12-07 · 刑事・犯罪 · 条文解説系

不正競争防止法と営業秘密|営業秘密の3要件・侵害行為・民事と刑事の救済

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律で、国法レベルの法律として全国一律に適用されます。営業秘密の保護はその中核的規定の一つです。営業秘密として保護されるためには、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件(同法第2条第6項)を満たす必要があります。営業秘密が侵害された場合、民事的救済(差止・損害賠償)と刑事罰(営業秘密侵害罪)の両方が用意されています。また、令和5年改正(2024年4月施行)により、限定提供データ(同法第2条第7項)の保護も強化されました。この記事では、不正競争防止法における営業秘密の保護に関する規定を条文ごとに解説します。

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律で、国法レベルの法律として全国一律に適用されます。営業秘密の保護はその中核的規定の一つです。営業秘密として保護されるためには、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件(同法第2条第6項)を満たす必要があります。営業秘密が侵害された場合、民事的救済(差止・損害賠償)と刑事罰(営業秘密侵害罪)の両方が用意されています。また、令和5年改正(2024年4月施行)により、限定提供データ(同法第2条第7項)の保護も強化されました。この記事では、不正競争防止法における営業秘密の保護に関する規定を条文ごとに解説します。

カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:条文解説系
関連条文:(本法)不正競争防止法第2条第6項・第2条第7項・第2条第1項第4号〜第10号・第3条〜第5条・第5条の2・第15条・第21条・第22条

こんな方へ

  • 不正競争防止法における「営業秘密」の定義を確認したい
  • 営業秘密として保護されるための要件(3要件)を理解したい
  • 営業秘密侵害行為の類型を整理したい
  • 民事的救済(差止・損害賠償)と刑事罰の関係を確認したい
  • 退職者・従業員による情報持ち出しが法的にどう扱われるか確認したい
  • 「営業秘密」と「限定提供データ」の違いを整理したい

この記事でわかること

  • 営業秘密の定義と3要件(不正競争防止法第2条第6項)
  • 営業秘密に関する不正競争行為の類型(同法第2条第1項第4号〜第10号)
  • 限定提供データの定義と保護(同法第2条第7項・令和5年改正で拡充)
  • 民事的救済(差止請求・損害賠償請求)の根拠と内容
  • 営業秘密の使用等の推定規定(同法第5条の2・令和5年改正で対象拡充)
  • 営業秘密侵害罪の構成要件と罰則(同法第21条)
  • 法人重課(同法第22条)

結論:営業秘密の保護は「3要件の充足」と「侵害行為の類型該当性」で決まる

根拠条文:不正競争防止法 第2条第6項・[第2条第1項第4号〜第10号]・[第3条〜第5条]・[第21条]

不正競争防止法における営業秘密の保護の構造:

段階条文内容
保護対象の確定第2条第6項営業秘密の定義(3要件:秘密管理性・有用性・非公知性)
侵害行為の類型化第2条第1項第4号〜第10号営業秘密に関する不正競争行為の7類型
民事的救済第3条〜第5条差止請求・損害賠償請求・損害額の推定等
使用等の推定規定第5条の2技術上の秘密の使用等の推定(令和5年改正で対象拡充)
刑事罰第21条営業秘密侵害罪(10年以下の拘禁刑等)
法人重課第22条法人に対する罰金(5億円以下、海外使用目的は10億円以下)

核心ポイント: 営業秘密として保護されるためには、まず第2条第6項の3要件を満たす必要があります。3要件のいずれか一つでも欠けると、不正競争防止法上の保護を受けられません。

今すぐやること

  1. その情報が3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)を満たすかの確認(営業秘密該当性の判断)
  2. 侵害行為類型(第4号〜第10号)への該当性確認(不正取得型・転得者型・図利加害目的開示型等)
  3. 民事的救済(差止・損害賠償)と刑事告訴の並行検討
  4. 時効期間の確認(差止請求権は3年・20年・第15条第1項)
  5. 早期に弁護士・弁理士に相談(営業秘密侵害は事案の機微性が高いため)

判断フロー①:その情報は営業秘密か(3要件の判断)

その情報は不正競争防止法上の「営業秘密」か?

