12-06 · 刑事・犯罪 · 要件系

盗撮・迷惑防止条例の規制|撮影罪(2023年新設)と都道府県条例の二層構造

盗撮行為は、2023年7月13日施行の性的姿態撮影等処罰法(正式名称:「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」・)による撮影罪と、各都道府県の迷惑防止条例による規制の二層構造の下で規制されています。撮影罪の新設により、性的姿態等の盗撮は国法レベルで全国一律に規制されることになり、罰則も強化されました。一方、各都道府県の迷惑防止条例は、撮影罪の対象外となる行為(卑わいな言動・つきまとい等)を引き続き規制しています。同一の盗撮行為が、性的姿態等該当性等により撮影罪と迷惑防止条例のいずれかまたは双方の制度類型に該当することがあります。この記事では、撮影罪と迷惑防止条例の二層構造・適用関係を条文とともに解説します。

盗撮行為は、2023年7月13日施行の性的姿態撮影等処罰法(正式名称:「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」・)による撮影罪と、各都道府県の迷惑防止条例による規制の二層構造の下で規制されています。撮影罪の新設により、性的姿態等の盗撮は国法レベルで全国一律に規制されることになり、罰則も強化されました。一方、各都道府県の迷惑防止条例は、撮影罪の対象外となる行為(卑わいな言動・つきまとい等)を引き続き規制しています。同一の盗撮行為が、性的姿態等該当性等により撮影罪と迷惑防止条例のいずれかまたは双方の制度類型に該当することがあります。この記事では、撮影罪と迷惑防止条例の二層構造・適用関係を条文とともに解説します。

カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:要件系
関連条文:(本法)性的姿態撮影等処罰法第2条〜第6条/(条例)各都道府県迷惑防止条例

こんな方へ

  • 盗撮はどの法律・条例で規制されているか確認したい
  • 2023年7月施行の撮影罪の内容と罰則を確認したい
  • 撮影罪と迷惑防止条例の違い・適用関係を整理したい
  • 国法(撮影罪)と条例(迷惑防止条例)の二層構造を理解したい
  • 撮影だけでなく、画像の提供・保管・配信・記録の処罰を確認したい
  • 撮影罪施行前(2023年7月12日以前)の盗撮行為への適用法令を確認したい

この記事でわかること

  • 撮影罪(性的姿態等撮影罪)の構成要件と罰則(性的姿態撮影等処罰法第2条)
  • 撮影罪以外の関連犯罪(提供罪・保管罪・配信罪・記録罪)
  • 国法(撮影罪)と条例(迷惑防止条例)の二層構造
  • 各都道府県迷惑防止条例による規制の概要(東京都を例に)
  • 撮影罪と迷惑防止条例の適用関係(制度類型転化の構造)
  • 撮影罪施行前の盗撮行為への適用法令
  • 盗撮行為と他の犯罪(住居侵入罪・児童ポルノ製造罪等)との関係

結論:盗撮は国法(撮影罪)と各都道府県条例(迷惑防止条例)の二層構造で規制される

根拠条文:性的姿態撮影等処罰法 第2条・(条例)各都道府県迷惑防止条例

区分撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)迷惑防止条例(各都道府県)
法源体系国法レベル(国法直接規律)都道府県条例レベル(条例委任)
適用範囲全国一律都道府県ごと(地域差あり)
対象行為性的姿態等の撮影・提供・保管・配信・記録卑わいな言動・盗撮類似行為・つきまとい等(条例による)
規制の場所場所を問わない(住居・浴場等の私的空間も対象)条例により範囲が異なる(東京都の場合は住居・浴場・更衣室等の私的場所も含む)
罰則(撮影行為の例)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(第2条第1項)条例による(東京都の盗撮撮影完遂は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金・第8条第2項)

重要: 2023年7月13日以降の性的姿態等の盗撮は、原則として撮影罪が適用されます。撮影罪に該当しない行為(着衣の上からの撮影による卑わいな言動・つきまとい等)は、引き続き各都道府県の迷惑防止条例で規制されます。同一の行為が撮影罪と迷惑防止条例の双方に該当する場合の取扱いは、検察官の起訴判断・裁判所の判断によります。

