労働者は日本国憲法(昭和21年(1946年)11月3日公布・昭和22年(1947年)5月3日施行)第28条により団結権・団体交渉権・団体行動権(労働三権)を保障されており、自由に労働組合を結成することができます。労働組合の結成自体に行政の許可は不要ですが、労働組合法(、の全部改正)上の保護を受けるためには、第2条の要件(主体・自主性・目的・団体性)を満たす必要があります。労働組合法上の労働組合は、刑事免責(同法第1条第2項)・民事免責(同法第8条)・不利益取扱いからの保護(同法第7条第1号)等の三大保護を受けます。この記事では、労働組合の結成要件と労働組合法上の保護を解説します。
カテゴリ:労働・雇用 / 種別:要件系
関連条文:(本法)日本国憲法(昭和21年11月3日公布・昭和22年5月3日施行)第28条/(本法)労働組合法第1条第1項・第2項・第2条本文・第1号〜第4号・第3条・第5条第1項・第2項・第6条・第7条第1号〜第4号・第8条・第27条/(本法)労働関係調整法第7条
こんな方へ
- 労働組合を結成したいが、要件・手続きを確認したい
- 既存の労働組合が労働組合法上の保護を受けられるか確認したい
- 労組法上の労働者性について整理したい
- 労組法上の保護(刑事免責・民事免責・不利益取扱いの禁止)の概要を知りたい
- 不当労働行為を受けた場合の救済窓口を確認したい
この記事でわかること
- 憲法第28条の労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)
- 労働組合法第2条の4要件(主体・自主性・目的・団体性)
- 労働組合法第3条の労働者の定義(労組法上の労働者性は労基法より広い)
- 労働組合法第5条の規約要件と労働委員会の資格審査
- 労組法上の三大保護(刑事免責・民事免責・不利益取扱いの禁止)
- 労働組合法上の主な権利(団体交渉権・労働協約締結権・争議権)の概要
- 主要判例(補足):
- 労組法上の労働者性 → INAXメンテナンス事件
- 争議行為の正当性 → 山田鋼業事件
結論:労働組合の結成は自由(許可不要)。ただし労働組合法上の保護を受けるには「労働組合法第2条の要件」を満たす必要がある
根拠条文:(本法)日本国憲法第28条(団結権・団体交渉権・団体行動権)
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
根拠条文:(本法)労働組合法第2条(労働組合の定義)
この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 結成の自由 | 行政許可不要(憲法第28条による団結権の保障) |
| 労組法上の労組の要件(労組法第2条本文・各号) | 主体(労働者)・自主性・目的・団体性の 4 要件+第1号〜第4号の否定要件 |
| 資格審査(労組法第5条第1項) | 規約を備え労働委員会の資格審査を経ることが、労働委員会の救済手続を利用する際の要件 |
| 三大保護 | 刑事免責(第1条第2項)・民事免責(第8条)・不利益取扱いの禁止(第7条第1号) |
重要: 労働組合の結成自体は自由ですが、労働組合法上の「労働組合」として保護を受けるには第2条の要件を満たす必要があります。労働組合法上の要件を満たさない場合でも、憲法第28条上の団結権の保障は及びます。ただし、労働委員会の救済手続等の労組法上の保護は利用できません。労働組合法上の労働組合に該当するか否かは、最終的には労働委員会や裁判所により判断されます。
今すぐやること
- 労働組合の結成を検討する場合は、第2条の4要件を確認する(下記「判断フロー」参照)
- 既存の労働組合に加入する場合は、規約・運営実態を確認する
- 不当労働行為を受けた場合は、各都道府県の労働委員会または中央労働委員会に救済申立て(労組法第27条)
- 必要に応じて弁護士・社労士に相談する
判断フロー:この団体は労働組合法上の労働組合か
この団体は労働組合法上の「労働組合」と認められるか?
