第969条の2
  • 2025年10月施行の改正により、ウェブ会議方式による作成も可能(公証人法第37条第2項
  • 自筆証書遺言より無効リスクが低く、検認不要
  • 原本は公証役場(または日本公証人連合会のシステム)が保管するため紛失・改ざんのリスクがない
  • 予約から完成まで通常2〜4週間かかる
  • 自筆証書遺言は法務局保管制度(2020年7月施行)を利用すると検認不要

費用・証人・書類の準備に迷う場合は、個別事情により対応が変わるため、公証役場への事前相談または専門家への相談をおすすめします。

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