05-05 · 生活トラブル · 制度型(要件判定型)

名誉毀損とネット誹謗中傷|刑事・民事の要件と対処方法

名誉毀損とは、公然と事実を摘示して他人の名誉を傷つける行為をいいます。「事実を書いても名誉毀損になる」「意見・批判と名誉毀損の境界」など、直感と異なる論点が多い領域です。インターネット上の誹謗中傷は、名誉毀損(刑法・民法)だけでなく、侮辱罪・情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法・令和6年改正前の旧称はプロバイダ責任制限法)等の複数の法律が関わります。この記事では、名誉毀損の刑事・民事上の要件・ネット誹謗中傷への対処方法を条文とともに解説します。

こんな方へ

  • 自分への投稿が名誉毀損に当たるか確認したい
  • 「事実を書いた」から名誉毀損でないと言われた場合の反論を知りたい
  • 名誉毀損と侮辱罪の違いを確認したい
  • ネット誹謗中傷への法的対処の流れを知りたい
  • 自分の投稿が名誉毀損にならないか確認したい

この記事でわかること

  • 名誉毀損罪の要件(刑法第230条)
  • 「事実を書いても名誉毀損になる」理由(事実の摘示)
  • 違法性阻却事由(真実性・公益目的・相当性)
  • 名誉毀損と侮辱罪の違い
  • 民事上の名誉毀損(不法行為・損害賠償)
  • ネット誹謗中傷への対処の流れ

結論:名誉毀損は「事実の摘示」でも成立し得る。真実であっても公益目的・相当性がなければ免責されない場合がある

最短理解:名誉毀損は「公然性・事実摘示・名誉低下」の3要件で成立し、違法性阻却(公共の利害・公益目的・真実性/相当性)の3要件で免責される

根拠条文:第230条(名誉毀損)・第230条の2(公共の利害に関する場合の特例)

項目内容
刑事:名誉毀損罪公然と事実を摘示して人の名誉を傷つける行為(刑法第230条)
刑事:侮辱罪事実を摘示せず公然と人を侮辱する行為(刑法第231条)
民事:名誉毀損不法行為として損害賠償・名誉回復措置の請求が可能(民法第709条・第723条)
「事実だから問題ない」の誤解真実の事実を摘示した場合でも名誉毀損は成立し得ます。真実性は違法性阻却の問題として別途判断されます
真実性による免責公共の利害に関する事実で、専ら公益目的で、真実であることが証明された場合は違法性が阻却されます(第230条の2)。ただし真実であっても、公益目的・相当性などを欠く場合は免責されない可能性があります

重要: 名誉毀損・侮辱罪の成否は個別の投稿内容・文脈・対象者・公開範囲等を総合して判断されます。「これは名誉毀損か」という判断は個別の事情に大きく依存するため、専門家への相談を推奨します。

本記事の主軸:刑法第230条の名誉毀損罪の3要件(公然性・事実摘示・名誉低下)と違法性阻却事由(第230条の2)の判断。本記事は刑事・民事に共通する要件判定を中心とし、関連派生規定(侮辱罪・信用毀損業務妨害罪・民事不法行為)の概要、ネット誹謗中傷への対処(情プラ法による発信者情報開示請求)の概要を扱います。個別事案の権利侵害の明白性判断・手続選択は弁護士(IT・インターネット案件の経験を有する者)への相談を推奨します

今すぐやること

  1. 投稿のスクリーンショット・URL・日時等の証拠を保全する(プラットフォーム削除前の記録が重要)
  2. 3要件(公然性・事実摘示・名誉低下)に該当するか確認する(判断フロー参照)
  3. 違法性阻却事由(公共の利害・公益目的・真実性)に当たらないか確認する
  4. 対処の目的を整理する(停止・削除/損害賠償/刑事責任)
  5. 弁護士(IT・インターネット案件の経験を有する者)への早期相談を検討する

判断フロー:名誉毀損罪の成立要件(230条)

名誉毀損罪(230条)は成立するか?

