12-03 · 刑事・犯罪 · 比較系

刑法の故意と過失の違い|「わざと」と「うっかり」で刑事責任はどう変わるか

刑法では、同じ結果(例:人を死亡させた)が生じた場合でも、「わざと(故意)」か「うっかり(過失)」かによって、成立する犯罪・刑罰が大きく異なります。故意がなければ原則として刑事罰を受けない、という大原則があり、過失犯として処罰されるのは法律が特別に定めた場合に限られます(刑法第38条第1項)。刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます。この記事では、故意・過失の定義・違い・具体的な犯罪への当てはめを条文とともに解説します。

刑法では、同じ結果(例:人を死亡させた)が生じた場合でも、「わざと(故意)」か「うっかり(過失)」かによって、成立する犯罪・刑罰が大きく異なります。故意がなければ原則として刑事罰を受けない、という大原則があり、過失犯として処罰されるのは法律が特別に定めた場合に限られます(刑法第38条第1項)。刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます。この記事では、故意・過失の定義・違い・具体的な犯罪への当てはめを条文とともに解説します。

カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:比較系
関連条文:(本法)刑法第38条・第199条・第209条・第210条・第211条

こんな方へ

  • 「故意」「過失」という言葉の法律上の意味を確認したい
  • 故意犯と過失犯では刑罰がどう違うか確認したい
  • 交通事故・医療ミス等が刑事上どのように扱われるか理解したい
  • 「知らなかった」「気づかなかった」が刑事責任に影響するか確認したい
  • 未必の故意・認識ある過失のグレーゾーンを理解したい

この記事でわかること

  • 故意・過失の法律上の定義(刑法第38条)
  • 故意犯と過失犯の刑罰の違い
  • 未必の故意・認識ある過失の境界線
  • 過失犯として処罰される主な犯罪
  • 錯誤(事実の勘違い)が故意に与える影響

結論:故意がなければ原則として刑事罰なし。過失犯は法律が特別に定めた場合のみ成立する

根拠条文:刑法 第38条第1項

刑法第38条第1項:

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

判例・通説の整理では、故意は「犯罪事実の認識とその結果の認容」過失は「予見可能性と回避可能性があったにもかかわらず注意義務を尽くさなかったこと」と整理されています。

比較項目故意犯過失犯
定義罪を犯す意思をもって行う行為。判例・通説では犯罪事実の認識とその結果の認容と整理されています予見可能性と回避可能性があったにもかかわらず注意義務を尽くさなかった行為(判例・通説の整理)
原則処罰される(刑法第38条第1項本文)原則として処罰されない(同項ただし書による法律の特別の規定が必要)
処罰の条件故意があり、他の要件(違法性・有責性等)を満たせば成立法律に特別の規定がある場合のみ
刑罰の重さ重い軽い
例:人を死亡させた場合殺人罪(第199条)過失致死罪(第210条)・業務上過失致死罪(第211条)等

重要: 同じ「人を死亡させた」という結果でも、故意があれば殺人罪、過失があれば過失致死罪、業務上の過失や重大な過失があれば業務上過失致死罪・重過失致死罪と、成立する犯罪・刑罰が大きく異なります。

判断フロー①:故意犯か過失犯か

この行為は故意犯か過失犯か?

故意犯と評価される可能性

  • 結果が発生することを認識しながら行った故意が認められる可能性があります
  • 結果が発生するかもしれないと思いながら、それでもかまわないと行動した未必の故意として故意が認められる可能性があります

過失犯と評価される可能性

  • 結果が発生することを予見できたのに、注意を怠って行動した過失が認められる可能性があります
  • 業務上必要な注意を怠った業務上過失として重く評価される可能性があります(刑法第211条)

※ 故意・過失の判断は行為時の主観的な認識・意思の内容によります。外部から認識を直接確認することはできないため、当時の状況・行為態様等から推認されます。判断は個別の事実関係によって異なるため、専門家への相談を推奨します。

判断フロー②:未必の故意か認識ある過失か

結果が発生するかもしれないと思いながら行為した場合、故意か過失か?

