条文を読むと「ただし、〜の場合は、この限りでない。」という表現に出会います。これが「ただし書き」(但書)です。直前の規定(本文)の適用範囲を調整しており、ただし書きを見落とすと本来適用される例外・条件等に気づかないまま条文を読み誤ります。ただし書きは法令用語として明治期以来の伝統的な立法技術であり、民法・刑法・商法等の主要法典で頻用される基本構造です。この記事では、ただし書きの構造・読み方・よくあるパターンを解説します。
カテゴリ:入門・リテラシー / 種別:入門系
関連条文:(本法)民法第93条第1項・第2項/(本法)建設業法第3条第1項/(本法)刑法第36条第1項・第2項
こんな方へ
- 条文に「ただし」が出てきたが、どう読めばよいかわからない
- 「この限りでない」という表現の意味を知りたい
- ただし書きと本文の関係を整理したい
- 「なお」「この場合において」など類似表現との違いを知りたい
- ただし書きを意識した条文の読み方を身につけたい
- 「ただし書き」と「項を分けた例外規定」の使い分けを整理したい
この記事でわかること
- ただし書きとは何か(定義と条文上の位置づけ)
- 「ただし、〜この限りでない」の読み方
- ただし書きの4つのパターン(例外・除外・付加条件・反対効果)
- 「なお書き」「この場合において」「前段・後段」との違い
- 「ただし書き」と「項を分けた例外規定」の違い
- ただし書きを見落とさないための読み方
- 民法第93条(心裡留保)・建設業法第3条・刑法第36条による具体例
結論:ただし書きは「本文のルールが適用されない例外」を定めた規定
ただし書きとは、同じ条・項の中で「ただし」という接続詞のあとに続く文のことです。直前の本文が定めるルールに対して、例外・制限・条件を加えます。
本文:〜しなければならない。
↓
ただし書き:ただし、〜の場合は、この限りでない。
↑
本文のルールが適用されない例外を定める「この限りでない」とは「本文のルールはこの場合には適用しない」という意味です。ただし書きを読み飛ばすと、本来は例外が適用される場合でも本文のルールが一律に適用されると誤解することになります。
今すぐやること
- 条文を読む前に「ただし」という文字を必ず探す
- 「ただし」があれば、本文と合わせてセットで読む
- 「この限りでない」は「本文が適用されない」と読む
- 同じ条の他の項にも例外規定がないか確認する(項を分けた例外規定の可能性)
判断フロー①:この条文にただし書きはあるか
条文の中に「ただし」という語があるか?
ただし書きがある
- 同じ条・項の中に「ただし」で始まる文があるただし書きがある。本文と合わせて読む
- 条文が「〜する。ただし、〜。」の構造になっている本文(前段)+ただし書きの構造
ただし書きがない
- 条文が「ただし」なしで完結しているただし書きなし。本文のルールがそのまま適用される
- 別の条に「ただし」がある別条のただし書きであり、この条には影響しない場合が多い
- 例外が「項」を分けて規定されているただし書きではなく独立した項として規定されている例外(後述)
※補足:「ただし書き」は同じ条・項内における直前の本文に対する例外。別の条や別の項のただし書きは原則として関係しない。条・項・ただし書きのまとまりをセットで読むことが重要。
判断フロー②:ただし書きは自分のケースに適用されるか
ただし書きの要件を満たしているか?