NOTE: 詳細は本文へ。3要件の詳細(公然性・事実摘示・名誉低下)は「① 名誉毀損罪の要件」、違法性阻却の3要件(公共の利害・公益目的・真実性/相当性)は「② 違法性阻却事由」、侮辱罪との区別は「③ 名誉毀損と侮辱罪の違い」、民事の不法行為(民法第709条)との関係は「④ 民事上の名誉毀損」、グレーゾーン(意見・批評・風刺、個人の特定可能性等)は「⑤ 意見・批判と名誉毀損の境界」、ネット誹謗中傷の対処は「⑥ ネット誹謗中傷への対処」を参照してください。

対処フロー:ネット誹謗中傷の被害を受けた場合

ネット誹謗中傷の被害を受けた場合、どう対処するか?

まず行うべきこと

  • 投稿のスクリーンショット・URL・日時を保存する証拠保全が最優先です
  • 削除申請をプラットフォームに行う規約違反として削除される場合があります

発信者情報の開示

  • 投稿者を特定したい場合情プラ法(旧プロバイダ責任制限法・令和6年改正で名称変更)に基づく発信者情報開示請求が必要です(digital-004参照)
  • 開示請求には要件(権利侵害の明白性・正当な理由)が必要です

※ ネット誹謗中傷への対処は複数の法律・手続きが関わり、専門的な判断が必要です。早期に弁護士に相談することを推奨します。

① 名誉毀損罪の要件(刑法第230条)

名誉毀損罪は、①公然と②事実を摘示して③人の名誉を毀損した場合に成立し得ます。

根拠条文:第230条第1項

要件①:公然性

不特定または多数の人が認識できる状況で行われたことをいいます。インターネット上の投稿は一般に公然性が認められやすいとされています。閉鎖的なやり取りであっても、第三者に伝播する可能性がある場合は公然性が認められることがあります。

要件②:事実の摘示

具体的な事実を示すことをいいます。「○○は横領をした」というような具体的な事実の陳述が典型例です。

「事実の摘示」でも名誉毀損が成立し得る理由: 刑法第230条は「事実を摘示」することを構成要件としています。つまり、摘示した事実が真実であっても名誉毀損罪の構成要件に該当し得ます。真実性は「違法性阻却事由」として別途検討されます(後述)。

要件③:名誉毀損

人の社会的評価を低下させることをいいます。被害者の主観的な感情ではなく、社会的評価が客観的に低下したかどうかで判断されるとされています。

死者の名誉毀損

刑法第230条第2項は、死者の名誉を毀損した場合も処罰の対象としています。ただし、死者については虚偽の事実の摘示に限られます。

② 違法性阻却事由(第230条の2)

真実の事実を摘示した場合でも名誉毀損は成立し得ますが、一定の要件を満たす場合は違法性が阻却されます。

根拠条文:第230条の2

3つの要件(すべて満たす必要があります)

① 公共の利害に関する事実であること: 政治・行政・公企業の活動等、社会一般が関心を持つ事柄に関する事実をいいます。私人のプライバシーに関する事実は、原則として公共の利害に関しないとされています。

② 専ら公益を図る目的であること: 個人的な恨み・商業目的・面白半分等が動機である場合は、公益目的があるとは認められにくいとされています。

③ 真実であることの証明: 摘示した事実が真実であることを証明する必要があります。真実性に加え、取材方法や表現態様の相当性も重要な判断要素となります。真実であると信じるに相当な理由がある場合も、故意・過失が否定される場合があるとされています(判例・学説上の議論があります)。

これらの要件は形式的に満たせば足りるものではなく、全体として総合的に評価されます。

注意: 3要件のいずれか一つでも欠ける場合、違法性は阻却されないとされています。真実であっても、公益目的や相当性を欠く場合は違法性は阻却されません。特に私的な事柄の暴露は公益目的が認められにくいとされています。

③ 名誉毀損と侮辱罪の違い

名誉毀損罪は「事実の摘示あり」、侮辱罪は「事実の摘示なし」で区別されます。

根拠条文:第231条(侮辱罪)・令和4年(2022年)改正による法定刑引き上げ

比較項目名誉毀損罪(第230条)侮辱罪(第231条)
事実の摘示必要(具体的事実の陳述)不要(事実を示さない侮辱)
法定刑3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金1年以下の懲役・禁錮、30万円以下の罰金または拘留・科料(令和4年(2022年)改正で引き上げ)
典型例「○○は不倫した」等の事実陳述「バカ」「死ね」等の抽象的侮辱

