情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)は、SNS・掲示板等のインターネット上で誹謗中傷・著作権侵害等の権利侵害を受けた場合に、プラットフォーム事業者等に対して発信者情報の開示を請求できる制度を定めた法律です。令和6年(2024年)改正(、令和7年(2025年)4月1日施行) により、旧法令名「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法・プロ責法)」から現在の名称(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)に変更されました。この記事では、特定電気通信該当性・権利侵害の明白性・発信者情報開示請求の要件を中心に、関連法令(民法・刑法・著作権法・個情法)との接続を条文とともに解説します。
カテゴリ:デジタル・現代 / 種別:要件系
関連条文:情プラ法第2条・第3条・第5条・第8条・第15条・第16条・第26条
こんな方へ
- SNS・掲示板で誹謗中傷・名誉毀損等を受けた場合の対処を確認したい
- 情プラ法(旧プロ責法)で発信者情報開示請求ができるか確認したい
- 特定電気通信該当性の判断基準を確認したい
- 令和6年(2024年)改正 による法令名変更・大規模事業者義務の概要を把握したい
- 関連法令(民法・刑法・著作権法・個情法)との接続を整理したい
この記事でわかること
- 情プラ法の3つの柱(損害賠償責任の制限・発信者情報開示・大規模事業者義務)
- 「特定電気通信」「特定電気通信役務提供者」の定義
- 発信者情報開示請求の要件(権利侵害の明白性・正当な理由)
- 発信者情報開示命令(非訟手続)と従来の仮処分手続の比較
- 令和3年改正(発信者情報開示命令新設)・令和6年改正(法令名変更・大規模事業者義務)の概要
- 関連法令(民法・刑法・著作権法・個情法)との横断整理
結論:情プラ法は「特定電気通信による権利侵害への対処」を主軸とする
最短理解:情プラ法は「責任の制限・発信者情報開示・大規模事業者義務」の 3 つの柱で構成される
ポイント: 情プラ法は「特定電気通信(SNS・掲示板等)上の権利侵害への対処」を主軸とする法律です。人格権(名誉・プライバシー)・財産権の侵害自体を規律する民法第709条(不法行為)・刑法(名誉毀損罪等)、著作物の保護を主軸とする著作権法、個人情報の管理を主軸とする個人情報保護法とは規制対象が異なります。本記事はこの「特定電気通信該当性」と「発信者情報開示請求の要件」の判断を中心とします。
| 制度 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 損害賠償責任の制限 | プラットフォーム事業者等の免責要件 | 第3条 |
| 発信者情報開示請求 | 被害者によるプラットフォーム事業者等への開示請求権 | 第5条 |
| 発信者情報開示命令(非訟手続) | 裁判所への申立てによる迅速な開示命令(令和3年改正で新設) | 第8条〜第18条 |
| 大規模特定電気通信役務提供者の義務 | 削除対応の迅速化・透明化(令和6年改正で新設) | 第26条等 |
重要:令和6年(2024年)改正で法令名・略称が変更されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 旧:法令名 | 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法・プロ責法) |
| 新:法令名 | 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法・情プラ法・特プラ法) |
| 公布 | 令和6年(2024年)5月17日 |
| 施行 | 令和7年(2025年)4月1日(本記事執筆時点で施行済み) |
| law_id | 413AC0000000137(法令名変更前と同一) |
本記事の主軸:情プラ法第5条の「発信者情報開示請求」の要件と特定電気通信該当性の判断。本記事は適用判断を中心とし、関連事項(送信防止措置・損害賠償責任の制限・大規模事業者義務)の概要、関連法令(民法・刑法・著作権法・個情法)との横断整理を扱います。個別事案の権利侵害の明白性判断・手続選択は弁護士(IT・インターネット案件の経験を有する者)への相談を推奨します。
今すぐやること
- 投稿のスクリーンショット・URL・日時等の証拠を保全する(プラットフォーム削除前の記録が重要)
- プラットフォーム事業者等への送信防止措置(削除)申請を検討する
- 発信者情報開示請求(任意・裁判外)または発信者情報開示命令(非訟手続)を弁護士に相談する
- 個別の権利侵害の内容(名誉毀損・プライバシー侵害・著作権侵害等)を整理する
- ログ保存期間の制約(数ヶ月〜1年程度)を踏まえ早期に対応する
判断フロー:開示請求要件(第5条)
第5条の開示請求は認められるか?
