02-07 · 相続・遺言 · 要件系

自筆証書遺言の有効要件|無効になるケースと法務局保管制度

自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印することで作成できる遺言です。費用がかからず手軽に作れる反面、方式を一つでも欠くと無効と判断される場合があります。2019年の民法改正で財産目録のパソコン作成が認められ、2020年から法務局の保管制度も始まりました。この記事では、有効要件・無効になりやすいケース・法務局保管制度を条文とともに解説します。

こんな方へ

  • 自分で遺言書を書きたいが、何が必要か確認したい
  • 自筆証書遺言が無効になるケースを知りたい
  • 財産目録をパソコンで作ってもいいか確認したい
  • 法務局の遺言書保管制度を利用したい
  • 公正証書遺言との違いを確認したい

この記事でわかること

  • 自筆証書遺言の4つの有効要件
  • 無効になりやすいケースと注意点
  • 財産目録のパソコン作成ルール(平成30年(2018年)相続法改正・2019年1月13日施行)
  • 法務局の遺言書保管制度(2020年開始)
  • 家庭裁判所の検認手続き
  • 公正証書遺言との比較

結論:自筆証書遺言は「全文自書・日付・氏名・押印」の4要件をすべて満たす必要がある

自筆証書遺言が有効とされるためには、以下の4つの要件をすべて満たすことが必要です。これらの要件のいずれかを欠くと、無効と判断されるリスクがあるため、作成時には法律で定められた方式を厳格に守ることが重要です。

根拠条文:(本法)民法第968条第1項(自筆証書遺言の方式)

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
要件内容
① 全文の自書遺言の本文全体を遺言者が自ら手書きすること(ワープロ・代筆は不可)
② 日付の自書作成した年月日を自書すること(「〇年〇月吉日」等は無効と判断される場合があります)
③ 氏名の自書遺言者の氏名を自書すること
④ 押印遺言書に押印すること(実印でなくても認印・拇印でも有効とされています。押印がない場合は無効と判断される可能性があります。花押は押印に該当しないとされる:最判平成28年6月3日)

例外(平成30年(2018年)相続法改正・第968条第2項、2019年1月13日施行): 財産目録については、パソコン作成・通帳コピー等も認められるようになりました(各ページへの署名・押印が必要)。

今すぐやること

作成時の要件チェック:

  1. 遺言書の本文が全文自書であることを確認する(ワープロ部分があれば無効の可能性)
  2. 日付が「年・月・日」まで特定できることを確認する(「吉日」等は不可)
  3. 氏名を自書し、押印していることを確認する
  4. 財産目録を添付する場合は各ページに署名・押印しているか確認する

保管方法の検討:

  1. 法務局の保管制度を利用するか検討する(検認不要・紛失・改ざん防止)

判断フロー①:作成時に守るべきチェックポイント

自筆証書遺言の形式として守るべき点を確認する

確実に満たす必要がある要件

  • 本文全体を遺言者が手書きする
  • 年月日を特定できる形で記載する
  • 遺言者の氏名を自書する
  • 押印する(認印・拇印でも可)

注意が必要な点

  • 財産目録をパソコン作成した場合
  • 訂正を行う場合

要件のいずれかを欠くと、無効と判断されるリスクがあります。判断に迷う場合は弁護士・司法書士等の専門家への相談を推奨します。

判断フロー②:法務局の保管制度を使うべきか

法務局の遺言書保管制度を利用するか?

利用を推奨する場合

  • 遺言書の紛失・隠匿・改ざんが心配
  • 死後の検認手続きを省略したい
  • 相続人等に確実に遺言の存在を知らせたい

利用しない選択肢

  • 手続きの手間・費用を省きたい
  • 内容を誰にも知られたくない期間がある

法務局の保管制度は方式の有効性を保証するものではない点に注意が必要です。要件を欠く遺言書を保管しても、後に無効と判断される場合があります。

① 全文自書の要件(民法第968条第1項)

遺言書の本文は、遺言者が一字一句手書きする必要があります。自書が求められるため、ワープロ・パソコン・代筆は避ける必要があります。

根拠条文:(本法)民法第968条第1項

「全文」の範囲

遺言書の本文(どの財産を誰に相続させるか等の内容)は、すべて遺言者本人が自書する必要があります。

自書が必要な趣旨:自書を要件とすることで、遺言者の同一性および真意を確保するとともに、文書の作成を担保することにあるとされています(最判平成元年2月16日)。

無効の原因になる例:

  • 本文をパソコンで作成してプリントアウトしたもの
  • 他人が代筆したもの(遺言者が口述し他人が筆記するものを含む)
  • 本文の一部だけ印刷・スタンプを使用したもの

問題がない例:

  • 用紙の種類・筆記具の種類は問いません(便箋・ノート・鉛筆・ボールペン等)
  • 日本語以外の言語でも有効とされています
  • 遺言書が複数枚にわたる場合、各紙の間に契印・編綴がなくても、それが全体として1通の遺言書であることを確認できる限り有効(最判昭和36年6月22日)