ただし書きが適用される
- ただし書きに定める条件(例:「善意であるとき」「正当な理由があるとき」)を満たすただし書きが適用され、本文のルールが適用されない(または修正される)
ただし書きが適用されない
- ただし書きの条件を満たしていない本文のルールがそのまま適用される
※補足:ただし書きの要件を満たすかどうかは、自分のケースと条文の文言を丁寧に照らし合わせる必要がある。「本文→ただし書き→自分のケース」の順で確認すること。
① ただし書きとは
→ ただし書きは「ただし」という語で始まり、直前の本文に対する例外・制限を定めます。本文の適用範囲を画する重要な規定であり、結論を逆転させることも少なくありません。
条文上の位置
ただし書きは、条・項の中で本文の直後に置かれます。
第○条 【本文】〜しなければならない。
ただし、【ただし書き】〜の場合は、この限りでない。本文とただし書きは同じ条・項の中にあり、まとめて1つのルールを構成します。
具体例①(民法第93条第1項・心裡留保)
根拠条文:(本法)民法第93条第1項(心裡留保)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
本文: 冗談など(真意でない意思表示)でも原則有効。 ただし書き: 相手方が「冗談だと知っていた(または知れた)」場合は例外として無効。
用語の整理: 「心裡留保(しんりりゅうほ)」とは、表意者が「心の中に真意を留保したまま」(=真意ではないことを知りながら)意思表示をすることを指します。冗談・軽口・約束のつもりがない発言等の場面で問題となります。
→ ただし書きを読まないと「冗談は常に有効」と誤読してしまいます。
改正経緯: 民法第93条第1項の現行条文は、平成29年(2017年)改正により定められ、2020年(令和2年)4月1日に施行されました。改正前後で「ただし書き」の構造自体は維持されていますが、文言の整理が行われました。
なお、(本法)民法第93条第2項は「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」と規定し、ただし書きの効果を更に修正しています。第2項は同改正により新設された規定です。
具体例②(建設業法第3条第1項・建設業の許可)
根拠条文:(本法)建設業法第3条第1項(建設業の許可)
建設業を営もうとする者は、〔区分により国土交通大臣又は都道府県知事の〕許可を受けなければならない。ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。
※ 〔 〕内は説明のため要約しています。
本文: 建設業を営もうとする者は許可を受けなければならない。 ただし書き: 政令で定める軽微な建設工事のみを請け負う者は許可不要。
「軽微な建設工事」の具体的金額: ただし書きが指す「政令で定める軽微な建設工事」は、建設業法施行令第1条の2で具体的に定められています:
- 建築一式工事:請負代金1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅
- その他の工事:請負代金500万円未満
→ ただし書きを読まないと、「軽微な工事しか行わない者でも許可が必要」と誤読してしまいます。本文と例外が結果を逆転させる典型例です。ただし書きの内容は政令に委任されている点も重要(委任立法とは何かを参照)。
② ただし書きの読み方
→ 本文とただし書きをセットで読み、「例外が適用されるか」を確認します。
読み方の手順
Step 1:本文を読む
→ 原則のルールを把握する
Step 2:「ただし」があるか確認する
→ あればただし書きを読む
Step 3:ただし書きの要件を確認する
→ 「〜の場合」「〜のとき」などの条件を確認する
Step 4:自分のケースにただし書きが適用されるか判断する
→ 適用される:本文のルールは適用されない(または修正)
→ 適用されない:本文のルールがそのまま適用「この限りでない」の意味
「この限りでない」は、ただし書きの中で最も頻出する表現です。
| 表現 | 意味 |
|---|---|
| 「この限りでない」 | 本文のルールはこの場合には適用しない |
| 「〜を要しない」 | 本文が課している要件・手続きは不要 |
| 「〜することができる」 | 本文では禁止・制限されていても、例外的に許容される |
| 「〜とする」 | 本文とは異なる効果を定める |
③ ただし書きの4つのパターン
→ ただし書きには「例外・除外・付加条件・反対効果」の4パターンがあります。
パターン1:例外(最も多い)
本文のルールが適用されない場面を定める。
〜しなければならない。ただし、〜の場合は、この限りでない。例: 建設業法第3条第1項(前述)— 軽微な建設工事のみの業者を許可義務から除外する。
パターン2:除外
本文の対象から一部を外す。
〜に適用する。ただし、〜を除く。パターン3:付加条件
例外が認められる条件を追加する。
〜することができる。ただし、〜の場合に限る。パターン4:反対の効果
本文と反対の法的効果を定める。
〜は有効とする。ただし、〜のときは無効とする。例: 民法第93条第1項(前述)— 心裡留保の意思表示は原則有効だが、相手方が真意でないことを知っていた等の場合は無効。
④ 類似表現との違い
→ 「なお」「この場合において」「前段」など、ただし書きと混同しやすい表現があります。
「なお」(なお書き)との違い
| ただし書き | なお書き | |
|---|---|---|
| 書き出し | 「ただし、」 | 「なお、」 |
| 役割 | 本文の例外・制限を定める | 補足的な情報・関連規定を付け加える |
| 本文との関係 | 本文のルールを修正・制限する | 本文のルールを変えない |