NOTE: 詳細は本文へ。「特定電気通信」「特定電気通信役務提供者」の定義は「① 情プラ法の概要」、権利侵害の明白性(名誉毀損・プライバシー・著作権侵害・商標権侵害等で判断基準が異なる)は「③ 発信者情報開示請求の要件」、発信者情報開示命令と従来の仮処分手続の比較は「④ 開示手続の選択」、令和6年改正の大規模事業者義務は「⑤ 違反時の措置・大規模事業者の義務」、関連法令(民法第709条・刑法等)との接続は「⑥ 関連法令との横断整理」を参照してください。
① 情プラ法の概要(目的・定義)
→ 情プラ法は、特定電気通信(SNS・掲示板等)による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処を可能にし、被害者救済を図ることを目的としています。
特定電気通信とは
「特定電気通信」とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいいます(第2条第1号)。
- 対象例: SNS(X・Facebook・Instagram 等)・電子掲示板・ブログ・ウェブページ・動画投稿サイト等
- 対象外の例: 1対1のメール・LINE のダイレクトメッセージ等(公衆によって直接受信されることを目的としない通信)
特定電気通信役務提供者とは
「特定電気通信役務提供者」とは、特定電気通信のために用いられる電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する者をいいます(第2条第3号)。
- コンテンツプロバイダ: SNS 事業者・掲示板運営者・ブログサービス事業者等(投稿が表示される場の管理者)
- 経由プロバイダ: インターネット接続事業者(発信者がインターネットに接続するための事業者)
発信者特定の実務上は通常、コンテンツプロバイダから IP アドレス・タイムスタンプ等を取得し、その情報をもとに経由プロバイダから発信者の氏名・住所等を取得する2段階の手続が必要となる場合が多いとされています(令和3年改正により1つの非訟手続で複数のプロバイダに対する開示命令が可能になった点については「④ 開示手続の選択」参照)。
② 損害賠償責任の制限と送信防止措置(第3条)
→ 第3条はプロバイダ等の免責要件を定めるとともに、送信防止措置の手続も明示しています。
根拠条文:情プラ法 第3条
プロバイダ等の免責要件
| 行為 | 免責要件 |
|---|---|
| 不作為(放置) | 権利侵害の事実を知らず、かつ知ることができなかった場合は損害賠償責任を負わない(第3条第1項) |
| 作為(削除等の送信防止措置) | 権利侵害があると信じる相当の理由がある場合等は、削除によって発信者に損害が生じても損害賠償責任を負わない(第3条第2項) |
送信防止措置の手続
被害者からの申出を受けたプロバイダは、以下の手順で送信防止措置(削除等)を判断します:
- 被害者がプロバイダに権利侵害の申出を行う
- プロバイダが発信者に意見照会を行う(7日間が目安とされる)
- 発信者が同意しない場合でも、プロバイダは独自に送信防止措置の相当性を判断できる
プロバイダの判断: 削除義務を一般的に課す規定はなく、プロバイダは個別に削除の相当性を判断します。削除しないことが直ちに違法となるとは限りません(個別事情により判断が分かれます)。
③ 発信者情報開示請求の要件(第5条)
→ 発信者情報の開示には、「権利侵害の明白性」と「開示を受ける正当な理由」の2要件が必要とされています。
根拠条文:情プラ法 第5条
開示要件の2つの柱
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 権利侵害の明白性 | 投稿により名誉毀損・プライバシー侵害・著作権侵害等の権利侵害が明白であること(意見・批判・事実摘示の区別等により判断が分かれます) |