今すぐやること

  1. 撮影罪と迷惑防止条例のいずれが適用される行為か確認(性的姿態等該当性・場所要件等)
  2. 行為時期の確認(2023年7月13日以降か否か・撮影罪は遡及適用されない)
  3. 管轄都道府県の迷惑防止条例の最新条文を確認(都道府県により規制内容・罰則が異なる)
  4. 画像の流通段階の確認(撮影だけでなく提供・保管・配信・記録も処罰対象)
  5. 早期に弁護士に相談(撮影罪は親告罪ではなく、未遂も処罰されるため、早期対応が重要)

判断フロー①:撮影罪と迷惑防止条例のいずれが適用されるか

この行為にはどの法令が適用されるか?

2023年7月13日以降の行為

  • 性的姿態等の撮影(性的な部位・下着・性交等の姿態等)撮影罪(性的姿態撮影等処罰法第2条)
  • 16歳未満の者の性的姿態等の撮影同意の有無に関わらず撮影罪が成立する場合がある(第2条第1項第4号)
  • 撮影した画像の提供・保管・配信・記録提供罪・保管罪・配信罪・記録罪(同法第3条〜第6条)
  • 撮影罪の対象外(着衣の上からの撮影による卑わいな言動等)各都道府県迷惑防止条例

2023年7月13日より前の行為

  • 撮影罪は遡及適用されない(罪刑法定主義・憲法第39条)
  • 各都道府県迷惑防止条例・軽犯罪法等が適用

※ 個別事案の適用法令判断は法的に複雑なため、弁護士への相談を強く推奨します。

判断フロー②:迷惑防止条例で規制される行為類型

迷惑防止条例はどのような行為を規制しているか?

多くの都道府県迷惑防止条例で規制される行為

  • 公共の場所・公共の乗物等での卑わいな言動
  • 撮影罪の対象外となる盗撮類似行為(着衣の上からの撮影等)
  • つきまとい行為(ストーカー規制法と別建ての規制)
  • 不当な客引き・押売・たかり等の迷惑行為
  • 暴走族の標章等の表示(条例により異なる)

都道府県により異なる主な点

  • 規制対象行為の範囲
  • 「公共の場所」の定義(東京都の場合は住居・浴場・更衣室等の私的場所も対象)
  • 罰則の重さ(拘禁刑の上限・罰金額)
  • 常習加重規定の有無
  • 撮影完遂と未遂等の二段階罰則の有無

※ 各都道府県の条例の具体的内容は、管轄都道府県の最新条文を確認する必要があります。本記事では東京都条例を主たる例示として用います。

① 撮影罪(性的姿態等撮影罪)の構成要件と罰則

2023年7月13日施行の性的姿態撮影等処罰法第2条により、性的姿態等の撮影行為が国法レベルで全国一律に処罰の対象となりました。

根拠条文:性的姿態撮影等処罰法 第2条

性的姿態撮影等処罰法とは

正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」です。令和5年6月23日に公布され、本則第2条〜第8条は令和5年7月13日に施行されました。

立法の背景:

  • 従来は各都道府県の迷惑防止条例で盗撮を規制していたが、規制内容・罰則が都道府県により異なり、地域差が生じていた
  • 飛行機内での盗撮等、行為時の所在地特定が困難な事案で、適用条例の特定ができず処罰できない問題があった
  • 児童ポルノ製造罪(児童ポルノ禁止法)の保護対象は18歳未満の児童に限定されており、成人被害者の保護に隙間があった
  • 盗撮画像の保管・提供・配信等の関連行為が必ずしも処罰対象とされていなかった

位置づけ: 「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪等の性犯罪規定改正)と同日成立した姉妹改正です。両改正は性犯罪に関する規定全体の包括的見直しを構成しています。

撮影罪の構成要件(第2条第1項)

性的姿態撮影等処罰法第2条第1項は、次の4つの行為類型を撮影罪として処罰します。

構成要件の要旨「正当な理由」要件
第1号ひそかに、対象性的姿態等を撮影する行為あり(「正当な理由がないのに」)
第2号刑法第176条第1項各号の行為等により同意困難な状態にさせ又は乗じて、対象性的姿態等を撮影する行為なし(不同意性交等罪関連)
第3号行為の性質が性的なものではないとの誤信等をさせて、対象性的姿態等を撮影する行為なし(誤信類型)
第4号16歳未満の者を対象として性的姿態等を撮影する行為(13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長の場合に限る)あり(「正当な理由がないのに」)

