刑事事件において、被害者と加害者の間で示談が成立すると、刑事手続きに大きな影響を与える場合があります。ただし、示談が刑事手続きにどのように影響するかは、犯罪が親告罪か非親告罪か、また手続きのどの段階か(捜査・起訴・公判)によって異なります。刑事手続きは刑事訴訟法・刑法等の国法レベルの法律により全国一律に規律されています。「示談すれば刑事罰を免れる」という単純な理解は誤りであり、具体的な効果は事案ごとに判断されます。この記事では、示談と刑事手続きの関係を条文とともに解説します。
カテゴリ:刑事・犯罪 / 種別:手続系
関連条文:(本法)刑事訴訟法第237条・第248条/刑法第209条第2項・第135条・第232条・第264条等(親告罪関連)
こんな方へ
- 刑事事件で示談を検討している(被疑者・被告人側)
- 被害を受けたが、示談に応じるべきか検討している(被害者側)
- 親告罪と非親告罪の違いと示談の関係を確認したい
- 捜査段階・起訴段階・公判段階それぞれでの示談の効果を確認したい
- 示談の取下げと告訴の取下げの関係を理解したい
この記事でわかること
- 示談が刑事手続きに与える影響の基本構造
- 親告罪における告訴取下げの法的効果(刑事訴訟法第237条)
- 起訴便宜主義と示談の関係(刑事訴訟法第248条)
- 捜査段階・起訴段階・公判段階での示談の効果
- 示談書に盛り込まれる主な条項
- 不起訴処分の主文区分(事件事務規程第75条第2項)
結論:示談は刑事手続きに影響するが、効果は親告罪・非親告罪と段階によって異なる
根拠条文:刑事訴訟法 第237条(告訴の取消し)・刑事訴訟法 第248条(起訴便宜主義)
刑事手続きにおける示談の効果を整理すると、次のようになります。
| 区分 | 示談の効果 |
|---|---|
| 親告罪での告訴取下げ | 起訴できなくなる(公訴の提起前に限る・刑事訴訟法第237条第1項) |
| 非親告罪での示談 | 起訴の判断要素になる(刑事訴訟法第248条の起訴便宜主義により、検察官が「犯罪後の情況」として考慮) |
| 公判段階での示談 | 量刑判断の情状として考慮される(執行猶予・刑期等への影響可能性) |
重要: 示談は民事上の合意であり、それ自体が刑事処罰を免除する効力を当然に持つものではありません。示談が刑事手続きにどう影響するかは、犯罪の性質・手続きの段階・示談の内容によって異なります。
今すぐやること
- 対象犯罪が親告罪か非親告罪かの確認(適用される効果類型が大きく異なる)
- 手続きの段階の確認(捜査段階・公訴提起後・公判段階・判決後で効果が異なる)
- 告訴期間の確認(親告罪は犯人を知った日から原則6か月以内・刑事訴訟法第235条第1項)
- 示談書の作成は専門家関与を推奨(弁護士・行政書士等の関与により紛争リスクを低減)
- 早期に弁護士に相談(特に身柄拘束中は早期対応が重要)
判断フロー①:示談はどの段階で・どのような効果を持つか
示談は刑事手続きにどのような効果を持つか?
親告罪の場合
- 公訴提起前に告訴を取り下げてもらう起訴できなくなる(刑事訴訟法第237条第1項)
- 一度告訴を取り下げると再度告訴できない(刑事訴訟法第237条第2項)
非親告罪の場合(起訴前)
- 検察官が起訴・不起訴を判断する際の情状として考慮される(刑事訴訟法第248条)
- 「犯罪後の情況」の一つとして、起訴猶予の判断材料になる場合がある
※ 示談の効果は犯罪の性質・段階・内容により異なります。早期に弁護士に相談することを推奨します。
判断フロー②:親告罪か非親告罪か
対象となる犯罪は親告罪か非親告罪か?
