こんな方へ
- 遺留分を侵害されたかもしれないが、いつまでに請求すればよいか確認したい
- 「知った時」の起算点がいつになるか確認したい
- 期間が迫っているが何をすれば権利を確保できるか知りたい
- 遺言書の内容を最近知った・生前贈与の存在を後から知った
- 形成権としての請求権と金銭債権の時効の違いを整理したい
この記事でわかること
- 遺留分侵害額請求権の2つの期間制限(1年・10年)と形成権としての性質
- 「知った時」の起算点の考え方
- 内容証明郵便による意思表示(形成権の行使)の方法
- 行使後に発生する金銭債権の消滅時効と完成猶予・更新(平成29年(2017年)債権法改正・2020年4月1日施行)
- 期間経過後に残る手段(任意の協議等)
結論:「知った時から1年・相続開始から10年」の期間内に意思表示を行うことで権利が行使される
遺留分侵害額請求権は形成権であり、遺留分権利者が意思表示(一方的な通知)を行うことで権利が行使され、その時に金銭債権が発生します(民法第1046条)。第1048条の期間制限(1年・10年)は、この形成権を行使するための期間です。期間内に意思表示を行わなかった場合は、形成権そのものが消滅します。
根拠条文:(本法)民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
| 期間制限の種類 | 起算点 | 期間 |
|---|---|---|
| 短期消滅時効 | 遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時 | 1年 |
| 長期期間制限(除斥期間と解されています) | 相続開始の時 | 10年 |
どちらか早い方の経過により形成権を行使できなくなりますが、2つの期間は性質が異なるとされています。
- 1年(消滅時効):相手方が時効を援用(時効の利益を主張)することで初めて効力が生じます
- 10年(除斥期間と解されています):期間の経過により当然に権利が消滅するとされています(相手方の援用は不要との見解が通説)
形成権を行使した後(=金銭債権が発生した後)は、その金銭債権の消滅時効(一般債権の時効:民法第166条)に対する別個の管理が必要となります。
今すぐやること
- 起算点(「知った時」)を確認する(遺言書を知った日・生前贈与を知った日等)
- 第1048条の期間(1年・10年)が迫っていないか確認する(最優先事項)
- 期間が迫っている場合はすぐに内容証明郵便で意思表示(形成権の行使)を行う
- 意思表示後、金銭債権が発生したら相手方に支払いを求め、必要に応じて訴訟提起・調停申立を検討する
- 計算が複雑な場合は弁護士に早期相談する(遺産評価・贈与加算に専門知識が必要)
判断フロー①:第1048条の期間制限を経過しているか
起算点から何年経過しているか?
まだ形成権を行使できる可能性がある
- 「知った時」から1年未満 かつ 相続開始から10年未満
- 「知った時」から1年経過 かつ 相続開始から10年未満(相手方援用前なら救済余地あり)
形成権が消滅している可能性がある
- 「知った時」から1年以上経過
- 相続開始から10年以上経過
「知った時」の特定は個別の事実関係に依存します。単純に「遺言書を見た日」だけとは限らない場合があります。起算点の判断は弁護士等の専門家への確認を推奨します。
判断フロー②:形成権の行使と行使後の時効管理
形成権の行使(意思表示)と、行使後の金銭債権の時効管理として、それぞれ何をすべきか
Stage 1:第1048条の期間内に形成権を行使する
- 内容証明郵便で相手方に「遺留分侵害額を請求する」意思表示を送付する
Stage 2:行使後の金銭債権の時効管理
- 相手方から任意の支払いを受けられない場合は時効管理を行う
- 催告(民法第150条)を行う
- 訴訟提起・調停申立を行う(民法第147条)
- 当事者間で協議を行う旨の合意(書面)を結ぶ(民法第151条)
- 相手方が金銭債権の存在を承認した場合は更新(民法第152条)
調停・訴訟のどちらを選ぶかは状況による個別判断が必要です。遺留分侵害額請求は調停前置ではなく、地方裁判所の訴訟で直接解決されることも多い手続きです。
① 2つの期間制限の詳細
→ 遺留分侵害額請求権には短期(1年)と長期(10年)の2種類の期間制限があります。
根拠条文:(本法)民法第1048条
短期消滅時効(1年)
遺留分権利者が以下の両方を知った時から1年で時効が完成します。
- 相続の開始(被相続人が死亡したこと)
- 遺留分を侵害する贈与または遺贈の存在
どちらか一方しか知っていない場合は起算しません。死亡を知っていても、遺言書の内容や生前贈与の事実を知らなければ1年の時効は進行しないとされています。
長期期間制限(10年)
相続開始の時(被相続人の死亡日)から10年で権利が消滅します。権利者が侵害を知らなかった場合でも、10年で消滅します。この10年の期間は除斥期間と解されているのが通説です(消滅時効と異なり、援用が不要であり、当然に権利が消滅するとされています)。
② 「知った時」の起算点
→ 起算点は「相続の開始」と「遺留分侵害の事実」の両方を知った時とされています。
根拠条文:(本法)民法第1048条
典型的な起算点のケース
| 状況 | 起算点となりうる日 |
|---|---|
| 死亡後すぐに遺言書の内容を知らされた | 遺言書の内容を知った日 |
| 死亡をすぐに知ったが、遺言書を後から見た | 遺言書の内容を知った日 |
| 生前贈与が相続開始後に判明した | 生前贈与の存在を知った日 |
| 遺言書はなく、遺産分割協議で不公平な結果になった | 遺産分割の内容を知り、遺留分侵害を認識した日 |