重要: 「正当な理由がないのに」の要件は第1号と第4号のみに置かれ、第2号・第3号には置かれていません。これは第2号・第3号の行為類型(不同意・誤信)が、それ自体において正当性を欠くことが明らかであるためです。

「性的姿態等」と「対象性的姿態等」の概念区別

第2条第1項第1号は、次の二段構造で撮影対象を画定しています。

「性的姿態等」(イ + ロ):

  • 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
  • イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態

「対象性的姿態等」:

性的姿態等のうち、「人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているもの」を除いたもの。第2条第1項第1号〜第3号は「対象性的姿態等」を撮影対象とし、第4号は「性的姿態等」を撮影対象とします。

核心ポイント: 第1号〜第3号は「対象性的姿態等」(自己露出を除く)を、第4号は「性的姿態等」(自己露出も含む)を対象とします。この区別は、16歳未満の者については自己露出であっても処罰対象となる場合があることを意味します。

罰則と未遂処罰

内容罰則根拠条文
撮影罪(既遂)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金第2条第1項
撮影罪(未遂)処罰される第2条第2項

重要: 撮影罪は未遂も処罰されます(第2条第2項)。従来の東京都迷惑防止条例の盗撮規定では、撮影完遂と撮影に至らなかった場合で罰則が分かれていましたが、撮影罪では未遂罪として一律に処罰可能となりました。

刑法の不同意性交等罪等との関係(第2条第3項)

性的姿態撮影等処罰法第2条第3項は、撮影罪と他の性犯罪規定との競合関係について次のように規定しています。

「前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。」

これは、撮影罪が成立する場合であっても、刑法第176条(不同意わいせつ罪)・第179条第1項(不同意わいせつ等致死傷罪)の適用が排除されない旨を確認する規定です。同一の行為が撮影罪と他の性犯罪に該当する場合の取扱いは、検察官の起訴判断・裁判所の判断によります。

「正当な理由」の解釈

第2条第1項第1号・第4号の「正当な理由がないのに」要件について、「正当な理由」が認められる場合の解釈は文献・解説書により説明されていますが、具体的判断は事案ごとに個別になされます。一般的に指摘される類型としては、医療行為上の必要性・記録撮影・捜査機関による証拠保全等がありますが、これらに該当するか否かは目的・態様・状況により総合的に判断されます。

重要: 「正当な理由」の有無は法律上の重要な争点となり得るため、具体的な事案については弁護士への相談を推奨します。

② 撮影罪以外の関連犯罪(提供罪・保管罪・配信罪・記録罪)

撮影行為だけでなく、画像・映像の提供・保管・配信・記録も独立した犯罪として処罰されます。

根拠条文:性的姿態撮影等処罰法 第3条・[第4条]・[第5条]・[第6条]

性的姿態撮影等処罰法は、撮影行為の結果生じた画像・映像の流通段階に対する処罰を体系的に整備した点が大きな特徴です。

性的影像記録提供等罪(第3条)

行為類型罰則併科
性的影像記録を特定・少数の者に提供する行為(第3条第1項)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金なし
性的影像記録を不特定又は多数の者に提供する行為・公然陳列する行為(第3条第2項)5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するあり

性的影像記録保管罪(第4条)

行為類型罰則
第3条第2項の行為(不特定多数への提供等)を目的とする性的影像記録の保管2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金

性的姿態等影像送信罪(配信罪・第5条)

行為類型罰則併科
ライブストリーミング等による配信行為(第5条第1項各号)5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するあり

性的姿態等影像記録罪(第6条)

行為類型罰則
配信された影像を情を知って記録する行為(第6条第1項)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金

罰則体系の二段階構造

性的姿態撮影等処罰法の罰則は、以下の二段階構造を取っています。

段階対象罰則
基本罰則撮影(第2条)・特定少数への提供(第3条第1項)・記録(第6条)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
加重罰則不特定多数への提供(第3条第2項)・配信(第5条第1項)5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
中間罰則不特定多数への提供を目的とする保管(第4条)2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金

