12-02 · 刑事・犯罪 · 比較系

時効の種類(刑事・民事)|公訴時効と消滅時効の仕組みと違い

「時効」という言葉は刑事・民事の両方で使われますが、制度の目的・仕組み・効果はまったく異なります。刑事の「公訴時効」は犯罪を訴追できなくなる制度であり、民事の「消滅時効」は権利を行使できなくなる制度です。刑事訴訟法・民法とも国法レベルの法律として全国一律に適用されます。どちらも「時間が経てば何とかなる」という誤解が生じやすい領域です。この記事では、刑事・民事それぞれの時効の仕組みと違いを条文とともに解説します。

「時効」という言葉は刑事・民事の両方で使われますが、制度の目的・仕組み・効果はまったく異なります。刑事の「公訴時効」は犯罪を訴追できなくなる制度であり、民事の「消滅時効」は権利を行使できなくなる制度です。刑事訴訟法・民法とも国法レベルの法律として全国一律に適用されます。どちらも「時間が経てば何とかなる」という誤解が生じやすい領域です。この記事では、刑事・民事それぞれの時効の仕組みと違いを条文とともに解説します。

カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:比較系
関連条文:(本法)刑事訴訟法第250条・第253条・第254条・第255条/民法第147条〜第150条・第166条・第724条・第724条の2

こんな方へ

  • 刑事と民事の「時効」がどう違うか整理したい
  • 犯罪被害を受けたが、刑事・民事それぞれいつまで請求・告訴できるか確認したい
  • 損害賠償請求権の時効期間を確認したい
  • 時効を「止める」方法(完成猶予・更新)を確認したい
  • 殺人・性犯罪等の時効が廃止・延長された経緯を確認したい

この記事でわかること

  • 刑事の公訴時効と民事の消滅時効の根本的な違い
  • 刑事の公訴時効の期間(罪の重さによる区分)
  • 民事の消滅時効の期間(不法行為・債権等)
  • 時効の完成猶予・更新(旧「中断」)の方法
  • 時効が廃止された重大犯罪

結論:刑事の「公訴時効」は訴追権の消滅、民事の「消滅時効」は援用により請求が認められなくなる制度。目的・起算点・効果がすべて異なる

比較項目刑事:公訴時効民事:消滅時効
根拠法(本法)刑事訴訟法第250条(本法)民法第166条・第724条等
何が消滅するか国家の訴追権(起訴できなくなる)援用により請求が認められなくなる
起算点犯罪行為が終わった時(刑事訴訟法第253条第1項)権利を行使できる時・損害と加害者を知った時等(民法第166条・第724条)
期間の決め方犯罪の法定刑の重さによる権利の種類・態様による
効果公訴を提起できなくなる(起訴不可)相手方が援用すれば権利消滅
時効の停止/完成猶予・更新起訴による停止(刑事訴訟法第254条)・国外逃亡等による停止(同第255条)裁判上の請求・催告等による(民法第147条〜第150条)
廃止・特則人を死亡させた罪で死刑にあたるもの等は廃止(2010年改正)生命・身体侵害の特則あり(民法第724条の2)

重要: 刑事の時効が完成しても民事の損害賠償請求権が消滅するわけではなく、また民事の時効が完成しても刑事訴追ができなくなるわけではありません。両者は完全に独立した制度です。さらに、民事の消滅時効は期間が経過しただけでは効力は生じず、相手方が援用して初めて権利が消滅します。

判断フロー①:刑事の時効は完成しているか

この犯罪について、公訴時効は完成しているか?