重要: 「知った時」の特定は個別の事実関係によって異なり、裁判上争点となることが多い論点です。記録・証拠(遺言書を見た日付、生前贈与を知った経緯等)を残しておくことが重要です。
③ 形成権の行使と行使後の時効管理(平成29年(2017年)債権法改正・2020年4月1日施行)
→ 遺留分侵害額請求権は形成権であり、第1048条の期間内に意思表示で行使することが必要です。行使後に発生した金銭債権には別途消滅時効と完成猶予・更新の制度が適用されます。
Stage 1:形成権としての遺留分侵害額請求権の行使
第1048条の期間制限(1年・10年)は、形成権としての遺留分侵害額請求権を行使するための期間です。期間内に意思表示を行うことにより形成権が行使され、その時点で具体的な金銭債権が発生します(民法第1046条)。
意思表示の方法(実務上の推奨):
- 内容証明郵便で相手方(受遺者・受贈者)に遺留分侵害額を請求する旨を通知することが推奨されます
- 配達証明付きで送付し、控えと配達証明を保管することが重要です
意思表示の内容に含めるべき事項:
- 遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示
- 請求の相手方(受遺者・受贈者)
- 被相続人・相続の特定
注意: 意思表示が第1048条の期間内に相手方に到達することが必要です。期間ぎりぎりに送付した場合、不到達により権利が失われるリスクがあります。
Stage 2:行使後の金銭債権の消滅時効管理
形成権の行使により発生した金銭債権は、一般債権としての消滅時効に服します(民法第166条第1項:知った時から5年または権利を行使することができる時から10年)。第1048条の期間制限とは別個に、この金銭債権の消滅時効に対する管理が必要です。
平成29年(2017年)債権法改正(2020年4月1日施行)により、従来の「時効の中断・停止」という概念は「時効の完成猶予・更新」として再構成されました。
| 旧概念(〜2020年3月31日) | 新概念(2020年4月1日〜) |
|---|---|
| 時効の中断(時効期間がリセットされる) | 時効の更新 |
| 時効の停止(時効の完成が一時的に阻止される) | 時効の完成猶予 |
#### 完成猶予と更新の違い
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 完成猶予 | 一定期間、時効の完成が一時的に阻止される(時効期間はリセットされない) |
| 更新 | 時効期間がリセットされ、新たに進行を始める |
#### 催告による完成猶予(民法第150条)
根拠条文:(本法)民法第150条(催告による時効の完成猶予)
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
形成権行使後に発生した金銭債権について、書面(内容証明郵便等)で支払いを請求する催告を行うと、6ヶ月間、時効の完成が猶予されます(同条第1項)。再度の催告には完成猶予の効力はありません(同条第2項)。
留意: Stage 1 の「形成権の行使(意思表示)」と Stage 2 の「金銭債権の催告」は法的性質が異なります。実務では同一の内容証明郵便が両方の役割を兼ねることがありますが、法律上の評価は別個に整理する必要があります。
#### 裁判上の請求等による完成猶予・更新(民法第147条)
根拠条文:(本法)民法第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第147条第1項に列挙される事由は、その手続が継続している間は時効の完成が猶予され、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときに時効が更新される(新たに進行を始める)と規定されています(同条第2項)。
| 完成猶予事由(第147条第1項) | 効果 | 管轄 |
|---|---|---|
| 第1号:裁判上の請求(訴訟提起) | 訴訟継続中は完成猶予。確定判決で更新 | 地方裁判所(原則) |
| 第2号:支払督促 | 申立により完成猶予。確定で更新 | 簡易裁判所 |
| 第3号:民事調停・家事調停 | 調停継続中は完成猶予。調停成立で更新 | 家庭裁判所等 |
| 第4号:破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加 | 参加により完成猶予。確定で更新 | — |
重要な注意点: 訴訟が取り下げられたり、調停が不成立に終わった場合など、確定判決等によって権利が確定しなかった場合は、その事由が終了した時から6ヶ月を経過するまで時効は完成しない(完成猶予のみ)。更新の効力は生じません。
#### 協議を行う旨の合意による完成猶予(民法第151条・改正で新設)
根拠条文:(本法)民法第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
平成29年(2017年)債権法改正で新設された規定です。権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされたときは、原則として1年間(または合意で定めた1年に満たない期間)、時効の完成が猶予されます。再度の合意により最大5年まで延長可能です(同条第2項)。
これにより、訴訟提起をすぐに行わなくても、当事者間の任意協議による解決を進めながら金銭債権の時効の完成を阻止することができるようになりました。
#### 承認による更新(民法第152条)
根拠条文:(本法)民法第152条(承認による時効の更新)
