限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済するという条件で相続を承認する制度です。プラスの財産よりマイナスの財産(借金等)が多いかどうか不明なときに有効な選択肢ですが、相続人が複数いる場合は全員で共同申述しなければならないという要件があります。期限は相続放棄と同じく「知った時から3ヶ月以内」です。
カテゴリ:相続・遺言 / 種別:期限系
関連条文:(本法)民法第922条・第923条・第924条・第915条第1項・第921条・第927条・第929条・第932条・第936条/家事事件手続法第201条第1項・第5項
こんな方へ
- 相続財産にプラスとマイナスが混在していて判断に迷っている
- 限定承認の期限と手続きを確認したい
- 相続人が複数いる場合の手続きを知りたい
- 限定承認と相続放棄のどちらを選ぶか検討している
- 財産目録の作り方を確認したい
この記事でわかること
- 限定承認の意味と使いどころ
- 申述期限(3ヶ月)と起算点
- 相続人全員での共同申述の要件
- 手続きの流れ(申述→公告→清算)
- 法定単純承認(限定承認できなくなる行為)
- 限定承認と相続放棄の比較
- 先買権(民法第932条ただし書)の活用
結論:限定承認の期限は「知った時から3ヶ月以内」。相続人が複数の場合は全員での共同申述が必要
限定承認の申述期限は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です。
手続としては、この期間内に財産目録を作成し、相続人全員で家庭裁判所へ申述する必要があります。
根拠条文:(本法)民法第922条(限定承認) 根拠条文:(本法)民法第915条第1項(熟慮期間) 根拠条文:(本法)民法第924条(限定承認の方式)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期限 | 相続開始を知った時から原則として3ヶ月以内(熟慮期間) |
| 申述先 | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第201条第1項) |
| 申述者 | 相続人全員(相続人が複数の場合は全員で共同申述が必要:民法第923条) |
| 申述時の必要書類 | 限定承認申述書+財産目録(民法第924条により期間内に作成・提出) |
| 費用 | 収入印紙800円+郵便切手(裁判所による) |
最重要ポイント: 相続人が複数いる場合、一部の相続人だけが限定承認を申述することはできません。全員が同意して共同申述する必要があります。1人でも反対する相続人がいる場合はできませんが、相続放棄した者は最初から相続人でなかったとみなされるため(民法第939条)、残りの相続人全員であれば限定承認が可能です。
今すぐやること
- 相続開始を知った日(起算点)を確認する(死亡日とは限らない)
- 相続人が何人いるか確認する(全員の同意が必要)
- 財産・負債の調査を開始する(プラス・マイナス両方)
- 3ヶ月以内に判断できない場合は期間延長申立を検討する(家庭裁判所への申立)
- 財産に手をつけていないか確認する(法定単純承認になる行為は避ける)
判断フロー①:限定承認を選ぶべきか
相続の選択肢として限定承認が適しているか?
限定承認が有効な場合
- 相続財産にプラスとマイナスが混在しており、差し引きがわからない
- 被相続人の事業・不動産等を引き継ぎたいが、負債も存在する
- 相続放棄により次順位の親族へ影響が及ぶ
相続放棄の方が適している場合
- 明らかに債務超過で、プラスの財産がほとんどない
- 相続人が複数いて、全員の同意が得られない
限定承認は手続きが複雑で時間・費用がかかります。また相続人全員の同意が必要なため、実務上は相続放棄を選択するケースが多い制度です。どちらを選ぶかは個別の事情によって大きく異なるため、弁護士・税理士等の専門家への相談を推奨します。
判断フロー②:期限内に手続きできるか
3ヶ月の熟慮期間内に判断・手続きができるか?