時効が廃止されている(時効なし)

  • 人を死亡させた罪であって死刑に当たるもの(殺人罪等)

人を死亡させた罪であって拘禁刑以上の刑に当たるもの(死刑にあたるものを除く):刑事訴訟法第250条第1項

  • 無期拘禁刑に当たるもの30年
  • 長期20年以上の有期拘禁刑に当たるもの20年
  • それ以外(長期20年未満の有期拘禁刑に当たるもの)10年

※ 起算点は犯罪行為が終わった時(刑事訴訟法第253条第1項)。起訴により進行停止(同法第254条)、犯人が国外にいる場合・逃げ隠れている場合に進行停止(同法第255条)の規定があります。性犯罪の一部については第3項により時効期間延長、被害者が18歳未満の場合は第4項により被害者が18歳に達する日までの期間が加算されます(2023年改正・)。時効期間や個別の罪の対応については、現行の条文と最新の改正経緯を確認のうえ、弁護士への相談を推奨します。

判断フロー②:民事の時効は完成しているか

この民事上の権利(損害賠償請求権等)の時効は完成しているか?

不法行為による損害賠償請求権(民法第724条)

  • 損害と加害者を知った時から3年(第1号・主観的起算点)
  • 不法行為の時から20年(第2号・客観的起算点)
  • 2020年改正により第2号は「時効によって消滅する」と明記され、消滅時効として整理されています

生命・身体侵害の損害賠償請求権(民法第724条の2)

  • 損害と加害者を知った時から5年(2020年改正により3年から5年に延長)
  • 不法行為の時から20年(民法第724条第2号と同じ)

※ 民事の消滅時効は、相手方が援用して初めて効力を生じます(民法第145条)。時効の起算点は権利の種類・事情によって異なります。「知った時」の認定は個別の判断が必要です。

① 刑事の公訴時効

公訴時効とは、一定期間が経過すると国家が犯罪者を起訴できなくなる制度です。

根拠条文:刑事訴訟法 第250条(時効期間)・[第253条](起算点)・[第254条](起訴による停止)・[第255条](国外逃亡・逃げ隠れによる停止)

公訴時効の目的

  • 時間の経過による証拠の散逸・立証の困難
  • 犯人が長期間社会生活を送っている場合の社会復帰への配慮
  • 法的安定性の確保

起算点(第253条)

刑事訴訟法第253条第1項は「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する」と定めています。継続犯(監禁罪等)の場合は犯罪行為が終了した時点から進行します。同条第2項は「共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する」と定めています。

時効の進行停止(第254条・第255条)

公訴時効の進行を停止する規定は、第254条と第255条に分かれています:

条文停止事由
第254条第1項公訴の提起により進行停止(管轄違・公訴棄却の裁判が確定した時から進行を再開)
第254条第2項共犯の一人に対する公訴提起による停止は、他の共犯にも効力を有する
第255条犯人が国外にいる場合、又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達等ができない場合

重要: 起訴・共犯者起訴による停止は第254条、国外逃亡・逃げ隠れによる停止は第255条であり、根拠条文が異なります。「時間が経てば必ず逃げ切れる」という理解は誤りです。

2010年改正による重大犯罪の時効廃止・期間延長

2010年(平成22年)4月27日公布・施行の刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律により、以下の改正が行われました:

  • 人を死亡させた罪であって死刑に当たるもの(殺人罪等):公訴時効を廃止
  • 人を死亡させた罪であって拘禁刑(旧・禁錮)以上の刑に当たるもの:公訴時効期間を延長

この改正は附則第3条第2項により、施行日(2010年4月27日)時点で公訴時効が完成していない罪にも適用されます(最高裁平成27年12月3日判決により合憲と判断)。

なお、現行の刑事訴訟法第250条は次の構造になっています:

  • 第1項:人を死亡させた罪であって拘禁刑以上の刑に当たるもの(4区分)
  • 第2項:それ以外の罪(7区分)
  • 第3項:不同意性交等罪等の一部について時効期間延長(2023年改正・)
  • 第4項:第3項各号に掲げる罪について、被害者が犯罪行為が終わった時に18歳未満である場合の時効計算特則(2023年改正で新設)

2023年改正による性犯罪の公訴時効延長

2023年6月23日公布・施行の改正刑事訴訟法により、性犯罪の公訴時効が次のように延長されました:

改正前改正後(第3項)
強制性交等致傷罪等(刑法第181条・第241条第1項等)15年20年
不同意性交等罪・監護者性交等罪(刑法第177条・第179条第2項等)10年15年
不同意わいせつ罪・監護者わいせつ罪(刑法第176条・第179条第1項等)7年12年

さらに、第4項は被害者が犯罪行為が終わった時に18歳未満である場合、第3項各号に定める期間に犯罪行為が終わった時から被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算することを定めています。

具体例: 12歳のときに不同意性交等罪の被害に遭った場合、第3項により公訴時効期間は15年に延長され、さらに第4項により被害者が18歳になる日までの6年が加算されるため、公訴時効は被害者が33歳に達する日まで完成しません(合計21年)。

これは、心身ともに未熟な子どもや若年者は、性犯罪の被害を保護者などの第三者に申告することが難しいという特性を踏まえ、被害申告の機会を実質的に確保するための改正です。

② 民事の消滅時効

消滅時効とは、権利者が一定期間権利を行使しない場合に、相手方(義務者)が時効を援用することで権利が消滅する制度です。

根拠条文:民法 第166条(債権等の消滅時効)・[第724条](不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)・[第724条の2](生命・身体侵害の特則)・[第145条](援用)

民事消滅時効の特徴

  • 2つの起算点: 民法第166条第1項は「権利を行使することができることを知った時から5年(主観的起算点・第1号)」と「権利を行使することができる時から10年(客観的起算点・第2号)」の2つの起算点を定めており、いずれか早い方で時効が完成します
  • 援用が必要: 民事の消滅時効は、期間が経過しただけでは効力は生じず、相手方(義務者)が援用して初めて権利が消滅します(民法第145条)。裁判所が職権で時効を適用することはなく、必ず当事者の主張(援用)が必要です。「時効=自動で消える」という理解は誤りです

不法行為による損害賠償請求権(民法第724条)

民法第724条:

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

第2号の整理(2020年改正の重要ポイント):

2020年4月1日施行の改正民法により、第2号の「不法行為の時から20年」は明確に消滅時効として整理されました。改正前の判例(最判平成元年12月21日)はこれを「除斥期間」と解しており、完成猶予・更新の対象外、援用不要と扱っていましたが、改正後は消滅時効として、完成猶予・更新の対象となり、援用も必要となります。改正前は援用不要・中断(旧用語)不可とされていた点が、実務上大きく変わっています。

生命・身体侵害の損害賠償請求権(民法第724条の2)

民法第724条の2は、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権について、第724条第1号の「3年間」を「5年間」に延長する特則を定めています(2020年改正により新設)。

「不法行為の時から20年」(第2号)の期間は、生命・身体侵害の場合も同じ20年です。

③ 時効の完成猶予・更新(民法第147条〜第150条)

民事の消滅時効は、一定の行為によって完成が阻止(完成猶予)または新たに進行をリセット(更新)することができます。

根拠条文:民法 第147条〜第150条(2020年改正後)

「時効の中断」「時効の停止」という用語は2020年改正で廃止されています。 現行法では「完成猶予」と「更新」を使います。

主な完成猶予・更新の方法

方法根拠条文効果
裁判上の請求・訴訟提起民法第147条完成猶予(判決確定後に更新)
強制執行・担保権実行民法第148条完成猶予(手続終了後に更新)
仮差押え・仮処分民法第149条完成猶予
催告(内容証明郵便等)民法第150条第1項6か月間の完成猶予
承認(相手方が債務を認める)民法第152条更新(新たに時効が進行)

催告の限界(民法第150条第2項)

民法第150条第2項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない」と定めています。再度の催告では完成猶予の効力は生じません。

刑事の時効停止との違い

刑事の公訴時効は被告人ごとに処理されます(起訴による停止=第254条、国外逃亡等による停止=第255条)。民事と刑事では「時効を止める」仕組みが根本的に異なります。