第1要件:秘密管理性

  • 情報を秘密として管理する意思(秘密管理意思)が客観的に認識可能か
  • アクセスできる者が制限されているか
  • アクセスした者が当該情報が営業秘密であると認識できるか

第2要件:有用性

  • その情報は事業活動に有用な技術上又は営業上の情報か
  • ネガティブ・インフォメーション(失敗データ等)も該当し得る
  • 公序良俗に反する情報(脱税情報等)は該当しない

※ 3要件のいずれか一つでも欠けると、不正競争防止法上の営業秘密としては保護されません。具体的な該当性の判断は弁護士・弁理士への相談を推奨します。

判断フロー②:その行為は不正競争行為か

その行為は営業秘密に関する不正競争行為か?

不正取得型(第2条第1項第4号)

  • 窃取・詐欺・強迫等の不正の手段により営業秘密を取得・使用・開示する行為

転得者型(第5号・第6号)

  • 不正取得行為が介在したことを知って又は重大な過失により知らないで営業秘密を取得・使用・開示する行為
  • 取得後に不正取得行為の介在を知って又は重大な過失により知らないで使用・開示する行為

※ 第2条第1項第11号〜第16号には限定提供データに関する不正競争行為が定められていますが、本記事では営業秘密に関する規定(第4号〜第10号)を中心に解説します。具体的な該当性の判断は弁護士への相談を推奨します。

① 営業秘密の定義(第2条第6項)

不正競争防止法第2条第6項は、営業秘密を秘密管理性・有用性・非公知性の3要件で定義しています。

根拠条文:不正競争防止法 第2条第6項

条文の規定

不正競争防止法第2条第6項:

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

3要件の整理

要件条文の文言内容
秘密管理性「秘密として管理されている」営業秘密保有者の秘密管理意思が客観的に認識可能であること
有用性「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」事業活動に客観的に役立つ情報であること
非公知性「公然と知られていないもの」一般に知られておらず、容易に知ることができない状態にあること

重要: 3要件は経済産業省「営業秘密管理指針」等で具体的な判断基準が示されていますが、同指針は行政が策定する解釈ガイドラインであり、それ自体に法的拘束力を有するものではありません。最終的には個別の事案について裁判所が判断します。

第1要件:秘密管理性

経済産業省の営業秘密管理指針によれば、秘密管理性が認められるためには:

  • 営業秘密保有者の秘密管理意思(特定の情報を秘密として管理しようとする意思)が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示されていること
  • 当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性(情報にアクセスした者が秘密であると認識できること)が確保されていること

具体的な管理措置の例:

  • 紙媒体:「マル秘」表示・施錠保管・アクセス制限
  • 電子データ:パスワード設定・アクセス権限の制限・暗号化
  • 規程等:秘密保持規程の整備・秘密保持誓約書の取得

実務上、3要件の中でも特に秘密管理性の有無が争点となることが多いとされています。

第2要件:有用性

事業活動において価値を有する情報であれば、有用性は肯定されます。具体例:

  • 顧客リスト・仕入先リスト
  • 製品の製造方法・販売方法
  • 研究開発計画・実験データ
  • 財務情報・原価情報

ネガティブ・インフォメーション: 失敗した研究データや製品の欠陥情報等の「ネガティブ・インフォメーション」も、事業活動上の価値があれば有用性が認められ得るとされています(経済産業省・営業秘密管理指針)。

注意: 公序良俗に反する情報(脱税情報・不正の隠蔽情報等)は有用性が否定されます。

第3要件:非公知性

非公知性とは、合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態をいいます。

リバースエンジニアリングとの関係: 市販されている製品を分解・解析して営業秘密と同じ情報を得ることができる場合の非公知性については、判例上、多大な費用や長期間にわたる分析等が必要な場合には非公知性が認められ、容易にリバースエンジニアリングを行うことができる場合には非公知性が否定される、とされています。