未必の故意(故意)

  • 結果が発生するかもしれないと認識し、それでもかまわないと思って行動した

認識ある過失(過失)

  • 結果が発生するかもしれないと思ったが、発生しないだろうと信じて行動した

※ 未必の故意と認識ある過失の区別は、「結果を認容していたか」という行為者の内心による判断です(認容説)。実際の判断は、危険性の程度・回避行動の有無・行為態様などの事情を総合的に考慮して行われます。境界は必ずしも明確ではなく、個別の事情によって評価が変わることが多い領域です。

① 故意の意義と種類

刑法第38条第1項本文の「罪を犯す意思」が故意とされ、判例・通説では犯罪事実の認識・認容を内容とすると解されています。

根拠条文:刑法 第38条第1項

条文の規定

刑法第38条第1項本文は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定めており、これが故意犯処罰の原則を示すとされています。「罪を犯す意思」(故意)の具体的な内容は条文に定義がなく、判例・学説により解釈されています。

判例・通説では、故意の内容は犯罪事実の認識・認容と解されています。なお、未必の故意と認識ある過失の区別をめぐる学説には認識説・認容説等の対立がありますが、判例は認容説に近い立場をとっているとされています。

故意の種類(判例・学説上の整理)

種類内容
確定的故意結果が発生することを確実と認識して行為する「絶対に殺してやる」と思って刃物で刺す
概括的故意多数の中の不特定者に結果が生じることを認識して行為する群衆に向けて爆発物を投げる
未必の故意結果が発生するかもしれないと認識しつつ、それでもかまわないと認容して行為する「死ぬかもしれないが、かまわない」と思って危険な行為をする

未必の故意は故意として扱われます(判例・通説)。 「わざとではなかった」という主張があっても、未必の故意が認められれば故意犯として処罰される可能性があります。

② 過失の意義と種類

過失犯は刑法第38条第1項ただし書により、法律に特別の規定がある場合のみ処罰されます。判例・通説では過失とは予見可能で回避可能な結果を回避しなかった注意義務違反と解されています。

根拠条文:刑法 第38条第1項ただし書・[第209条]・[第210条]・[第211条]

過失犯処罰の根拠

刑法第38条第1項ただし書は「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と定めており、これが過失犯処罰の法律上の根拠となっています。過失犯として処罰される犯罪は刑法その他の法律で個別に明文の規定が置かれている場合に限られます。

過失の種類

種類内容主な例
普通過失一般的な注意義務違反不注意による傷害・器物損壊等
業務上過失業務に従事する者の注意義務違反(刑法第211条前段)医療ミス・業務中の事故等
重過失注意義務違反の程度が著しい場合(刑法第211条後段)重大で明らかな不注意による結果

「業務」の意義

刑法第211条の「業務」について、最判昭和33年4月18日は「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるもの」と解しています(業務性の判断基準)。職業性・営利性は問わないとされています。

過失犯として処罰される主な犯罪

犯罪条文罰則
過失傷害罪(本法)刑法第209条第1項30万円以下の罰金又は科料
過失致死罪(本法)刑法第210条50万円以下の罰金
業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪(本法)刑法第211条5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
過失運転致死傷罪(本法)自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(傷害が軽いときは情状による刑の免除あり)

注意: 2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の罰則表記は現行(拘禁刑)に統一しています。

危険運転致死傷罪との関係

過失運転致死傷罪と対比される犯罪として、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第2条)があります。これは「過失犯」ではなく、運転者が一定の危険な運転行為を故意に行い、その結果として人を死傷させた場合に成立する故意犯として整理されています。

区分犯罪条文罰則
故意犯危険運転致死傷罪自動車運転死傷処罰法第2条負傷:15年以下の拘禁刑/死亡:1年以上の有期拘禁刑
過失犯過失運転致死傷罪自動車運転死傷処罰法第5条7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金

重要: 危険運転致死傷罪は「危険な運転行為を故意に行ったこと」が要件であり、結果(死傷)について故意があった必要はないとされています(判例・通説)。両罪は同じ自動車運転死傷処罰法に規定されていますが、構成要件・刑罰が大きく異なります。

業務上過失致死傷罪と過失致死傷罪の関係

業務上過失致死傷罪(刑法第211条)は、過失致死罪(第210条)・過失傷害罪(第209条)より重い罰則が定められています。これは業務に従事する者には高度の注意義務が課されるとする判例・通説の整理に基づくものです。

過失傷害罪は親告罪: 刑法第209条第2項により、過失傷害罪は告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされています。

③ 錯誤(事実の勘違い)が故意に与える影響

錯誤の処理について、刑法には明文の規定が限定的に置かれており(第38条第2項・第3項)、その他の錯誤類型は判例・学説により処理されます。

根拠条文:刑法 第38条第2項・[第3項]