令和4年(2022年)改正による侮辱罪の法定刑引き上げ: ネット誹謗中傷問題を受け、令和4年改正により侮辱罪の法定刑が引き上げられました(拘留・科料→1年以下の懲役等)。また、公訴時効も1年から3年に延長されました(令和4年7月7日施行)。

④ 民事上の名誉毀損

名誉毀損は刑事責任と並んで、民事上の不法行為として損害賠償・名誉回復措置の請求が可能です。

根拠条文:第709条(不法行為)・第723条(名誉毀損における原状回復)

民事上の請求の種類

請求の種類内容
損害賠償請求精神的苦痛に対する慰謝料・実損害の賠償(民法第709条)
名誉回復措置謝罪広告の掲載等(民法第723条)。ただし実際に命じられることは少ないとされています
削除請求投稿の削除(差止請求として)

刑事と民事の違い

比較項目刑事(名誉毀損罪)民事(不法行為)
誰が申立てるか検察官(告訴・被害届が契機)被害者本人
証明の程度合理的な疑いを超える証明証拠の優越(より可能性が高いこと)
結果刑事罰(懲役・罰金等)損害賠償・名誉回復
真実性の位置づけ違法性阻却事由故意・過失・違法性の問題として評価

⑤ 意見・批判と名誉毀損の境界

純粋な意見・評価の表明は名誉毀損にならないとされることが多いですが、事実の摘示を含む場合は名誉毀損と評価される可能性があります。

アイデア・表現二分論の適用

意見・論評・批評は、それが事実を根拠とするものであっても、意見としての性格が強い場合は名誉毀損とはならないとされることがあります(判例上の「論評の法理」)。ただし、意見・論評であっても、前提事実が虚偽である場合や表現が相当性を欠く場合は名誉毀損と評価される可能性があります。

境界の判断要素:

  • 具体的な事実を示しているか(事実の陳述か意見の表明か)
  • 根拠となる事実が真実であるか
  • 意見・論評の態様が相当か

⑥ ネット誹謗中傷への対処(概要)

ネット誹謗中傷への対処は「証拠保全→削除申請→発信者特定→民事・刑事対応」の順で進めます。

発信者情報開示の詳細な手続きについては 情プラ法と発信者情報開示 を参照してください。

対処のポイント

  • 証拠保全が最優先: スクリーンショット・URL・日時を保存。ログ保存期間に限りがあるため早期対応が重要です
  • 削除と発信者特定は別の手続き: 削除するとログが消失する場合があります。発信者特定を優先する場合は、削除前に専門家へ相談することが重要です
  • 弁護士への早期相談: 発信者特定・損害賠償請求には弁護士等の専門家の関与が実務上必要となることが多いとされています

このテーマで使う条文一覧

条文法令区分内容
第230条刑法中核名誉毀損罪(3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金)
第230条の2刑法中核公共の利害に関する場合の特例(違法性阻却の3要件)
第231条刑法中核侮辱罪(令和4年(2022年)改正で法定刑引き上げ)
第709条民法中核不法行為(損害賠償の根拠)
第723条民法中核名誉毀損における原状回復(謝罪広告等)

まとめ

  • 名誉毀損罪は事実を摘示して名誉を傷つける行為です(刑法第230条)。真実であっても成立し得ます
  • 真実性による免責は、①公共の利害②専ら公益目的③真実の証明の3要件をすべて満たす場合に限られます(第230条の2)
  • 侮辱罪は事実の摘示なしに侮辱する行為で、令和4年(2022年)改正で法定刑が引き上げられました(第231条)
  • 民事上は損害賠償・削除・名誉回復措置の請求が可能です(民法第709条・第723条)
  • 「事実だから問題ない」は誤りです。真実であっても公益目的・相当性の要件を欠く場合は名誉毀損となり得ます。違法性阻却の各要件は形式的に満たせば足りるものではなく、総合的に評価されます
  • ネット誹謗中傷への対処は証拠保全→削除申請→発信者特定→民事・刑事対応の順で進めます
  • 名誉毀損・侮辱罪の成否は個別の事情によって大きく異なるため、弁護士への相談を推奨します

名誉毀損の判断は、要件該当性と違法性阻却を含めた総合評価によって行われます。名誉毀損・誹謗中傷への具体的な対処は個別の状況によって異なるため、弁護士への早期相談をおすすめします。

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