期限内に対応できる
- 起算点から3ヶ月以内に全相続人の合意が得られ、財産目録を作成して申述できる
期限の延長が必要
- 財産調査に時間がかかり3ヶ月では判断できない
- 相続人が多く、全員の合意形成に時間がかかる
熟慮期間の延長申立は3ヶ月の期間が満了する前に行う必要があります。期間満了後の申立は認められないとされています。
① 限定承認とは
→ 相続で得た財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済し、残余があれば相続人が取得する制度です。
根拠条文:(本法)民法第922条(限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
限定承認のメリット
- プラスの財産よりマイナスが多い場合でも、自己の固有財産から弁済する必要がない
- 財産の清算後に残余財産があれば相続人が取得できる
- 相続放棄と異なり、特定の財産(家業・不動産等)を先買権で取得できる可能性がある(民法第932条ただし書)
限定承認のデメリット・注意点
- 相続人全員の共同申述が必要(1人でも反対すると不可:民法第923条)
- 申述後に官報公告・清算手続きが必要で、手間と時間がかかる
- 清算中にみなし譲渡所得税が発生する場合がある(被相続人の所得税確定申告が必要になることがある:所得税法第59条第1項)
- 実務的に複雑なため、弁護士・税理士等の専門家のサポートが必要とされることが多い
② 期限と起算点(民法第915条第1項)
→ 期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。被相続人の死亡日とは異なる場合があります。
根拠条文:(本法)民法第915条第1項(熟慮期間)
起算点の考え方
| 状況 | 起算点 |
|---|---|
| 被相続人の死亡をすぐに知らされた | 死亡日 |
| 疎遠で、死亡を後から知った | 知った日 |
| 先順位の相続人が全員放棄した | 自分が相続人になったことを知った日 |
なお、先順位放棄ケースの起算点については、複数の裁判例(仙台高裁昭和59年11月9日決定等)で確立した運用です。
期間の延長
3ヶ月では財産調査や相続人間の合意形成が困難な場合、家庭裁判所に熟慮期間の延長を申し立てることができます。
根拠条文:(本法)民法第915条第1項ただし書
- 申立先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第201条第1項)
- 期間が満了する前に申立を行う必要があります。期間満了後は原則として認められないとされています
- 申立費用:収入印紙800円+郵便切手
③ 相続人全員での共同申述(民法第923条)
→ 相続人が複数いる場合、限定承認は必ず全員で共同申述しなければなりません。
根拠条文:(本法)民法第923条(共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
実務上の重要な注意点
- 1人でも相続放棄した者がいる場合:放棄した者は最初から相続人でなかったとみなされます(民法第939条)。残りの相続人全員で共同申述すれば、限定承認は可能です
- 1人でも単純承認した者がいる場合:その者は限定承認・放棄が原則としてできなくなると評価されるため、全員での共同申述が困難になります
- 行方不明の相続人がいる場合:不在者財産管理人の選任等、別途手続きが必要となる場合があります
相続人が複数の場合の相続財産清算人
根拠条文:(本法)民法第936条第1項(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人)
相続人が複数の場合、家庭裁判所は相続人の中から相続財産清算人を選任します。相続財産清算人は、相続財産の管理・債務の弁済等の必要な一切の行為を行います(同条第2項)。
なお、令和3年(2021年)改正(2023年4月1日施行)により、従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」に名称が変更されました(民法第936条等)。
④ 法定単純承認(限定承認・放棄ができなくなる行為:民法第921条)
→ 特定の行為をすると、限定承認や放棄をする権利を失う場合があります。
根拠条文:(本法)民法第921条(法定単純承認)
注意が必要な行為
| 号 | 行為 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1号 | 相続財産の処分 | 相続財産を売却・贈与・消費する等の処分行為(保存行為は原則対象外) |
| 第2号 | 熟慮期間内に承認・放棄をしなかった | 期間満了で単純承認とみなされます |
| 第3号 | 相続財産の隠匿・消費・悪意の財産目録不記載 | 限定承認後でも単純承認とみなされる場合があります(限定承認・放棄後の行為) |
保存行為について
財産価値の維持・管理のための行為(雨漏りの修繕・賃料の収受等)は原則として処分にあたらないとされています。ただし、何が処分行為に当たるかは個別の判断が必要なため、迷う場合は専門家への確認を推奨します。
⑤ 申述の手続き(民法第924条)
→ 家庭裁判所への申述から清算手続きまで、複数のステップが必要です。
根拠条文:(本法)民法第924条(限定承認の方式)
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
第924条は「期間内に財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述する」ことを要求しており、申述時に財産目録の添付が必要です(申述後に別途提出するのではない点に注意)。
手続きの流れ
Step 1:財産・負債の調査
└ プラス・マイナスの財産を把握する
Step 2:相続人全員の合意を得る
Step 3:財産目録の作成(民法第924条)
└ 期間内に相続財産の目録を作成する
Step 4:家庭裁判所への申述(民法第924条・家事事件手続法第201条)
└ 全相続人が共同で申述書+財産目録を提出