絶対的親告罪の例
- 過失傷害罪(刑法第209条第2項)
- 名誉毀損罪・侮辱罪(刑法第232条第1項)
- 信書開封罪・秘密漏示罪(刑法第135条)
- 器物損壊罪・私用文書等毀棄罪・信書隠匿罪(刑法第264条)
相対的親告罪の例
- 親族間の窃盗罪・詐欺罪・横領罪等(刑法第244条第2項・第251条・第255条等)
※ 同じ犯罪類型でも、犯人と被害者の関係によって親告罪となる場合があります(相対的親告罪)。具体的な該当性は弁護士への確認を推奨します。
① 親告罪における示談と告訴取下げ
→ 親告罪は告訴がなければ公訴を提起できないため、示談で告訴を取り下げてもらえば起訴を回避できます。
根拠条文:刑事訴訟法 第237条
刑事訴訟法第237条の規定
刑事訴訟法第237条:
第1項 告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
第2項 告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
第3項 前二項の規定は、請求を待って受理すべき事件についての請求についてこれを準用する。
| 項 | 規律内容 |
|---|---|
| 第1項 | 公訴提起前に限り、告訴を取り消すことができる |
| 第2項 | 一度告訴を取り消した者は、再度告訴をすることができない(再告訴禁止) |
| 第3項 | 請求を待って受理すべき事件(請求罪)にも準用 |
親告罪における示談の効果
親告罪(過失傷害罪・名誉毀損罪・器物損壊罪等)では、告訴がなければ公訴を提起することができません。公訴提起前に示談を成立させ、被害者から告訴を取り下げてもらえれば、検察官は起訴することができなくなります。
重要な注意点:
- 公訴提起後は告訴を取り下げても刑事手続きに直接の影響はありません(刑事訴訟法第237条第1項)。公訴提起後は「公訴の取消し」(同法第257条)の問題となり、これは検察官の判断によります
- 再告訴は不可能:一度告訴を取り下げると、同一の事実について再度告訴することはできません(同法第237条第2項)
- 告訴期間の制限:親告罪の告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります(刑事訴訟法第235条第1項本文)
② 非親告罪における示談と起訴便宜主義
→ 非親告罪では告訴の有無に関わらず起訴できますが、示談は検察官の起訴・不起訴判断の情状として考慮されます。
根拠条文:刑事訴訟法 第248条
刑事訴訟法第248条の規定
刑事訴訟法第248条:
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
これが起訴便宜主義の根拠条文です。検察官は、犯罪の嫌疑が認められる事案でも、第248条に列挙される事情を考慮して起訴猶予とすることができます。
示談の位置付け
| 第248条の判断要素 | 示談との関係 |
|---|---|
| 犯人の性格 | 直接の影響は限定的 |
| 年齢及び境遇 | 直接の影響は限定的 |
| 犯罪の軽重 | 犯罪自体の性質による |
| 情状 | 示談・被害弁償・謝罪等が反映される場合がある |
| 犯罪後の情況 | 示談・被害弁償・謝罪等が反映される主な要素 |
示談・被害弁償・被害者からの宥恕(許す意思)は「犯罪後の情況」として、検察官の起訴猶予判断の一要素として考慮される場合があります。
不起訴処分の主文区分(事件事務規程第75条第2項)
検察官が不起訴処分を行う場合の主文区分は、事件事務規程(平成25年3月19日法務省刑総訓第1号)第75条第2項に定められており、第1号から第20号までの主文区分があります。主な主文区分は次のとおりです:
| 号 | 主文 | 内容 |
|---|---|---|
| 第8号 | 親告罪の告訴等の不存在 | 親告罪における告訴等の取消し・不存在 |
| 第13号 | 時効完成 | 公訴の時効が完成したとき |
| 第14号 | 刑事未成年 | 被疑者が犯罪時14歳に満たないとき |
| 第15号 | 心神喪失 | 被疑者が犯罪時心神喪失であったとき |
| 第16号 | 罪とならず | 被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき等 |
| 第17号 | 嫌疑なし | 被疑事実につき、被疑者がその行為者でないことが明白なとき等 |
| 第18号 | 嫌疑不十分 | 被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なとき |
| 第19号 | 刑の免除 | 法律上刑が免除されるべきとき |
| 第20号 | 起訴猶予 | 被疑事実が明白な場合において、訴追を必要としないとき |
重要: 示談が成立しても、必ず起訴猶予になるわけではありません。検察官の裁量に委ねられており、犯罪の重さ・態様等を含めた総合判断となります。また、不起訴処分には「起訴猶予」(第20号)以外にも様々な類型があり、不起訴処分告知書には事案により異なる主文区分が記載されます。