② 営業秘密に関する不正競争行為の類型(第2条第1項第4号〜第10号)

不正競争防止法第2条第1項第4号〜第10号は、営業秘密に関する不正競争行為を7類型に分類しています。

根拠条文:不正競争防止法 第2条第1項第4号〜第10号

7類型の整理

類型内容
第4号不正取得型窃取・詐欺・強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(営業秘密不正取得行為)/不正取得した営業秘密を使用・開示する行為
第5号悪意・重過失取得型営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで営業秘密を取得・使用・開示する行為
第6号事後悪意・重過失型取得後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで使用・開示する行為
第7号図利加害目的開示型営業秘密保有者から営業秘密を示された者が、不正の利益を得る目的・営業秘密保有者に損害を加える目的で営業秘密を使用・開示する行為
第8号不正開示介在悪意取得型不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで営業秘密を取得・使用・開示する行為
第9号事後悪意の不正開示介在型取得後に不正開示行為の介在を知って、又は重大な過失により知らないで使用・開示する行為
第10号侵害品譲渡型第4号〜第9号の使用行為により生じた物(営業秘密侵害品)を譲渡・引渡し・輸出入等する行為

核心ポイント:

  • 第4号〜第6号:営業秘密を不正取得したケース(部外者・転得者)
  • 第7号〜第9号:営業秘密を正当に取得した者(従業員・取引先等)が目的外に利用したケース
  • 第10号:営業秘密侵害品の流通段階

退職時のデータ持ち出しは、第7号(営業秘密保有者から示された者の図利加害目的での使用・開示)等の問題となる典型例です。

補足: 第2条第1項第11号〜第16号には限定提供データに関する不正競争行為が定められていますが、これは営業秘密とは別カテゴリの保護対象で、本記事の主題からは離れます(後述「⑥ 限定提供データの保護(第2条第7項)」を参照)。

「不正の利益を得る目的・営業秘密保有者に損害を加える目的」(図利加害目的)

第7号等で要求される「図利加害目的」とは:

  • 不正の利益を得る目的」:公序良俗や信義則に反して営業秘密を不正に使用することで、自己や第三者が不当な利益を得る目的
  • 営業秘密保有者に損害を加える目的」:秘密保有者に財産上の損害や信用の失墜などの損失を生じさせる目的

重要: 加害者と秘密保有者とが競争関係にある必要はありません。実際に損害が発生している必要もありません(経済産業省・逐条解説)。

③ 民事的救済(第3条〜第5条)

不正競争防止法は、営業秘密侵害に対する民事的救済として、差止請求・損害賠償請求・信用回復措置等を定めています。

根拠条文:不正競争防止法 第3条・[第4条]・[第5条]・[第14条]・[第15条]

差止請求権(第3条)

不正競争防止法第3条第1項は、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」が、その侵害の停止又は予防を請求することができると定めています。

差止請求とともに、侵害の行為を組成した物の廃棄・侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為も請求できます(第3条第2項)。

損害賠償請求(第4条)

不正競争防止法第4条は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずると定めています。

損害額の推定(第5条)

民事訴訟では損害額の立証が困難な場合が多いため、不正競争防止法第5条は損害額の推定規定を置いています。これにより、被害者の立証負担が軽減されます。令和5年改正により、損害額の算定規定の適用対象が拡充されました(特許法令和元年改正と同様の手当て)。

信用回復措置(第14条)

不正競争行為によって営業上の信用を害された場合、その行為者に対して信用の回復に必要な措置(謝罪広告等)を求めることができます。

消滅時効(第15条)

不正競争防止法第15条第1項は、営業秘密の使用に対する差止請求権について次の期間制限を定めています:

起算点期間
不正使用の事実及び不正使用者を知った時3年
不正使用行為の開始20年

いずれかの期間を経過すると、差止請求権は時効により消滅し、行使できなくなります。

④ 営業秘密の使用等の推定規定(第5条の2・令和5年改正で対象拡充)