相手方(受遺者・受贈者)が遺留分侵害額の支払義務の存在を承認した場合、その時から時効が新たに進行を始めます(更新)。一部弁済も原則として承認に該当しますが、例外的なケースもあります。
④ 期間経過後の対応
→ 第1048条の期間経過後でも、相手方が時効を援用しない限り任意の解決が可能な場合があります。
短期消滅時効(1年)は、相手方が「時効を援用する(時効の利益を主張する)」ことで初めて効力が生じるとされています。期間が経過していても、相手方が任意に支払いに応じる場合は解決できることがあります(法的請求権とは別の次元での解決です)。
ただし、期間経過後に支払いを受けても、相手方が後から返還を求めることはできないとされています(時効利益の放棄が認められるため)。
なお、長期期間制限(10年)は除斥期間と解されているため、相手方の援用なしに当然に権利が消滅するとされています。この場合、上記の任意解決の余地は短期消滅時効(1年)の場合と比べて狭くなる可能性があります。
期間が経過している可能性がある場合でも、諦めずに弁護士への相談を推奨します。
⑤ 贈与が絡む場合の注意
→ 生前贈与が遺留分算定の対象となる場合があり、起算点・対象範囲の把握が複雑になります。
根拠条文:(本法)民法第1046条(遺留分侵害額の請求) 根拠条文:(本法)民法第1044条(贈与の加算)
遺留分算定の基礎財産には一定期間内の生前贈与が加算されます。
| 贈与の種類 | 加算範囲 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 第三者への贈与 | 相続開始前1年以内 | 第1044条第1項本文 |
| 相続人への贈与(特別受益に当たるもの) | 相続開始前10年以内 | 第1044条第3項(平成30年(2018年)相続法改正で新設) |
| 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与 | 期間制限なし | 第1044条第1項後段 |
これらの贈与の存在を知った日が第1048条の起算点となる場合があり、相続開始から時間が経過した後に発覚した贈与については、発覚した日から1年以内に形成権を行使する必要があります。
贈与が複数・複雑な場合は、起算点・対象範囲の把握が困難になるため、早めに弁護士に相談することを推奨します。
遺留分の割合・侵害額の計算方法等の基本事項は 遺留分とは何か を参照。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第1048条 | 民法 | 中核 | 遺留分侵害額請求権の期間制限(1年・10年) |
| (本法)第1046条 | 民法 | 中核 | 遺留分侵害額請求権(金銭請求権の根拠) |
| (本法)第1044条第1項 | 民法 | 周辺 | 第三者への贈与の加算(1年以内) |
| (本法)第1044条第3項 | 民法 | 周辺 | 相続人への贈与の加算(10年以内・平成30年(2018年)相続法改正で新設) |
| (本法)第147条 | 民法 | 中核 | 裁判上の請求等による時効の完成猶予および更新 |
| (本法)第150条 | 民法 | 中核 | 催告による時効の完成猶予(6ヶ月・再度催告は効力なし) |
| (本法)第151条 | 民法 | 周辺 | 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(平成29年(2017年)債権法改正で新設) |
| (本法)第152条 | 民法 | 周辺 | 承認による時効の更新 |
まとめ
- 遺留分侵害額請求権は形成権であり、第1048条の期間内に意思表示で行使することにより金銭債権が発生します(民法第1046条)
- 第1048条の期間制限は「知った時から1年」と「相続開始から10年」のいずれか早い方(民法第1048条)
- 1年は消滅時効(援用が必要)、10年は除斥期間と解されている(援用不要・当然消滅)のが通説
- 「知った時」は相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈の存在の両方を知った時とされています
- Stage 1(形成権の行使):期間が迫っている場合は速やかに内容証明郵便で意思表示を相手方に送付し、形成権を行使することが必要です。意思表示の到達により金銭債権が発生し、第1048条の期間制限の問題は決着します
- Stage 2(行使後の金銭債権の時効管理):行使により発生した金銭債権は一般債権の消滅時効(民法第166条)に服します。形成権の期間制限とは別個の問題として時効管理が必要です
- 金銭債権の時効管理として、催告(民法第150条による6ヶ月の完成猶予)・訴訟提起や調停申立(民法第147条による完成猶予・更新)・協議を行う旨の合意(民法第151条による1年の完成猶予)等の手段があります
- 再度の催告には完成猶予の効力なし(民法第150条第2項)
- 単に調停申立や訴訟提起をしただけでは「完成猶予」が継続するに過ぎず、「更新」(時効リセット)が生じるには確定判決等で権利が確定する必要があります(民法第147条第2項)
- 「時効の中断」は平成29年(2017年)債権法改正(2020年4月1日施行)で「更新」「完成猶予」に再構成された用語
- 第1048条の期間が経過していても相手方が任意に応じる場合は解決可能なことがあります
- 生前贈与が絡む場合は起算点・対象範囲の把握が複雑になるため早期の専門家相談を推奨します
1年という短期間のため、対応が遅れると形成権の行使ができなくなる可能性があります。遺留分侵害の可能性に気づいたら、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。