④ 刑事と民事の時効が交差するケース

同一の犯罪行為について、刑事の公訴時効と民事の損害賠償請求権の時効が別々に進行します。

よくある誤解

誤解正しい理解
「刑事の時効が完成したら民事も請求できない」刑事と民事の時効は独立しています。刑事時効完成後も民事請求は可能な場合があります
「民事で和解したから刑事は起訴されない」民事の和解は刑事手続きとは無関係です
「刑事で無罪だったから民事でも勝てる」刑事と民事では証明の基準・立証責任が異なります

犯罪被害者が意識すべき時効の管理

犯罪被害者は、刑事と民事の双方について時効を管理する必要があります:

  1. 刑事側: 公訴時効の完成前に警察・検察への告訴・被害届の提出を検討する
  2. 民事側: 損害と加害者を知った時から3年(生命・身体の場合は5年)以内に損害賠償請求を行う、または時効の完成猶予措置を講じる

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第250条第1項刑事訴訟法(本法)中核人を死亡させた罪であって拘禁刑以上の刑に当たるものの公訴時効期間
第250条第2項刑事訴訟法(本法)中核それ以外の罪の公訴時効期間
第250条第3項刑事訴訟法(本法)中核性犯罪の公訴時効期間延長(2023年改正で新設)
第250条第4項刑事訴訟法(本法)中核18歳未満被害者の時効計算特則(2023年改正で新設)
第253条第1項刑事訴訟法(本法)中核公訴時効の起算点(犯罪行為が終わった時)
第253条第2項刑事訴訟法(本法)中核共犯の場合の起算点(最終の行為が終わった時)
第254条刑事訴訟法(本法)中核公訴提起による停止(共犯者起訴の効力含む)
第255条刑事訴訟法(本法)中核犯人の国外滞在・逃げ隠れによる停止
第145条民法(本法)中核時効の援用
第147条〜第150条民法(本法)中核時効の完成猶予・更新の各事由
第166条民法(本法)中核債権等の消滅時効(5年・10年)
第724条民法(本法)中核不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(3年・20年)
第724条の2民法(本法)中核生命・身体侵害の場合の特則(5年)

まとめ

  • 刑事訴訟法・民法とも国法レベルの法律として全国一律に適用されます
  • 刑事の公訴時効は国家の訴追権の消滅、民事の消滅時効は援用により請求が認められなくなる制度であり、まったく別の制度です
  • 公訴時効の起算点は犯罪行為が終わった時(刑事訴訟法第253条第1項)
  • 公訴時効の停止は、起訴による停止=第254条国外逃亡・逃げ隠れによる停止=第255条と根拠条文が異なります
  • 人を死亡させた罪で死刑に当たるものは2010年改正で公訴時効が廃止されました(殺人罪等)
  • 公訴時効期間は第250条第1項(人を死亡させた罪)と第2項(それ以外)の構造で定められています
  • 2023年改正により、性犯罪については第3項で公訴時効が5年延長され、第4項で被害者が18歳未満の場合は18歳に達する日までの期間が加算されることが定められました(例:12歳被害なら33歳まで時効未完成)
  • 不法行為の損害賠償請求権は損害と加害者を知った時から3年(生命・身体は5年)・不法行為から20年で消滅します(民法第724条・第724条の2)
  • 民法第724条第2号の20年は2020年改正により消滅時効として明文化されました(改正前は判例上「除斥期間」と解されていた)
  • 時効の中断・停止という用語は2020年改正で廃止され、現行法では「完成猶予」「更新」を使います(民法第147条〜第150条)
  • 催告(内容証明郵便等)で6か月間の完成猶予が生じますが、再度の催告では完成猶予の効力は生じません(民法第150条第2項)
  • 民事の消滅時効は相手方が援用して初めて効力を生じます(民法第145条)
  • 刑事の時効と民事の時効は独立して進行します。刑事時効が完成しても民事請求は可能な場合があります
  • 時効の起算点・期間の計算は個別の事情によって異なるため、弁護士への早期相談を推奨します

起算点や時効の完成は、行為の性質・認識時期・証拠関係によって判断が分かれることがあります。時効の成否・起算点の判断は個別の事実関係によって大きく異なるため、具体的な状況については弁護士への相談をおすすめします。

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