└ 申述先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
└ 費用:収入印紙800円+郵便切手
Step 5:官報への公告・債権者への催告(民法第927条)
└ 限定承認後5日以内(共同相続で相続財産清算人選任の場合は選任後10日以内:第936条第3項)
└ 公告期間は2ヶ月以上を設定
└ 期間内に申出をしない債権者・受遺者は弁済から除斥される旨を付記
Step 6:清算手続き(民法第929条以下)
└ 公告期間満了後、相続財産から債権額の割合に応じて弁済(民法第929条)
└ 弁済のための換価は原則として競売によるが、相続人は鑑定人の評価額を支払って取得できる先買権あり(民法第932条ただし書)
└ 弁済後に残余財産があれば相続人が取得する必要書類(主なもの)
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 限定承認申述書 | 相続人全員が申述者となる |
| 相続財産の目録 | 民法第924条により期間内の作成・提出が必要 |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | |
| 相続人全員の戸籍謄本 | |
| 収入印紙800円 | |
| 郵便切手 | 裁判所によって金額が異なります |
※必要書類は家庭裁判所によって異なる場合があります。申述前に管轄の家庭裁判所へ確認してください。
⑥ 先買権(民法第932条ただし書)
→ 相続財産の換価のための競売手続において、相続人は鑑定人の評価額を支払って財産を取得できます。
根拠条文:(本法)民法第932条(弁済のための相続財産の換価)
弁済のために相続財産の換価が必要な場合、原則として家庭裁判所を通じての競売によって換価します(同条本文)。ただし、相続人は鑑定人の評価額を支払うことで競売を止めて当該財産を取得することができます(同条ただし書:先買権)。
先買権を活用する場合の注意点
- 先買権の対象物ごとに、家庭裁判所へ鑑定人選任の申立てが必要
- 鑑定人費用は、相続財産からではなく、先買権を行使した相続人個人が負担する必要がある
- 不動産の鑑定費用は数十万円〜100万円単位になることもある(実務感覚)
- 鑑定評価額の支払いも当然必要
→ 自宅・事業用不動産等、相続財産の中にどうしても取得したい財産がある場合に活用を検討します。
⑦ 限定承認と相続放棄の比較
→ どちらを選ぶかは、財産の状況・相続人の構成・目的によって異なります。
| 項目 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 申述期限 | 知った時から3ヶ月以内(民法第915条第1項) | 知った時から3ヶ月以内(民法第915条第1項) |
| 申述単位 | 相続人全員で共同申述(民法第923条) | 各相続人が個別に申述可能(民法第938条) |
| 効果 | 財産の限度内で債務弁済。残余は取得(民法第922条) | 最初から相続人でなかったとみなされる(民法第939条) |
| 手続きの複雑さ | 複雑(清算手続き・官報公告等が必要) | 比較的シンプル |
| 特定財産の取得 | 先買権により可能な場合あり(民法第932条ただし書) | 不可 |
| 次順位への影響 | 影響なし | 次順位の相続人に相続権が移る |
| 実務上の頻度 | 少ない | 多い |
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第922条 | 民法 | 中核 | 限定承認(財産の限度内での弁済条件付き承認) |
| (本法)第923条 | 民法 | 中核 | 共同相続人の限定承認(全員での共同申述が必要) |
| (本法)第924条 | 民法 | 中核 | 限定承認の方式(期間内に財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、申述する) |
| (本法)第915条第1項 | 民法 | 中核 | 熟慮期間(3ヶ月)・延長申立 |
| (本法)第921条 | 民法 | 周辺 | 法定単純承認(限定承認・放棄ができなくなる行為) |
| (本法)第927条 | 民法 | 周辺 | 相続債権者・受遺者に対する公告・催告(5日以内・2ヶ月以上) |
| (本法)第929条 | 民法 | 周辺 | 公告期間満了後の弁済(債権額の割合に応じる) |
| (本法)第932条 | 民法 | 周辺 | 弁済のための相続財産の換価(本文:競売、ただし書:先買権) |
| (本法)第936条 | 民法 | 周辺 | 相続人が複数の場合の相続財産清算人(令和3年(2021年)改正で「管理人」→「清算人」に名称変更・2023年4月1日施行) |
| (本法)第938条・第939条 | 民法 | 周辺 | 相続放棄の申述・効果(比較用) |
| (本法)第201条第1項・第5項 | 家事事件手続法 | 周辺 | 申述の管轄・申述書の提出義務 |
まとめ
- 限定承認の期限は相続開始を知った時から3ヶ月以内(民法第915条第1項)
- 相続人が複数いる場合は全員での共同申述が必要(民法第923条)。1人でも反対すると限定承認できません
- 申述は期間内に財産目録を作成して家庭裁判所に提出することが要件(民法第924条)
- 財産の処分等の法定単純承認の原因となる行為は避ける必要があります(民法第921条)
- 3ヶ月では判断が困難な場合は期間満了前に延長申立を行う必要があります(民法第915条第1項ただし書)
- 申述後は5日以内に官報公告(2ヶ月以上の期間設定・民法第927条)、債権額の割合に応じた弁済(民法第929条)が必要
- 相続人が複数の場合は相続財産清算人が選任される(民法第936条第1項。令和3年(2021年)改正で名称変更・2023年4月1日施行)
- 相続財産の換価は原則として競売だが、相続人は先買権により鑑定人の評価額で取得可能(民法第932条ただし書)
- 実務上は相続放棄が選択されるケースが多いとされており、弁護士・税理士等の専門家のサポートが必要とされることが多い制度です
財産の状況・相続人の構成・目的によって最適な選択肢が変わるため、相続放棄との比較も含めて弁護士への相談をおすすめします。