核心ポイント: 不特定多数への影響が大きい行為(不特定多数への提供・配信)には併科可能な重い罰則が課されています。これは画像・映像の流通拡大による被害の拡大を防止する立法趣旨に基づくものです。

③ 国法(撮影罪)と条例(迷惑防止条例)の二層構造

盗撮規制は、国法(性的姿態撮影等処罰法)による全国一律の規律と、各都道府県条例による地域差のある規律の二層構造を形成しています。

根拠条文:性的姿態撮影等処罰法 第2条・(条例)各都道府県迷惑防止条例

二層構造の基本理解

法源層法令適用範囲規制対象
第一層:国法直接規律性的姿態撮影等処罰法全国一律性的姿態等の撮影・提供・保管・配信・記録
第二層:条例規律各都道府県迷惑防止条例都道府県ごと(地域差あり)卑わいな言動・盗撮類似行為・つきまとい等(条例による)

核心ポイント: 撮影罪は国法レベルで全国一律に適用される一方、迷惑防止条例は各都道府県が定めるため規制内容・罰則に地域差があります。同一の盗撮行為が、性的姿態等該当性・場所要件等により、撮影罪と迷惑防止条例のいずれかまたは双方の制度類型に該当することがあります。

制度類型転化の構造(2023年7月13日施行を境とした)

2023年7月13日の撮影罪施行を境に、性的姿態等の盗撮に対する適用法令の制度類型が転化しました。

期間適用される制度類型
2023年7月12日以前条例規律のみ(各都道府県迷惑防止条例・軽犯罪法等)
2023年7月13日以降国法規律(撮影罪)+ 条例規律(迷惑防止条例)の二層構造

重要: 「禁止」ではなく「制度類型転化」として整理します。撮影罪施行前後で、盗撮行為自体が「禁止されていた/禁止されていない」という二項的構造ではなく、「適用法令の制度類型」が変化したという法構造的整理です。端的に言えば、条例中心の規制体系(地域差あり)に、全国一律の国法層(撮影罪)が追加された、という構造です。

同一行為に対する両法令の関係

同一の盗撮行為が撮影罪と迷惑防止条例の双方に該当する場合、両法令の関係について以下のような整理が可能です。

  • 撮影罪が成立する場合:性的姿態等該当性等の要件を充たすため、原則として撮影罪が適用される
  • 撮影罪が成立しない場合:例えば「着衣の上からの撮影による卑わいな言動」は撮影罪の要件を充たさない場合があり、迷惑防止条例の適用対象となり得る
  • 両法令が成立する場合:実務上の取扱いは検察官の起訴判断・裁判所の判断による

具体的事案における適用法令の判断は、構成要件該当性の精緻な検討を要するため、弁護士への相談が不可欠です。

CC=11 §F-23-1-X(風営業)との対比

JapanCodex の他の許可・届出体系(風営業等の §F-23-1-X:条例委任 + 制度類型転化を伴う許可・届出体系)と本記事の二層構造(罰則体系)を対比すると、次のような違いがあります。

対比軸§F-23-1-X(風営業の許可・届出体系)本記事(撮影罪 + 迷惑防止条例の罰則体系)
規制の性質行政規制(許可・届出)刑事規制(罰則)
国法と条例の関係国法(風営法)が許可制を規律 + 条例が細部を委任国法(撮影罪)が罰則を規律 + 条例(迷惑防止条例)が独自の罰則を規律
全国一律性許可制度自体は全国一律・運用細部に地域差撮影罪は全国一律・条例規律は地域差大

両者はいずれも「国法と条例の二層構造」を持つ点で共通しますが、規制手法(行政規制か刑事規制か)が異なります。

④ 各都道府県迷惑防止条例による規制(東京都を例に)

迷惑防止条例は各都道府県が制定する条例で、規制内容・罰則は都道府県ごとに異なります。本節では東京都条例を主たる例として解説します。

根拠条文:(条例)東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)