刑法第38条第2項:重い罪と軽い罪の錯誤

刑法第38条第2項:

重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。

これは、実際は重い罪に当たる行為をしたが、行為時にはその重い罪の事実を認識していなかった場合に、重い罪では処断できないことを定める規定です。例えば、自己所有物を放火するつもりだった(非現住建造物等放火罪)が、実際には人がいる建造物だった(現住建造物等放火罪)場合等が該当します。

事実の錯誤の処理

事実の錯誤(犯罪事実の認識にズレがある場合)の処理については、第38条第2項以外には刑法に明文規定がなく、判例・学説により処理されています。一般に以下のように分類されます:

  • 具体的事実の錯誤: 同じ犯罪類型内での錯誤(人を傷つけようとして別人を傷つけた等)
  • 抽象的事実の錯誤: 異なる犯罪類型間の錯誤(軽い罪と重い罪の錯誤等。第38条第2項が一部適用される)

具体的な処理は判例・学説の対立があり、個別の事案について弁護士への相談が必要です。

刑法第38条第3項:法律の錯誤(違法性の錯誤)

刑法第38条第3項:

法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

「この行為が違法だと知らなかった」という場合(法律の錯誤)について、法律の不知は原則として故意を阻却しないことを定める規定です。ただし書により、情状により刑を減軽することができるとされています。

④ 故意犯・過失犯と民事責任の関係

刑事上の故意・過失の認定は民事の損害賠償責任に影響しますが、両者の判断基準は異なります。

場面刑事責任民事責任(不法行為・民法第709条)
故意による行為故意犯として重く処罰損害賠償責任あり
過失による行為法律に規定がある場合のみ処罰過失があれば損害賠償責任あり
不可抗力刑事責任なし原則として民事責任も否定

刑事と民事の違い: 刑事では「故意がなければ原則処罰しない」という大原則があるのに対し、民事では「故意・過失どちらでも損害賠償責任がある」というのが原則です(民法第709条)。刑事で無罪でも民事で賠償責任が認められる場合があります。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第38条第1項刑法(本法)中核故意(罪を犯す意思のない行為は罰しない)・過失犯処罰の根拠(ただし書)
第38条第2項刑法(本法)中核重い罪と軽い罪の錯誤の処断刑
第38条第3項刑法(本法)中核法律の錯誤(違法性の錯誤)
第199条刑法(本法)周辺殺人罪(故意犯の代表例)
第209条刑法(本法)中核過失傷害罪・親告罪
第210条刑法(本法)中核過失致死罪
第211条刑法(本法)中核業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪

まとめ

  • 刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます
  • 故意がなければ原則として刑事罰を受けないというのが刑法の大原則です(刑法第38条第1項本文)
  • 過失犯は法律に特別の規定がある場合のみ成立します(同項ただし書)。過失犯として処罰される犯罪は刑法その他の法律で個別に明文の規定が置かれている場合に限られます
  • 「わざとではなかった」でも未必の故意(結果が発生してもかまわないという認容)があれば故意犯として処罰される可能性があります(判例・通説)
  • 未必の故意と認識ある過失の境界は「結果の認容(かまわない)があるかどうか」ですが、個別の事情によって評価が異なります
  • 業務上過失(刑法第211条)は普通の過失より重く、判例(最判昭和33年4月18日)は「業務」を「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるもの」と解しています
  • 重過失(刑法第211条後段)は注意義務違反の程度が著しい場合で、業務上過失と同じ罰則です
  • 第38条第2項は重い罪と軽い罪の錯誤の処断刑に関する規定であり、事実の錯誤全般の根拠条文ではありません
  • 第38条第3項は法律の不知が原則として故意を阻却しないことを定めています(情状による減軽は可能)
  • 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第5条)は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です
  • 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第2条)は「危険な運転行為を故意に行ったこと」が要件である故意犯であり、過失運転致死傷罪(過失犯)とは構成要件・刑罰が大きく異なります
  • 2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました
  • 過失傷害罪(第209条)は親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない・第209条第2項)です
  • 刑事で無罪でも民事で賠償責任が認められる場合があります。刑事と民事は独立した制度です

故意・過失の認定は個別の事実関係の評価によって異なるため、具体的な事案については弁護士への相談をおすすめします。

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