財産目録の例外(平成30年(2018年)相続法改正・民法第968条第2項、2019年1月13日施行)

根拠条文:(本法)民法第968条第2項

前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

平成30年(2018年)相続法改正の施行(2019年1月13日施行分)により、財産目録についてはパソコン作成・不動産登記事項証明書・預貯金通帳のコピー等の添付が認められるようになりました。

ただし、財産目録の各ページ(毎葉)に遺言者が署名・押印することが必要とされています。両面を使用する場合は両面それぞれへの署名・押印が必要です。

なお、自筆による遺言本文と、パソコンによる財産目録を同じ用紙に記載することはできないとされており、財産目録は本文とは別紙とする必要があります(法務省解説)。

② 日付の要件(民法第968条第1項)

日付は特定できる形で明確に記載する必要があります。「吉日」等の表記では日が特定できず、無効と判断されるリスクがあります。

根拠条文:(本法)民法第968条第1項

日付の記載例と注意点

記載例判断
「令和○年○月○日」推奨(年月日が特定できる)
「○年○月○日」推奨(西暦でも元号でも可)
「令和○年○月吉日」無効と判断されるリスクがあります(日が特定できない)
「令和○年○月」無効と判断されるリスクがあります(日が特定できない)

なぜ日付が重要か: 複数の遺言書が存在する場合、日付の新しいものが優先されます(民法第1023条第1項)。日付が特定できないと優先順位の判断ができないため、日付の要件は特に厳格に扱われます。日付は遺言能力の判断基準時(民法第963条)にもなります。

③ 氏名・押印の要件(民法第968条第1項)

遺言者の氏名を自書し、押印することが必要です。

根拠条文:(本法)民法第968条第1項

氏名の自書

氏名の記載は、通常は氏と名の両方を記載することが求められます。ペンネーム・雅号等は争いになるリスクがあるため、本名で記載することが安全です。

押印

  • 実印である必要はありません(認印・拇印でも有効とされています)
  • 押印の位置は通常、氏名の下または文末
  • 複数枚にわたる場合は、各紙が遺言書の一部であることが明確な方法での綴じ方・押印が推奨されます
  • 花押(署名の代わりに使用される記号・符号)を書くことは、押印に該当しないとされています(最判平成28年6月3日)

④ 加除・訂正の方法(民法第968条第3項)

訂正を行う場合は、法律で定められた方式に従う必要があります。方式を欠いた訂正は認められないリスクがあります。誤りがある場合は、新しい遺言書を作成し直すことが最も安全です。

根拠条文:(本法)民法第968条第3項

自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

民法第968条第3項が定める訂正方式(4ステップ)

  1. 訂正する場所を指示する(場所を特定して「○行目○字削除」等)
  2. 訂正した旨を付記する
  3. 付記した部分に署名する
  4. 訂正した箇所に押印する

注意: 修正テープ・修正液による訂正は認められない場合があります。誤りがある場合は、新しい遺言書を作成し直すことが最も安全です。

なお、加除訂正に方式違反があっても、遺言書の記載自体から明らかな誤記と分かる場合には、遺言の効力に影響を及ぼさないとされています(最判昭和56年12月18日)。また、訂正の効力が生じない場合でも、遺言全体が当然に無効になるわけではなく、訂正前の効力が維持されます(クレアール司法書士講座解説等)。

⑤ 法務局の遺言書保管制度

2020年7月10日から始まった制度です。法務局が自筆証書遺言の原本を保管し、死後の検認手続きを不要にします。

根拠法令:法務局における遺言書の保管等に関する法律(2020年7月10日施行) 根拠条文:(本法)同法第4条(遺言書の保管の申請)

制度の概要

項目内容根拠条文
申請先遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地を管轄する法務局(遺言書保管所)のいずれか遺言書保管法第4条第3項
申請方法遺言者本人が法務局に出頭して申請(代理申請不可)遺言書保管法第4条第6項
費用1件につき3,900円(保管申請手数料)遺言書保管法第12条
検認不要(保管制度利用の遺言書は家庭裁判所の検認が不要)遺言書保管法第11条
死亡後の通知遺言者死亡後、相続人等が閲覧請求した場合に他の相続人等に通知される遺言書保管法第9条第5項

重要: 法務局は遺言書の形式的な確認を行いますが、内容の有効性・法的効力を保証するものではありません。要件を欠く遺言書を保管しても、後に無効と判断される場合があります。

⑥ 家庭裁判所の検認手続き

法務局の保管制度を利用しない場合、遺言者の死後に家庭裁判所での検認が必要とされます。

根拠条文:(本法)民法第1004条第1項(遺言書の検認)

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

根拠条文:(本法)民法第1004条第2項(公正証書遺言の例外)

