12-01 · 刑事・犯罪 · 要件系

正当防衛が成立する要件|刑法第36条の4要件と過剰防衛の境界

正当防衛とは、急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為をいいます。正当防衛が成立すると、刑事責任を問われません(刑法第36条第1項)。正当防衛が認められるためには、刑法第36条第1項の文言から導かれる要件をすべて満たす必要があり、いずれか一つでも欠ければ成立しないとされています。刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます。この記事では、正当防衛の要件・過剰防衛との違い・緊急避難との関係・民事上の効果を条文とともに解説します。

正当防衛とは、急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為をいいます。正当防衛が成立すると、刑事責任を問われません(刑法第36条第1項)。正当防衛が認められるためには、刑法第36条第1項の文言から導かれる要件をすべて満たす必要があり、いずれか一つでも欠ければ成立しないとされています。刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます。この記事では、正当防衛の要件・過剰防衛との違い・緊急避難との関係・民事上の効果を条文とともに解説します。

カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:要件系
関連条文:(本法)刑法第36条・第35条・第37条・民法第720条

こんな方へ

  • 自分または家族を守るための行為が正当防衛になるかどうか確認したい
  • 正当防衛の要件の内容を確認したい
  • 過剰防衛・誤想防衛との違いを理解したい
  • 正当防衛が成立した場合の刑事・民事上の効果を確認したい
  • 喧嘩・口論の際の行為が正当防衛に当たるかどうか確認したい

この記事でわかること

  • 正当防衛が成立するための要件(刑法第36条第1項の文言から導かれる4要件)
  • 各要件の判断基準
  • 過剰防衛・誤想防衛との違い
  • 正当防衛が成立した場合の刑事・民事上の効果
  • 正当防衛が認められにくいケース(喧嘩・挑発等)

結論:正当防衛は刑法第36条第1項の文言から導かれる4要件をすべて満たす必要がある

根拠条文:刑法 第36条第1項(正当防衛)

刑法第36条第1項:

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

この条文から、正当防衛の要件は次の4つに整理されます。

#要件条文文言の対応
急迫不正の侵害「急迫不正の侵害に対して」
自己または他人の権利を防衛するため「自己又は他人の権利を防衛するため」
防衛の意思「防衛するため」(判例上、防衛の意思が必要とされる)
やむを得ずにした行為「やむを得ずにした行為」

重要: 各要件の判断は個別の事実関係を総合して行われます。「自分は防衛しただけ」という主観的な判断だけでは正当防衛は認められません。

判断フロー①:正当防衛が成立するか

この行為に正当防衛が成立するか?

成立しやすい方向

  • 突然・予告なく身体への攻撃を受けた急迫不正の侵害が認められやすい
  • 自己または他人の権利を守る目的があった防衛の意思が認められやすい
  • 防衛行為が侵害に対して相当な範囲内やむを得ずにした行為と認められやすい

成立しにくい方向

  • 自分が先に喧嘩を仕掛けた・挑発した急迫性・防衛の意思が否定される場合があります
  • 相手が攻撃をやめた後に反撃した急迫性が失われている場合があります
  • 侵害に比べて著しく過剰な反撃をした過剰防衛となる場合があります
  • 容易に逃げられる状況だったのに反撃したやむを得ずにした行為と認められない場合があります

※ 正当防衛の成否は、個別の事実関係を総合的に判断して決まります。個別の事情によって判断が大きく異なるため、専門家への相談を推奨します。

判断フロー②:過剰防衛・誤想防衛か

正当防衛ではなく、過剰防衛または誤想防衛に当たるか?

過剰防衛(刑法第36条第2項)

  • 防衛の程度を超えた行為情状により、刑を減軽または免除することができる(任意的減免)

誤想防衛

  • 実際には侵害がなかったのに、あると誤信して防衛行為をした法律上の規定はなく、判例・学説により処理される

※ 過剰防衛・誤想防衛・喧嘩の区別は法的に複雑です。自分の行為がどの類型に当たるかは、弁護士への相談を強く推奨します。

要件①:急迫不正の侵害

侵害が「現在」または「間近に迫っている」状態であり、かつ違法であることが必要とされます。

根拠条文:刑法 第36条第1項

「急迫」の意味

「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に迫っていることを意味します。

急迫性が認められやすいケース:

  • 現在進行中の身体への攻撃
  • 武器を向けられて攻撃が始まろうとしている状況

急迫性が認められない場合の例:

  • 過去の侵害への報復: 「昨日殴られたから今日仕返しする」という行為
  • 将来の侵害への予防: 「いつか攻撃してくると思う」という段階
  • 攻撃が終了した後の反撃: 相手が攻撃をやめ危険が去った後の反撃

「不正」の意味

「不正」とは、侵害が違法であることを意味します。

不正の侵害が認められる例:

  • 暴行・傷害を加えてくる行為
  • 不法な逮捕・監禁

不正の侵害が認められない例:

  • 警察官による適法な逮捕(正当な公権力行使)
  • 相手方が正当防衛として行動している場合

自招侵害(自ら招いた侵害)

自分の不正な行為によって相手の攻撃を招いた場合(自招侵害)には、急迫性の要件が制限的に解釈される場合があるとされています。相手を挑発して攻撃させ、その反撃を正当防衛と主張することは認められにくい傾向にあります。

要件②③:自己または他人の権利を防衛するため・防衛の意思

自己または他人の権利を防衛するためにした行為であり、防衛の意思があることが必要とされます。

根拠条文:刑法 第36条第1項

防衛の対象となる「権利」

刑法第36条第1項は「自己又は他人の権利」と定めており、防衛の対象となる権利は広く解されています。生命・身体・財産その他の法律上保護される利益が含まれるとされています。

防衛の意思

防衛の意思は条文に明記されていませんが、判例上の要件として位置付けられています。ただし、攻撃的な感情(怒り・恐怖等)と防衛の意思が併存する場合でも、防衛の意思が直ちに否定されるものではないとされています。

判例上問題となるケース:

  • 「やられたらやり返す」という報復目的のみの反撃
  • 相手を完全に制圧・懲らしめることを目的とした行為

防衛の意思の認定は個別の事案ごとに判断されるため、具体的な事案については弁護士への相談を推奨します。

要件④:やむを得ずにした行為

防衛行為が、侵害を排除するための必要かつ相当な行為であることが必要とされます。

根拠条文:刑法 第36条第1項

「やむを得ず」の意味

「やむを得ずにした行為」とは、防衛のために必要かつ相当な行為と解されています。「やむを得ず」は、一般に防衛行為の必要性・相当性の観点から判断されます。具体的には、侵害の危険の程度・防衛行為の態様・現場の状況等を総合して判断されます。

判断要素:

  • 侵害と防衛行為の均衡
  • 防衛のために必要な行為であるか
  • 防衛手段として相当な行為であるか

相当性が問題となるケース

防衛行為が著しく過剰である場合は、過剰防衛(後述)として処理される可能性があります。一方、形式的な比較(武器対武器・素手対素手)だけで判断されるわけではなく、防衛者・侵害者の体格・年齢・性別、現場の状況等を総合的に考慮して判断されます。

過剰防衛(刑法第36条第2項)

防衛行為が「程度を超えた」場合は過剰防衛となり、刑事責任は残るが情状により減軽・免除されることがあります(任意的減免)。

根拠条文:刑法 第36条第2項

刑法第36条第2項:

防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

正当防衛と過剰防衛の比較

区分防衛行為の程度法的効果
正当防衛相当な範囲内罰しない(第36条第1項)
過剰防衛程度を超えた情状により刑を減軽・免除することができる(第36条第2項・任意的減免)
正当防衛・過剰防衛のいずれにも該当しない急迫不正の侵害等の要件を欠く通常の刑事責任が問われる

重要: 過剰防衛は「任意的」減免であり、必ず減軽・免除されるとは限りません。「情状により」減軽または免除できる規定です。

誤想防衛

実際には侵害がなかったのに、あると誤信して防衛行為をした場合を「誤想防衛」といいます。

誤想防衛は、客観的には正当防衛の状況がないにもかかわらず、行為者が誤って正当防衛の状況があると信じた場合をいいます。誤想防衛については刑法に明文の規定はなく、判例・学説により処理されています。

故意責任・過失責任の処理については学説の対立があり、具体的な事案によって結論が分かれることがあります。誤想防衛が問題となる事案は法律上の処理が複雑であるため、弁護士への相談が不可欠です。

緊急避難(刑法第37条)と正当防衛の違い

正当防衛と類似する制度として、刑法第37条の緊急避難があります。両者は要件・効果ともに異なります。

根拠条文:刑法 第37条第1項・[第2項]

刑法第37条の規定

刑法第37条:

第1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
第2項 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