| 開示を受ける正当な理由 | 損害賠償請求等のために発信者情報が必要であること(単なる嫌がらせ目的等は当たらないとされる) |
開示対象となる発信者情報
開示対象の発信者情報は、施行規則(令和4年総務省令第39号)で限定列挙されています。主な内容は次のとおりです:
- 発信者の氏名・名称・住所
- 発信者の電話番号・電子メールアドレス
- 侵害情報に係る IP アドレス・ポート番号
- タイムスタンプ(送信日時)
- SIM カード識別番号等
特定発信者情報の開示(令和3年改正で新設)
令和3年改正(、令和4年(2022年)10月1日施行)により、SNS のログイン型サービスに対応するため、「特定発信者情報」の開示請求権が新設されました(第5条第1項柱書)。
- ログイン時の通信に係る発信者情報も開示対象に含まれる
- ただし、開示には補充的な要件(発信者情報の不存在等)を満たす必要がある(同条第3号)
④ 開示手続の選択(従来手続 vs 開示命令)
→ 令和3年改正により、従来の仮処分手続に加えて、迅速な「発信者情報開示命令(非訟手続)」が新設されました。
根拠条文:情プラ法 第8条〜第18条・民事保全法(従来の仮処分の根拠)
| 項目 | 従来手続(仮処分) | 開示命令(非訟手続・令和3年改正で新設) |
|---|---|---|
| 手続の数 | コンテンツプロバイダ・経由プロバイダごとに各々の仮処分申立てが必要(2段階) | 一つの非訟手続で複数のプロバイダへの開示命令が可能 |
| 法的性質 | 仮処分(民事保全) | 非訟手続(専門部での審理) |
| 発令の迅速性 | 仮処分として比較的迅速 | 訴訟手続より迅速(目安数ヶ月)・事案により幅あり |
| 提供命令・消去禁止命令 | なし(別途保全等が必要) | 第15条・第16条で併用可能 |
| 改正前との関係 | 引き続き利用可能 | 改正前の権利侵害事案にも適用される場合あり(最高裁判例参照) |
注意: 改正後も従来の仮処分手続は引き続き利用可能です。事案の性質・プロバイダの所在地・開示請求対象情報の範囲等により、どちらの手続が適切かは個別判断が必要です。
⑤ 違反時の措置・大規模事業者の義務(令和6年改正)
→ 令和6年改正により、大規模特定電気通信役務提供者(大規模プラットフォーム事業者)に対する削除対応の迅速化・透明化義務が新設されました。
根拠条文:情プラ法 第26条等(令和6年改正で新設)
大規模特定電気通信役務提供者の指定
令和6年改正により、月間平均発信者数等が一定規模以上のプラットフォーム事業者は、総務大臣により大規模特定電気通信役務提供者として指定されます。指定された主な事業者には Google LLC・LINE ヤフー・Meta Platforms・TikTok Pte. 等が含まれます(令和7年4月時点)。
大規模事業者の主な義務
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化 | 申出を受けてから速やかに調査・判断・通知を行う体制整備 |
| 送信防止措置の実施状況の透明化 | 措置の実施状況・処理件数等の公表 |
| 総務大臣への報告 | 月間発信者数等の定期的な報告 |
違反時の措置(行政・民事)
| 違反類型 | 措置 | 根拠 |
|---|---|---|
| 大規模事業者の義務違反 | 総務大臣による勧告・命令 | 第26条等 |
| 一般プロバイダの不法行為 | 民事上の損害賠償責任 | 民法第709条(情プラ法第3条による責任の制限あり) |
刑事罰について: 情プラ法には一般的な刑事罰の規定は設けられていません。発信者の投稿内容に対する刑事責任は刑法等の別個の法律により判断されます。
⑥ 関連法令との横断整理