要件①:主体(労組法第2条本文)
- 労働者が主体となって組織している主体要件を満たす
- 労働者が主体ではない(使用者側が主導)主体要件を満たさない
要件②:自主性(労組法第2条本文・第1号・第2号)
- 使用者の利益代表者(役員・人事権者等)が参加していない自主性要件を満たす方向(第1号)
- 使用者の利益代表者が参加している自主性が否定される(第1号該当)
- 使用者から経費の援助を受けていない(最小限の例外を除く)自主性要件を満たす方向(第2号)
- 使用者から経費の援助を受けている自主性が否定される(第2号該当)
NOTE: 自主性要件・規約要件は労働委員会の資格審査(労組法第5条第1項)で確認されます。
① 労働組合法第2条の要件(4要件)
→ 労働組合法上の労働組合と認められるには、第2条本文の要件と各号の否定要件をクリアする必要があります。
根拠条文:(本法)労働組合法第2条
第2条本文:4要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 主体 | 労働者が主体となって組織する団体であること |
| 自主性 | 自主的に(使用者から独立して)組織されていること |
| 目的 | 労働条件の維持改善等の経済的地位の向上を主たる目的とすること |
| 団体性 | 団体またはその連合団体であること(継続的な組織体としての実態) |
第2条各号:否定要件(該当すると労組法上の労組ではない)
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 第1号 | 役員・人事権者・労務管理事項に関して直接の権限を持つ監督的地位の労働者・使用者の利益代表者の参加を許すもの |
| 第2号 | 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの(ただし、福利資金への寄附・最小限の事務所供与等の例外あり) |
| 第3号 | 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの |
| 第4号 | 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの |
→ 「自主性」の重要性: 労働組合法は使用者からの自主性を強く要求しています。使用者による経費援助・役員の関与が強い場合には、自主性が否定される可能性があります。第1号・第2号は、自主性を欠く団体(御用組合)を労組法上の労働組合から除外する規定。
② 労働組合法第3条の「労働者」の定義(補足)
→ 労働組合法上の「労働者」は、労働基準法上の「労働者」より広く解釈されます。
根拠条文:(本法)労働組合法第3条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
労働基準法第9条(事業に使用され、賃金を支払われる者)が雇用契約・使用従属関係を要求するのに対し、労働組合法第3条は賃金等による生活関係で足りるため、雇用契約の存在は必須ではありません。失業者・芸能人・トラック運転手等のフリーランス・委託契約者でも、実質的に賃金等で生活する者であれば労組法上の労働者に該当する可能性があります(業務委託と雇用の区別・派遣と請負の法的違いも参照)。
NOTE: 個人代理店契約の修理従業者(カスタマーエンジニア)の労組法上の労働者性については、最判平成23年(2011年)4月12日 INAXメンテナンス事件が、労組法上の労働者性を労基法より広く認めている。
③ 労働組合法第5条の規約要件と資格審査
→ 労働委員会の救済手続を利用するには、第5条の規約要件を満たし、労働委員会の資格審査を経る必要があります。
根拠条文:(本法)労働組合法第5条第1項
労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第七条第一号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
根拠条文:(本法)労働組合法第5条第2項(規約の必要記載事項)
→ 労働組合の規約には、以下の9つの事項を記載しなければなりません:
- 名称
- 主たる事務所の所在地
- 連合団体である労働組合以外の労働組合の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること
- 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと
- 単位労働組合の組合員は、その労働組合の役員を、組合員又は構成団体の組合員(連合団体である労働組合に関しては、その構成団体の組合員)の直接無記名投票により選挙すること
- 総会は、少くとも毎年1回開催すること
- すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年1回組合員に公表されること
- 同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと
- 単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと
→ 資格審査の効果: 第5条第1項の資格審査を経ない労働組合は、労働委員会の救済手続(労組法第27条以下)を利用できない。ただし、第7条第1号(個々の労働者に対する不利益取扱い)の保護は受けられる(第5条第1項ただし書)。
④ 労組法上の三大保護と運営に関する補足
→ 労組法上の労働組合は、刑事免責・民事免責・不利益取扱いの禁止の三大保護を受けます。
三大保護