正当防衛と緊急避難の比較

区分正当防衛(刑法第36条)緊急避難(刑法第37条)
侵害・危難の性質急迫不正の侵害」(人による違法な侵害)現在の危難」(適法行為・自然現象等の不正でない場合も含む)
防衛・避難の対象自己または他人の権利自己または他人の生命・身体・自由・財産
法益均衡の要件厳格な法益均衡は要件ではない(「やむを得ず」の判断要素)法益均衡が必須要件(避難により生じた害が避けようとした害の程度を超えない)
行為の向かう先不正の侵害者本人第三者の法益(危難の発生原因とは無関係な者の法益)
業務上特別義務者の例外なしあり(警察官・消防官・自衛官等には適用しない・第37条第2項)
過剰行為の効果任意的減免(第36条第2項)任意的減免(第37条第1項ただし書)

重要:

  • 正当防衛は「正は不正に譲歩する必要がない」という理念に基づくため、法益均衡は必須ではありません
  • 緊急避難は「危難の発生と無関係な第三者の法益を侵害する」ため、法益均衡が必須要件です
  • 緊急避難は「業務上特別の義務がある者」(警察官・消防官・自衛官等)には適用されません(第37条第2項)

緊急避難の典型例

緊急避難の典型例として、ギリシャ神話の「カルネアデスの板」(船が難破した者が、自分が掴まる板に他の者がいたためその者を突き落として自分のみ生存した事案)が挙げられます。これは現在の危難(自己の生命)を避けるため、やむを得ず他人の法益(他の者の生命)を侵害した事案であり、典型的には緊急避難の構造を持ちます。

民事上の緊急避難との違い

刑事上の緊急避難(刑法第37条)と民事上の緊急避難(民法第720条第2項)は、それぞれ独立した制度として規定されています。民事上の緊急避難については後述「民事上の正当防衛・緊急避難」を参照してください。

民事上の正当防衛・緊急避難

民法第720条は、民事上の正当防衛・緊急避難について規定しています。

根拠条文:民法 第720条

民法第720条第1項:

他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。

民法第720条第2項:

前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

刑事と民事の正当防衛の関係

刑事上の正当防衛(刑法第36条)と民事上の正当防衛(民法第720条)は、それぞれ独立した制度として規定されています。事実認定や要件の判断は個別の事案で行われるため、具体的な事案については弁護士への相談を推奨します。

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第36条第1項刑法(本法)中核正当防衛(罰しない)
第36条第2項刑法(本法)中核過剰防衛(情状による任意的減免)
第37条第1項刑法(本法)中核緊急避難(法益均衡を要件・過剰行為は任意的減免)
第37条第2項刑法(本法)中核業務上特別の義務がある者への不適用
第35条刑法(本法)周辺正当行為(法令行為・正当業務行為)
第720条第1項民法(本法)周辺民事上の正当防衛
第720条第2項民法(本法)周辺民事上の緊急避難

まとめ

  • 刑法は国法レベルの法律として全国一律に適用されます
  • 正当防衛は刑法第36条第1項に「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」と定められており、これに該当する行為は罰しないとされています
  • 条文の文言から導かれる要件は①急迫不正の侵害/②自己または他人の権利を防衛するため/③防衛の意思/④やむを得ずにした行為の4つです
  • 要件の判断は個別の事実関係を総合して行われます
  • 自分が先に挑発・攻撃した場合(自招侵害) は急迫性・防衛の意思が制限される場合があります
  • 攻撃が終了した後の反撃は急迫性が失われている場合があります
  • 防衛行為が「程度を超えた」場合は過剰防衛となり、情状により刑の減軽・免除ができる任意的減免の対象です(第36条第2項)
  • 誤想防衛については刑法に明文の規定はなく、判例・学説により処理されています
  • 緊急避難(刑法第37条)は正当防衛と類似する制度ですが、(1)「現在の危難」(不正でない侵害も含む)に対する、(2)法益均衡を必須要件とする、(3) 危難の発生と無関係な第三者の法益を侵害する場合の制度であり、正当防衛とは要件・効果が異なります
  • 緊急避難は業務上特別の義務がある者(警察官・消防官・自衛官等)には適用されません(第37条第2項)
  • 民法第720条は民事上の正当防衛・緊急避難を規定しています(刑事と民事は別制度)
  • 正当防衛の成否は法的に複雑で、弁護士への相談が不可欠です

正当防衛の成否は個別の事実関係によって大きく異なります。自分の行為が正当防衛に当たるかどうかは、必ず弁護士に相談することをおすすめします。

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