前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。

根拠条文:(本法)民法第1004条第3項(封印のある遺言書の開封)

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

検認とは

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在・形状・加除訂正の状態等を確認する手続きです。遺言書の内容の有効性を判断するものではありません(大決大正4年1月16日:「遺言の方式に関する一切の事実を調査して遺言書の状態を確定し、その現状を明確にするものであって、遺言書の実体上の効果を判断するものではない」)。

検認が必要な場合・不要な場合

遺言の種類検認根拠
自筆証書遺言(法務局保管なし)必要(相続開始後に遺言書を発見した相続人は遅滞なく家庭裁判所に提出)民法第1004条第1項
自筆証書遺言(法務局保管あり)不要遺言書保管法第11条
公正証書遺言不要民法第1004条第2項
秘密証書遺言必要民法第1004条第1項(民法第1004条第2項の例外に該当しないため)

検認義務違反の過料

根拠条文:(本法)民法第1005条(過料)

前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

第1005条は、第1004条による遺言書の提出・検認義務、および家庭裁判所外での開封禁止に違反した場合の5万円以下の過料を定めた条文です。遺言自体が無効になるわけではありません。実際に過料に処するかどうかは、過料に処せられる者の住所地を管轄する地方裁判所が判断します。

なお、実務上は、自筆証書遺言に基づいて相続手続を行う場合、検認を経ていないと不動産の相続登記や金融機関の解約手続等が拒否されるため、検認は実質的に必須となっています。また、遺言書を故意に隠匿した場合は相続欠格事由に該当する可能性があります(民法第891条第5号)。

⑦ 公正証書遺言との比較

自筆証書遺言と公正証書遺言はそれぞれ一長一短があります。

根拠条文:(本法)民法第969条(公正証書遺言の方式)

項目自筆証書遺言公正証書遺言
作成方法遺言者が全文自書公証役場で公証人が作成
費用原則無料(法務局保管は3,900円)数万円〜(財産額による・2025年10月1日改正後の新料金)
証人不要2名必要
無効リスク方式不備で無効になりやすい低い
検認必要(法務局保管は不要)不要
紛失・改ざんリスクあり(法務局保管で解消)ほぼなし(公証役場が原本保管)
公正証書遺言の作成手続・必要書類の詳細は 公正証書遺言の必要書類 を参照。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
(本法)第968条第1項民法中核自筆証書遺言の方式(全文自書・日付・氏名・押印)
(本法)第968条第2項民法中核財産目録の例外(パソコン作成可・各ページ署名押印必要・平成30年(2018年)相続法改正で新設・2019年1月13日施行)
(本法)第968条第3項民法中核加除訂正の方式
(本法)第1004条第1項民法中核遺言書の検認義務
(本法)第1004条第2項民法中核公正証書遺言は検認不要
(本法)第1004条第3項民法周辺封印のある遺言書の家庭裁判所外での開封禁止
(本法)第1005条民法周辺検認義務違反の過料(5万円以下)
(本法)第4条法務局における遺言書の保管等に関する法律中核遺言書保管申請の管轄・方法
(本法)第11条法務局における遺言書の保管等に関する法律中核保管制度利用の遺言書は検認不要
(本法)第9条第5項法務局における遺言書の保管等に関する法律周辺死亡後の相続人等への通知制度
(本法)第969条民法周辺公正証書遺言の方式(比較用)

まとめ

  • 自筆証書遺言は全文自書・日付・氏名・押印の4要件をすべて満たす必要があります(民法第968条第1項)
  • 有効にするためには法律で定められた方式を確実に守ることが重要です。要件を満たさない場合、無効と判断されるリスクがあります
  • 「○月吉日」等の日付は日が特定できず無効と判断されるリスクがあります。年月日を明確に記載してください
  • 花押は押印に該当しないとされています(最判平成28年6月3日)
  • 財産目録はパソコン作成が可能(平成30年(2018年)相続法改正・民法第968条第2項、2019年1月13日施行)ですが、各ページへの署名・押印が必要です
  • 加除・訂正は民法第968条第3項の方式(場所指示・付記・署名・押印の4ステップ)に従う必要があります。誤りがある場合は書き直しが安全です
  • 法務局の保管制度(2020年7月10日〜)を利用すると、検認が不要になり紛失・改ざんリスクを防ぐことができます(遺言書保管法第11条)
  • 法務局保管は形式確認のみであり、内容の有効性を保証するものではありません
  • 自筆証書遺言(法務局保管なし)と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が必要(民法第1004条第1項)
  • 公正証書遺言は検認不要(民法第1004条第2項)
  • 検認義務違反は5万円以下の過料(民法第1005条)。遺言自体が無効になるわけではない
  • 無効リスクを下げたい場合は公正証書遺言の利用が選択肢となります

遺言書の作成を検討している場合や内容に不安がある場合は、弁護士・司法書士への相談をおすすめします。

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