③ 各段階における示談の効果
→ 示談は刑事手続きのどの段階で成立するかによって、効果が異なります。
捜査段階(起訴前)
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 親告罪 | 告訴取下げにより、公訴提起ができなくなる(第237条第1項) |
| 非親告罪 | 検察官の起訴猶予判断における情状(第248条「犯罪後の情況」) |
| 逮捕・勾留への影響 | 罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれ(刑事訴訟法第60条第1項)の判断に影響する事情として考慮される場合がある |
起訴後・公判段階
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 公訴の効力 | 既に提起された公訴は示談で当然に消滅しない |
| 量刑への影響 | 量刑判断の情状として考慮される(執行猶予・刑期への影響可能性) |
| 親告罪での告訴取下げ | 第237条第1項により公訴提起後の取下げは効力を生じない |
判決後
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 確定判決後 | 示談は判決の効力に直接影響しない |
| 民事責任 | 民事の損害賠償の合意として独立して効力を有する |
重要: 「示談すれば必ず無罪になる」「執行猶予がつく」といった単純な理解は誤りです。示談は刑事手続きの一情状であり、最終的な処分・量刑は検察官・裁判所の判断によります。
④ 示談書に盛り込まれる主な条項
→ 示談書には、被害弁償・宥恕・告訴取下げ・清算条項等が盛り込まれることが一般的です。
主な条項の例
| 条項 | 内容 |
|---|---|
| 被害弁償 | 示談金の支払い金額・支払い方法・支払い時期 |
| 宥恕条項 | 被害者が加害者を「許す」「処罰を求めない」旨の記載 |
| 告訴取下げ条項 | 親告罪の場合、告訴を取り下げる旨の合意(第237条第1項に基づく) |
| 清算条項 | 「本件に関し、本示談書に定める以外の債権債務がないことを確認する」等 |
| 守秘条項 | 示談の内容を第三者に開示しない旨の合意 |
| 接触禁止条項 | 加害者が被害者に接触しない旨の合意 |
「宥恕」の法的位置付け
「宥恕」は刑事訴訟法・刑法に明文の規定がない概念です。宥恕自体に直接の法的効果はありませんが、刑事訴訟法第248条の「犯罪後の情況」「情状」として、検察官の起訴・不起訴判断や裁判所の量刑判断において評価される場合があるとされています。
示談書作成の注意点
- 法律上の要件と実務慣行の区別:「告訴取下げ」は刑事訴訟法第237条に基づく法定の手続です。一方、「宥恕」「示談金額」「清算条項」等は当事者間の合意(民事上の契約)の問題です
- 示談金額:法律上一律の基準はありません。事案・被害の程度・示談時期等により異なります
- 作成には専門家関与を推奨:示談書の内容によっては将来の紛争・刑事手続きに影響するため、弁護士・行政書士等への相談が推奨されます。ただし、示談交渉そのものや刑事弁護活動は弁護士の専管事項であり、弁護士法第72条(非弁護士の法律事務取扱等の禁止)との関係から、弁護士以外の者が報酬を得て示談交渉を行うことは原則として認められません
⑤ 示談に関するよくある誤解
→ 示談に関する誤解を整理します。
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 「示談すれば必ず不起訴になる」 | 検察官の裁量による。示談は情状の一つだが、犯罪の重さ等を含めた総合判断となる |
| 「示談すれば刑事責任を免れる」 | 親告罪の告訴取下げ以外は、刑事責任が当然に免除されるわけではない |
| 「示談したから民事の損害賠償もできない」 | 示談書の清算条項の内容による。条項により民事請求の可否が決まる |
| 「公判段階の示談は効果がない」 | 量刑判断の情状として考慮される(執行猶予・刑期への影響可能性) |
| 「告訴を取り下げれば、いつでも再告訴できる」 | 親告罪では再告訴は不可能(刑事訴訟法第237条第2項) |
⑥ 示談を進める上での実務上の留意点
→ 示談は当事者だけで進めることもできますが、専門家(弁護士)の関与が推奨されます。
示談を進める際のステップ
Step 1:被害者・加害者の連絡
└ 直接連絡か、弁護士・捜査機関を通じた連絡か
Step 2:示談金額・条件の協議
└ 被害弁償の金額・条件・宥恕条項の有無等
Step 3:示談書の作成
└ 法的に有効な書式・条項の整理
Step 4:示談書の取り交わし
└ 双方の署名・押印(または電子署名)
Step 5:捜査機関・裁判所への提出
└ 必要に応じて示談書を捜査機関・弁護人を通じて裁判所に提出弁護士関与の意義
- 被害者側:示談金額の妥当性・条項内容の確認・将来のリスク管理