不正競争防止法第5条の2は、技術上の秘密の使用等を推定する規定を置いています。令和5年改正により対象範囲が拡充されました。

根拠条文:不正競争防止法 第5条の2

推定規定の趣旨

営業秘密の使用行為や営業秘密侵害品の生産行為は侵害者の内部領域(工場・研究所等)で行われることが多いため、被害者がその立証に関する証拠を収集することは極めて困難です。そのため、平成27年改正で営業秘密の不正使用に関する一定の事実があれば、その立証責任を侵害者側に転換する推定規定が設けられました。

令和5年改正による対象拡充

改正前改正後(令和5年改正・2024年4月施行)
産業スパイ等(第2条第1項第4号・第5号・第8号)の悪質性が特に高い者に限定以下の場合にも拡充:(1) 営業秘密へのアクセス権限がない者(産業スパイ等)(2) 不正取得経緯を知った上で転得した者(3) 元々アクセス権限がある者(元従業員等)が許可なく複製した場合(4) 不正な経緯を知らずに取得後、事後的に知ったが記録媒体等を削除しなかった場合

実務上の意義: 改正により、元従業員による営業秘密の不正使用 等、近年の実務で多発する類型に推定規定が適用できるようになりました。被害者の立証負担が大きく軽減されます。

⑤ 営業秘密侵害罪(第21条)

不正競争防止法第21条は、営業秘密侵害行為に対する刑事罰を定めています。

根拠条文:不正競争防止法 第21条第1項・[第2項]

法定刑(第21条第1項)

不正競争防止法第21条第1項は、営業秘密侵害罪の法定刑を次のように定めています:

10年以下の拘禁刑若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第21条第1項の処罰対象(9類型)

処罰対象(概要)
第1号詐欺等行為又は管理侵害行為(窃取・施設侵入・不正アクセス等)により営業秘密を取得する行為(図利加害目的)
第2号詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を使用・開示する行為(図利加害目的)
第3号営業秘密保有者から示された者が、その任務に背き、図利加害目的で営業秘密を使用・開示する行為
第4号第3号の使用・開示行為が秘密保持義務違反に係る場合
第5号違法使用行為により生じた物の譲渡・引渡し・輸出入等(図利加害目的)
第6号上記行為が介在したことを知って取得した営業秘密の使用・開示等
第7号〜第9号その他の悪意・重過失による営業秘密の不正使用等

領得行為等(第21条第2項)

第21条第2項は、営業秘密記録媒体等を保有者から示された者が、図利加害目的でその営業秘密の管理に係る任務に背いて領得する行為等を処罰します(10年以下の拘禁刑等)。

「領得」の例:

  • 営業秘密記録媒体等の横領
  • 営業秘密記録媒体等の複製作成
  • 消去すべきデータの未消去・消去を装う行為

重要: 会社のサーバーに保管されていた営業秘密データを個人のメールアドレスに転送するだけで、複製=領得行為に該当する場合があります(経済産業省・逐条解説)。

国外使用目的の重罰

国外で使用する目的で営業秘密侵害行為を行った場合、罰金額が3000万円以下に加重されます(第21条第3項)。

未遂・国外犯処罰

規定内容
未遂処罰営業秘密侵害罪は未遂も処罰される(第21条第4項)
国外犯処罰国外で行われた営業秘密侵害も処罰される場合がある(第21条第6項等)
没収営業秘密侵害罪を犯して得た財産は、上限なく没収できる(第21条第10項)

外国公務員贈賄罪の重罰化(令和5年改正・2024年4月施行)

第21条第2項第7号は、外国公務員等への贈賄行為を処罰しています。令和5年改正により、外国公務員贈賄罪の法定刑が次のように引き上げられました:

項目改正前改正後(令和5年改正)
個人の法定刑5年以下の懲役又は500万円以下の罰金10年以下の拘禁刑又は3000万円以下の罰金
法人重課(第22条第1項第3号)3億円以下10億円以下