東京都迷惑防止条例の沿革と概要

東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(昭和37年東京都条例第103号・通称「迷惑防止条例」)は、全国の迷惑防止条例の先駆けとして昭和37年に制定されました。その後の社会情勢の変化に応じて多数の改正を経ています。令和7年6月1日施行の令和6年条例第153号による改正により、罰則表記が懲役から拘禁刑に移行しました(令和4年改正刑法による拘禁刑一本化への対応)。

東京都条例による盗撮規制の構造(第5条第1項第2号)

東京都条例第5条第1項第2号は、次の場所における「人の通常衣服で隠されている下着又は身体」の撮影行為等を規制しています。

区分場所
住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く)

重要: 東京都条例は、住居・浴場・更衣室等の私的場所も対象としています(イ)。「迷惑防止条例は公共の場所に限定される」という整理は、東京都条例については正確ではありません。ただし、撮影罪は「場所を問わない」一般的な規制であるのに対し、東京都条例は具体的な場所類型を列挙する点で構造が異なります。

東京都条例第8条の罰則構造(二段階構造)

東京都条例第8条は、行為類型に応じた二段階の罰則構造を採っています。

違反態様罰則根拠
第5条第1項第2号違反による撮影完遂者1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金第8条第2項
第5条第1項第1号・第3号違反(盗撮以外の卑わいな言動等)6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金第8条第1項
常習として第8条第2項違反(盗撮撮影完遂)の常習者2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金第8条第7項
常習として第8条第1項違反1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金第8条第8項

重要: 撮影罪施行後も、東京都条例の盗撮規定は維持されており、撮影罪と東京都条例の盗撮規定は併存しています。両者の関係は、構成要件該当性に応じて適用が判断されます。

都道府県による条例規制の差異

迷惑防止条例は都道府県ごとに制定されるため、規制対象・罰則・「公共の場所」の定義等が異なります。具体的事案では、行為時の所在地の管轄都道府県の最新条例を確認する必要があります。各都道府県の条例の正確な内容は改正されることがあるため、条例の最新条文を一次情報(各都道府県の例規データベース等)で確認することが重要です。

撮影罪施行後の迷惑防止条例の役割

2023年7月13日の撮影罪施行により、性的姿態等の盗撮は全国一律で撮影罪により規制されることになりました。一方、迷惑防止条例は次の役割を維持しています。

  • 撮影罪の対象外行為:着衣の上からの撮影による卑わいな言動等
  • 盗撮以外の規制対象:つきまとい・押売・客引き・たかり等の盗撮以外の迷惑行為
  • 重複範囲での適用余地:撮影罪と重複する範囲についても引き続き適用の余地がある

⑤ 撮影罪施行前(2023年7月12日以前)の盗撮行為への適用

2023年7月12日以前の盗撮行為には、罪刑法定主義により撮影罪は適用されません。各都道府県迷惑防止条例・軽犯罪法等が適用されます。

根拠条文:憲法第39条(事後法による処罰の禁止・罪刑法定主義)

撮影罪は2023年7月13日施行であり、罪刑法定主義(事後法による処罰の禁止・憲法第39条)により、施行日以前に行われた盗撮行為には適用されません。施行日以前の盗撮行為に適用される法令は次のとおりです。

行為類型適用される法令
公共の場所等での盗撮各都道府県の迷惑防止条例
軽犯罪法に該当する行為軽犯罪法第1条第23号(人の住居等を窃視する行為)
児童(18歳未満)を被写体とする盗撮児童ポルノ禁止法(児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)
建造物への侵入を伴う盗撮刑法第130条(住居侵入罪・建造物侵入罪)

重要: 適用法令の判断は「行為時期」によって決まります。行為発覚時期や告訴時期ではなく、盗撮行為そのものが行われた時期で判断されます。

⑥ 盗撮行為と他の犯罪との関係

盗撮行為は、撮影罪・迷惑防止条例以外にも、関連する他の犯罪と問題となる場合があります。

関連犯罪根拠条文内容
児童ポルノ製造罪(本法)児童ポルノ禁止法第7条18歳未満の児童の性的姿態を撮影する場合(撮影罪と併存可能性あり)
住居侵入罪・建造物侵入罪(本法)刑法第130条住居・建造物に侵入して盗撮した場合
軽犯罪法違反(窃視罪)(本法)軽犯罪法第1条第23号人の住居・浴場・更衣場・便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為
ストーカー行為等(本法)ストーカー行為等の規制等に関する法律つきまとい等の場合
不同意わいせつ罪(本法)刑法第176条撮影罪第2条第1項第2号関連(同意困難状態での撮影が不同意わいせつに該当する場合)