→ 情プラ法でカバーされない論点も、民法・刑法・著作権法・個情法等で規律される場合があります。
| 関連法令 | 主軸 | 情プラ法との関係 |
|---|---|---|
| 民法(129AC0000000089) | 不法行為・損害賠償の根拠 | 発信者特定後の損害賠償請求の根拠(第709条) |
| 刑法(140AC0000000045) | 名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪・業務妨害罪等 | 発信者の投稿内容に対する刑事責任(刑事告訴と並行的に進行する場合あり) |
| 著作権法(345AC0000000048) | 著作物の権利侵害 | 著作権侵害事案でも発信者情報開示請求の対象 → 詳細は著作権の保護期間と例外 |
| 個人情報保護法(415AC0000000057) | 個人情報の管理 | 開示された情報のプロバイダ・請求者側の取扱い → 詳細は個人情報保護法の3階層 |
| 不正アクセス禁止法(411AC0000000128) | アクセス制御機能の突破 | アカウント乗っ取り等が原因の投稿は本法の問題と並行 → 詳細は不正アクセス禁止法の適用範囲 |
実務上の整理: 同一の事案に複数の法律が並行して適用されることが多く、民事(損害賠償)・刑事(告訴)・行政(プロバイダへの送信防止措置申出) の3経路を視野に対応する必要があります。被害発生時は弁護士(IT・インターネット案件の経験を有する者)への早期相談を推奨します。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第2条 | 情プラ法 | 中核 | 定義(特定電気通信・役務提供者・発信者情報) |
| 第3条 | 情プラ法 | 中核 | 損害賠償責任の制限(プロバイダ等の免責) |
| 第5条 | 情プラ法 | 中核 | 発信者情報開示請求権(特定発信者情報含む) |
| 第8条 | 情プラ法 | 中核 | 発信者情報開示命令(非訟手続)の発令要件 |
| 第15条 | 情プラ法 | 中核 | 提供命令(令和3年改正で新設) |
| 第16条 | 情プラ法 | 中核 | 消去禁止命令(令和3年改正で新設) |
| 第26条 | 情プラ法 | 中核 | 大規模特定電気通信役務提供者の義務(令和6年改正で新設) |
| 第1条 | 情プラ法 | 周辺 | 目的 |
| 第18条 | 情プラ法 | 周辺 | 最高裁判所規則 |
まとめ
- 情プラ法(令和6年(2024年)改正で「プロ責法」から名称変更・令和7年(2025年)4月1日施行)は 「特定電気通信による権利侵害への対処」 を主軸とする
- 発信者情報開示請求の要件は「権利侵害の明白性」と「開示を受ける正当な理由」の2つ(第5条)
- 令和3年(2021年)改正(、令和4年(2022年)10月1日施行) により「発信者情報開示命令(非訟手続)」が新設され、迅速な被害者救済が可能になった(第8条〜第18条)
- 令和6年(2024年)改正(令和7年(2025年)4月1日施行) により法令名変更 + 大規模プラットフォーム事業者の削除対応迅速化・透明化義務が新設(第26条)
- 発信者情報開示請求は通常2段階(コンテンツプロバイダ→経由プロバイダ)の手続が必要だが、開示命令(非訟手続)は1つの手続で複数のプロバイダに対する開示命令が可能
- 投稿の削除と発信者情報開示は別の手続で、削除を急ぐとログが消える可能性があるため、発信者特定を優先する場合は開示請求を先行させることが多い
- 関連法令(民法第709条・刑法・著作権法・個情法・不正アクセス禁止法)との横断整理が重要
- ログの保存期間に制約(数ヶ月〜1年程度)があり、被害発生時は早期対応が必要
- 適用判断・手続選択は弁護士(IT・インターネット案件の経験を有する者)への相談を推奨