この改正は、OECD外国公務員贈賄防止条約をより適格に実施するために行われたものです。営業秘密に直接関わる改正ではありませんが、不正競争防止法全体の罰則体系の中で重要な位置を占めます。

注意: 2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の罰則表記は現行(拘禁刑)に統一しています。

⑥ 限定提供データの保護(第2条第7項・令和5年改正で拡充)

不正競争防止法は、平成30年改正で「限定提供データ」の保護制度を新設しました。令和5年改正により保護対象が拡充されました。

根拠条文:不正競争防止法 第2条第7項・[第2条第1項第11号〜第16号]

限定提供データの定義(第2条第7項)

この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。

「営業秘密」との区別

区分営業秘密(第2条第6項)限定提供データ(第2条第7項)
秘密管理性必要不要(電磁的管理性は必要)
蓄積量不問相当量蓄積されていること
形態電子化不要電磁的方法による管理
提供形態提供を前提としない特定の者に提供することを前提
刑事罰あり(第21条)なし(民事的救済のみ)

令和5年改正による拡充

改正前改正後(令和5年改正・2024年4月施行)
秘密として管理されているものを除く営業秘密を除く

この改正により、秘密管理されているビッグデータも限定提供データとして保護対象に含まれることになりました。改正前は秘密管理されているが営業秘密の3要件を完全には満たさないビッグデータが、いずれの保護対象にも該当しないという問題がありましたが、改正により営業秘密と限定提供データを一体的に管理することが可能になりました。

民事的救済

限定提供データに関する不正競争行為(第2条第1項第11号〜第16号)には、差止請求権・損害賠償請求権等の民事的救済が認められます。ただし、刑事罰の対象とはなりません(営業秘密侵害罪との重要な違い)。

⑦ 法人重課(第22条)

不正競争防止法第22条は、法人の業務に関して不正競争行為が行われた場合の法人に対する罰則を定めています。

根拠条文:不正競争防止法 第22条第1項

法人重課の罰則

違反類型法人への罰金
営業秘密侵害罪(第21条第1項・第2項)5億円以下
営業秘密侵害罪(国外使用目的・第21条第3項)10億円以下
外国公務員贈賄罪(令和5年改正後)10億円以下
その他の不正競争行為(営業秘密侵害以外)3億円以下等

重要: 法人の業務に関して違反行為があった場合、行為者本人だけでなく法人も処罰対象となります(両罰規定)。

⑧ 国際裁判管轄・準拠法(第19条の2・第19条の3・令和5年改正で創設)

令和5年改正により、営業秘密侵害事案における国際裁判管轄と準拠法が明確化されました。

根拠条文:不正競争防止法 第19条の2・[第19条の3]

令和5年改正により、次の2つの要件を満たす場合、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ、かつ日本の不正競争防止法が適用されることが明確化されました:

  1. 日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密」であること
  2. 当該営業秘密が「日本国内において管理されているもの」であること

これは、営業秘密の国外流出に対する規制の実効性を高めるための改正です。改正前は民事に関して「侵害の結果が発生した地」の判断次第で、事案によっては日本の裁判管轄や準拠法が認められない可能性がある不明確な状況でしたが、改正により国法レベルでの規律が明確化されました。

⑨ 民事と刑事の関係

営業秘密侵害行為は、民事的救済と刑事罰の双方の対象となります。

観点民事(第3条〜第5条等)刑事(第21条)
目的被害回復・差止処罰
要件故意・過失故意(図利加害目的等)
救済差止・損害賠償・信用回復拘禁刑・罰金
手続民事訴訟(被害者が原告)刑事手続(検察官による起訴)
期間制限差止請求は3年・20年(第15条第1項)公訴時効(刑事訴訟法第250条)