- 加害者側:示談交渉のサポート・刑事手続きでの活用・量刑への影響最大化
被害者と加害者が直接交渉することは、感情的な対立や交渉の難航を招きやすいため、弁護士を介した交渉が推奨されます。
⑦ 性犯罪関係の改正と示談
→ 性犯罪については近年の刑法改正により、構成要件・名称が変更されました。
平成29年改正(2017年改正)
平成29年改正により、性犯罪は非親告罪化されました。これにより、強制性交等罪(当時)・強制わいせつ罪等について、被害者の告訴がなくても起訴できるようになりました。
令和5年改正(2023年改正・)
令和5年6月23日公布・2023年7月13日施行の改正刑法により、性犯罪の構成要件と名称が再構成されました。
| 改正前 | 改正後 |
|---|---|
| 強制性交等罪・準強制性交等罪 | 不同意性交等罪(刑法第177条)に統合・再構成 |
| 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪 | 不同意わいせつ罪(刑法第176条)に統合・再構成 |
改正後も非親告罪扱いは維持されています。同改正では、構成要件の中核要件が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて」と統一的に整理されました。
性犯罪における示談の留意点
性犯罪は非親告罪であるため、告訴取下げによって起訴を回避することはできません。ただし、示談・被害弁償・宥恕は刑事訴訟法第248条の「犯罪後の情況」として、起訴・不起訴判断・量刑判断の情状として考慮される場合があります。
性犯罪の示談は特に専門性が高いため、必ず弁護士への相談を推奨します。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第237条第1項 | 刑事訴訟法(本法) | 中核 | 告訴の取消し(公訴提起前まで可能) |
| 第237条第2項 | 刑事訴訟法(本法) | 中核 | 再告訴の禁止 |
| 第248条 | 刑事訴訟法(本法) | 中核 | 起訴便宜主義(犯罪後の情況等による起訴猶予) |
| 第235条第1項 | 刑事訴訟法(本法) | 周辺 | 告訴期間(親告罪は犯人を知った日から6か月以内) |
| 第257条 | 刑事訴訟法(本法) | 周辺 | 公訴の取消し |
| 第60条第1項 | 刑事訴訟法(本法) | 周辺 | 勾留の要件 |
| 第209条第2項 | 刑法(本法) | 周辺 | 過失傷害罪が親告罪である旨の規定 |
| 第135条 | 刑法(本法) | 周辺 | 信書開封罪・秘密漏示罪が親告罪である旨の規定 |
| 第232条第1項 | 刑法(本法) | 周辺 | 名誉毀損罪・侮辱罪が親告罪である旨の規定 |
| 第244条第2項 | 刑法(本法) | 周辺 | 親族間の窃盗罪が相対的親告罪である旨の規定(親族相盗例) |
| 第264条 | 刑法(本法) | 周辺 | 器物損壊罪等が親告罪である旨の規定 |
| 第176条 | 刑法(本法) | 周辺 | 不同意わいせつ罪(令和5年改正後) |
| 第177条 | 刑法(本法) | 周辺 | 不同意性交等罪(令和5年改正後) |
まとめ
- 示談は民事上の合意であり、それ自体が刑事処罰を免除する効力を当然に持つものではありません
- 刑事手続きは刑事訴訟法・刑法等の国法レベルの法律により全国一律に規律されています
- 親告罪では、公訴提起前に告訴を取り下げてもらえば起訴できなくなります(刑事訴訟法第237条第1項)
- 一度告訴を取り消すと再告訴はできません(同法第237条第2項)
- 非親告罪では、示談は検察官の起訴・不起訴判断の「犯罪後の情況」として考慮されます(同法第248条)
- 示談が成立しても必ず起訴猶予になるわけではありません。検察官の裁量による総合判断です
- 公判段階の示談は量刑判断の情状として考慮され、執行猶予・刑期に影響する場合があります
- 公訴提起後は告訴取下げの直接的な刑事手続きへの効果はなく、公訴取消しの問題となります(同法第257条)
- 親告罪の告訴期間は犯人を知った日から6か月以内です(同法第235条第1項本文)
- 不起訴処分の主文区分は事件事務規程第75条第2項に定められ、起訴猶予・嫌疑不十分・嫌疑なし・罪とならず・親告罪の告訴等の不存在等の類型があります
- 示談書には被害弁償・宥恕・告訴取下げ・清算条項等が盛り込まれます
- 平成29年改正により、性犯罪は非親告罪化されました
- 令和5年改正(・2023年7月13日施行)により、強制性交等罪・準強制性交等罪は不同意性交等罪に、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に統合・再構成されました。改正後も非親告罪扱いは維持されています
- 示談は早期の弁護士相談を推奨します
示談の進め方・効果は個別の事実関係により大きく異なります。具体的な状況については弁護士への早期相談をおすすめします。