| 保護 | 根拠条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 刑事免責 | (本法)労働組合法第1条第2項 | 正当な争議行為に対しては刑法第35条の規定が適用される(=正当行為として違法性が阻却される)。ただし、暴力の行使は、いかなる場合においても、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない(同項ただし書) |
| 民事免責 | (本法)労働組合法第8条 | 使用者は、同盟罷業(ストライキ)その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない |
| 不利益取扱いの禁止 | (本法)労働組合法第7条第1号 | 労働組合の正当な行為をしたことを理由として解雇等の不利益取扱いをしてはならない |
NOTE: 争議行為の正当性の判断基準については、最大判昭和25年(1950年)11月15日 山田鋼業事件が判断枠組みを確立し、生産管理(労働者が経営者を排除して自ら経営を行う行為)は争議行為の正当な範囲を超えると判示している。
運営に関する補足
労働組合は、上記三大保護のほか、団体交渉権(労組法第6条・使用者は正当な理由なく団体交渉を拒否できない:第7条第2号)、労働協約締結権(第14条:書面・署名または記名押印で効力発生/第16条:規範的効力/第17条:4 分の 3 以上の場合の事業場単位の拡張適用)、争議権(労働関係調整法第7条:同盟罷業・怠業・ピケッティング・ボイコット・作業所閉鎖等)を有します。使用者の不当労働行為(労組法第7条第1号〜第4号:不利益取扱い・黄犬契約・団体交渉拒否・支配介入・経費援助・報復的不利益取扱い)に対しては、労働委員会(都道府県労働委員会または中央労働委員会)に救済申立てができます(第27条以下)。
なお、公務員の労働三権は、国家公務員法第98条第2項以下・地方公務員法第37条以下により一部制約(争議権の禁止等)されており、判例上合憲とされています。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第28条 | 日本国憲法 | 中核 | 団結権・団体交渉権・団体行動権(労働三権) |
| (本法)第1条第1項 | 労働組合法 | 周辺 | 労働組合法の目的(労働者の地位向上・労使対等) |
| (本法)第1条第2項 | 労働組合法 | 中核 | 争議行為の刑事免責(刑法第35条の準用)・暴力行使の禁止 |
| (本法)第2条 | 労働組合法 | 中核 | 労働組合の定義(4要件・否定要件4号構成) |
| (本法)第3条 | 労働組合法 | 中核 | 労働者の定義(労組法上の労働者性は労基法より広い) |
| (本法)第5条第1項 | 労働組合法 | 中核 | 労働委員会の資格審査・救済手続利用の要件 |
| (本法)第5条第2項 | 労働組合法 | 中核 | 規約の必要記載事項(9号構成) |
| (本法)第6条 | 労働組合法 | 中核 | 労働組合の代表者の交渉権限 |
| (本法)第7条第1号 | 労働組合法 | 中核 | 不当労働行為(不利益取扱い・黄犬契約) |
| (本法)第7条第2号 | 労働組合法 | 中核 | 不当労働行為(団体交渉拒否) |
| (本法)第7条第3号 | 労働組合法 | 中核 | 不当労働行為(支配介入・経費援助) |
| (本法)第7条第4号 | 労働組合法 | 中核 | 不当労働行為(報復的不利益取扱い) |
| (本法)第8条 | 労働組合法 | 中核 | 争議行為の民事免責(損害賠償請求の禁止) |
| (本法)第14条 | 労働組合法 | 周辺 | 労働協約の効力発生要件(書面・署名または記名押印) |
| (本法)第16条 | 労働組合法 | 周辺 | 労働協約の規範的効力 |
| (本法)第17条 | 労働組合法 | 周辺 | 一般的拘束力(事業場単位の拡張適用:4分の3以上) |
| (本法)第27条 | 労働組合法 | 中核 | 不当労働行為事件の審査・労働委員会への救済申立て |
| (本法)第7条 | 労働関係調整法 | 周辺 | 争議行為の定義(同盟罷業・怠業・作業所閉鎖等) |
補足: 公務員の労働三権の制約に関する根拠条文は、国家公務員法第98条第2項以下、地方公務員法第37条以下に規定されています。
まとめ
- 労働組合の結成は憲法第28条により保障された労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)に基づき、行政許可は不要
- 労働組合法上の保護を受けるには第2条の4要件(主体・自主性・目的・団体性)を満たす必要があります
- 第2条には否定要件(第1号〜第4号)があり、特に自主性(第1号・第2号)は使用者からの独立を強く要求
- 労組法上の労働者(第3条)は労基法上の労働者より広く解される(判例:最判平成23年(2011年)4月12日 INAXメンテナンス事件)
- 労働委員会の救済を受けるには第5条の規約要件(9号構成)と第5条第1項の資格審査もあります
- ただし第7条第1号の保護(個々の労働者の不利益取扱い)は資格審査を経なくても受けられる(第5条第1項ただし書)
- 三大保護:刑事免責(第1条第2項・刑法第35条準用)・民事免責(第8条)・不利益取扱いの禁止(第7条第1号)(ただし暴力の行使はいかなる場合も正当な行為と解釈されない:第1条第2項ただし書。判例:最大判昭和25年(1950年)11月15日 山田鋼業事件——生産管理は争議行為の正当な範囲を超える)
- 主な権利:団体交渉権(第6条・第7条第2号)・労働協約締結権(第14条・第16条・第17条)・争議権(第1条第2項・第8条・労働関係調整法第7条)
- 不当労働行為(第7条第1号〜第4号)の救済:労働委員会への救済申立て(第27条以下)
- 公務員の労働三権は国家公務員法・地方公務員法により一部制約(争議権の禁止等)されており、判例上合憲とされています
- 結成・運営の詳細については社労士・弁護士への相談を推奨します