核心ポイント: 営業秘密侵害事案では、民事的救済と刑事告訴を並行して検討することが一般的です。両者は独立した制度であり、片方の手続きの結果が他方を当然に拘束するわけではありません。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第2条第6項不正競争防止法(本法)中核営業秘密の定義(3要件)
第2条第7項不正競争防止法(本法)中核限定提供データの定義(令和5年改正で「営業秘密を除く」に拡充)
第2条第1項第4号不正競争防止法(本法)中核営業秘密不正取得行為
第2条第1項第5号〜第10号不正競争防止法(本法)中核不正競争行為の各類型(営業秘密)
第2条第1項第11号〜第16号不正競争防止法(本法)周辺不正競争行為の各類型(限定提供データ)
第3条不正競争防止法(本法)中核差止請求権
第4条不正競争防止法(本法)中核損害賠償請求
第5条不正競争防止法(本法)中核損害額の推定
第5条の2不正競争防止法(本法)中核技術上の秘密の使用等の推定(令和5年改正で対象拡充)
第14条不正競争防止法(本法)周辺信用回復措置
第15条第1項不正競争防止法(本法)中核差止請求権の消滅時効
第19条の2不正競争防止法(本法)周辺国際裁判管轄(令和5年改正で創設)
第19条の3不正競争防止法(本法)周辺準拠法(令和5年改正で創設)
第21条第1項不正競争防止法(本法)中核営業秘密侵害罪(10年以下の拘禁刑)
第21条第2項不正競争防止法(本法)中核営業秘密記録媒体等の領得行為等
第22条第1項不正競争防止法(本法)中核法人重課(5億円以下、海外使用目的は10億円以下)

まとめ

  • 不正競争防止法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます
  • 営業秘密は、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす情報をいいます(不正競争防止法第2条第6項)。3要件のいずれか一つでも欠けると、不正競争防止法上の保護を受けられません
  • 不正競争行為は、第2条第1項第4号〜第10号に7類型として定められています(不正取得型・転得者型・図利加害目的開示型・侵害品譲渡型等)
  • 第7号等で要求される「図利加害目的」は、加害者と秘密保有者が競争関係にある必要はなく、実際の損害発生も不要です
  • 民事的救済として、差止請求(第3条)・損害賠償請求(第4条)・損害額の推定(第5条)・信用回復措置(第14条)が用意されています
  • 差止請求権の消滅時効は、不正使用の事実及び不正使用者を知った時から3年・不正使用行為の開始から20年です(第15条第1項)
  • 営業秘密の使用等の推定規定(第5条の2)は、令和5年改正により対象範囲が拡充され、元従業員等にも適用されるようになりました
  • 営業秘密侵害罪(第21条第1項)は、10年以下の拘禁刑又は2000万円以下の罰金(併科可)です。国外使用目的の場合は罰金が3000万円以下に加重されます(第21条第3項)
  • 営業秘密侵害罪は未遂も処罰され(第21条第4項)、国外犯処罰規定もあります(第21条第6項等)
  • 法人重課(第22条第1項)により、法人の業務に関して営業秘密侵害が行われた場合、法人に対して5億円以下(海外使用目的は10億円以下)の罰金が科されます
  • 限定提供データ(第2条第7項)は、令和5年改正により「秘密として管理されているものを除く」から「営業秘密を除く」に拡充され、秘密管理されているビッグデータも保護対象になりました
  • 限定提供データには民事的救済のみが認められ、刑事罰の対象とはなりません(営業秘密侵害罪との重要な違い)
  • 令和5年改正(2024年4月1日施行)により、外国公務員贈賄罪の法定刑が10年以下の拘禁刑又は3000万円以下の罰金に加重され、法人重課も10億円以下に引き上げられました
  • 令和5年改正により、日本国内事業者の営業秘密が日本国内で管理されている場合、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められ、日本の不正競争防止法が適用されます(第19条の2・第19条の3)
  • 営業秘密侵害事案では、民事と刑事は独立した制度として並行して検討されます
  • 2025年6月施行の改正刑法により「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました

営業秘密の該当性・侵害行為の判断は個別の事実関係により大きく異なります。具体的な状況については弁護士・弁理士への早期相談をおすすめします。

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