核心ポイント: 盗撮行為は単一の罪のみで処理されるとは限らず、撮影罪・建造物侵入罪・児童ポルノ製造罪等が併存する場合があります。具体的な適用は事案により判断されます。撮影罪第2条第3項は刑法第176条・第179条第1項の適用を妨げない旨を明示しています。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第2条第1項性的姿態撮影等処罰法(本法)中核性的姿態等撮影罪(撮影罪)の構成要件
第2条第2項性的姿態撮影等処罰法(本法)中核撮影罪の未遂処罰
第2条第3項性的姿態撮影等処罰法(本法)中核刑法第176条・第179条第1項の適用関係
第3条性的姿態撮影等処罰法(本法)中核性的影像記録提供等罪
第4条性的姿態撮影等処罰法(本法)中核性的影像記録保管罪
第5条性的姿態撮影等処罰法(本法)中核性的姿態等影像送信罪(配信罪)
第6条性的姿態撮影等処罰法(本法)中核性的姿態等影像記録罪
各都道府県迷惑防止条例都道府県条例(条例)中核卑わいな言動・盗撮類似行為等の規制(例:東京都条例第5条第1項第2号・第8条)
第176条刑法(本法)周辺不同意わいせつ罪(撮影罪第2条第1項第2号関連)
第130条刑法(本法)周辺住居侵入罪・建造物侵入罪
第1条第23号軽犯罪法(本法)周辺窃視罪
第7条児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(本法)周辺児童ポルノ製造罪
第39条日本国憲法(本法)周辺罪刑法定主義(事後法による処罰の禁止)

まとめ

  • 盗撮行為は、性的姿態撮影等処罰法(撮影罪・2023年7月13日施行・)と各都道府県迷惑防止条例による二層構造で規制されています
  • 第一層は国法直接規律(性的姿態撮影等処罰法・全国一律)、第二層は条例規律(各都道府県迷惑防止条例・地域差あり)です
  • 撮影罪の構成要件は4類型:(1)ひそかに撮影(第1号)・(2)不同意状態での撮影(第2号)・(3)誤信による撮影(第3号)・(4)16歳未満を対象とする撮影(第4号)。「正当な理由」要件は第1号と第4号のみに置かれています
  • 性的姿態等」と「対象性的姿態等」の概念区別があり、第1号〜第3号は「対象性的姿態等」(自己露出を除く)を、第4号は「性的姿態等」(自己露出も含む)を対象とします
  • 撮影罪の罰則は3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(第2条第1項)、未遂も処罰(第2条第2項)
  • 撮影罪は場所を問わず適用され、私的空間(住居・宿泊施設等)での盗撮も対象です
  • 画像の流通段階も処罰:提供罪・保管罪・配信罪・記録罪(第3条〜第6条)。特に不特定多数への提供・配信は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金(併科可能)と加重されます
  • 撮影罪第2条第3項は刑法第176条(不同意わいせつ罪)・第179条第1項の適用を妨げない旨を明示しています
  • 東京都迷惑防止条例は撮影罪施行後も維持されており、住居・浴場等の私的場所と公共の場所等の両方を対象とします。罰則は撮影完遂で1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(第8条第2項)、常習で2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(第8条第7項)
  • 2023年7月13日より前の盗撮行為には撮影罪は適用されず(罪刑法定主義・憲法第39条)、各都道府県迷惑防止条例・軽犯罪法等が適用されます
  • 盗撮行為は住居侵入罪・児童ポルノ製造罪・軽犯罪法違反等、他の罪と併存する場合があります
  • 2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました
  • 性的姿態撮影等処罰法は、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(不同意性交等罪等の新設)と同日成立した姉妹改正です

盗撮事件の適用法令・刑罰・対応は個別事案により大きく異なります。具体的な状況については弁護士への早期相談をおすすめします。

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