なお書きの例:
〜する。なお、この場合において〜は〜とする。「この場合において」との違い
「この場合において」は、前の規定が適用される場面での追加的なルールを定めます。本文のルールを否定するのではなく、補足・特則を加えます。
「前段」「後段」との違い
1つの項が複数の文で構成されるとき、最初の文を「前段」、次の文を「後段」と呼ぶことがあります。ただし書きとは異なり、後段は前段のルールを否定するのではなく、前段に関連する追加的な規律・補足・特則を定めます。
(イメージ)
〜する。〜の場合は、〜する。
↑前段 ↑後段(前段に関連する追加的規律)ただし書きが「本文の例外を定める(適用を否定する)」のに対し、後段は「前段の規律を補充する(適用を否定しない)」点で機能が異なります。
⑤ 「ただし書き」と「項を分けた例外規定」の違い
→ 例外を定める方法には、ただし書き形式と項を分ける形式があります。両者は構造が異なります。
法律の例外規定は、必ずしも「ただし書き」の形で書かれるとは限りません。項を分けて規定することも一般的です。
ただし書き形式
同じ項の中で「ただし、〜」と接続して記述する。本文と例外が1つの項にまとめられる。
第○条 〜しなければならない。ただし、〜の場合は、この限りでない。項を分ける形式
第1項で原則を定め、第2項で例外(または別の効果)を定める。
第○条
1 〜しなければならない。
2 〜の場合は、〜することができる。例: (本法)刑法第36条(正当防衛)
第1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
第2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
→ 第1項が正当防衛の原則(不処罰)、第2項が過剰防衛の効果(任意的減免)を定めており、これは「ただし書き」ではなく独立した項として規定された例外です。
正当防衛の重要判例: 急迫性の判断基準等については、最決平成29年4月26日(積極的加害意思と急迫性の関係)等の重要判例があります。詳しくは別記事で扱います。
補足: 2025年(令和7年)6月1日施行の改正により、刑法の「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されましたが、刑法第36条の条文番号と本文構造には変更ありません(減軽・免除の規定はもともと拘禁刑表記の影響を受けない)。
両者の使い分け
立法技術上、内容が短く本文と密接に関連する場合は「ただし書き」、内容が一定の独立性を持つ場合は「項を分ける」形式が選ばれることが多いです。読み手としては、どちらの形式でも例外規定を見落とさないことが重要です。
⑥ ただし書きを見落とさないために
→ ただし書きの見落としは条文の誤読に直結します。意識的に探す習慣が重要です。
よくある誤読のパターン
| 誤読 | 原因 | 正しい読み方 |
|---|---|---|
| 本文だけ読んで終わりにする | ただし書きに気づかない | 必ず「ただし」を探してからセットで読む |
| ただし書きの条件を確認しない | 例外があることだけ知って要件を読まない | 「〜の場合」「〜のとき」の条件を自分のケースと照合する |
| 別の条のただし書きと混同する | 複数の条にただし書きがある | ただし書きは直前の本文にだけ係る |
| 項を分けた例外規定を見落とす | ただし書きだけが例外と思い込む | 同じ条の他の項にも例外規定がないか確認する |
JapanCodexでの確認
JapanCodexでは条文全文が表示されるため、ただし書きも本文とセットで確認できます。条文の読み方・構造の基礎で解説している「項・号・ただし書き」の構造と合わせて読むと、条文全体の構造が把握しやすくなります。
このテーマで使う条文一覧
| 条文 | 法令 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|
| (本法)第93条第1項 | 民法 | 中核 | 心裡留保(ただし書きの典型例・本文と例外の対比、平成29年改正・令和2年4月1日施行) |
| (本法)第93条第2項 | 民法 | 周辺 | 第1項ただし書による無効の善意の第三者への対抗不可(令和2年4月1日施行の改正で新設) |
| (本法)第3条第1項 | 建設業法 | 中核 | 建設業の許可義務とただし書きによる適用除外(軽微な工事) |
| (本法)第36条第1項 | 刑法 | 周辺 | 正当防衛の原則(不処罰)—項を分けた例外規定の例 |
| (本法)第36条第2項 | 刑法 | 周辺 | 過剰防衛の任意的減免—第1項に対する例外を独立した項で規定 |
補足: 建設業法第3条第1項のただし書きで指す「軽微な建設工事」の具体的金額は、建設業法施行令第1条の2で定められています(建築一式工事:1,500万円未満等)。
まとめ
- ただし書きは「ただし」で始まり、直前の本文に対する例外・制限を定める
- ただし書きは法令用語として明治期以来の伝統的な立法技術であり、主要法典で頻用される基本構造
- 「この限りでない」は「本文のルールはこの場合には適用しない」という意味
- 本文とただし書きはセットで読む。ただし書きを見落とすと条文を誤読する
- ただし書きには例外・除外・付加条件・反対効果の4パターンがある
- 「なお書き」はただし書きと異なり、本文のルールを変えない補足的な規定
- 「後段」は前段のルールを否定せず、前段に関連する追加的規律を定める(ただし書きとは機能が異なる)
- ただし書きは直前の本文にだけ係る(別の条・項のただし書きとは区別する)
- 例外は「ただし書き」だけでなく項を分けて規定されることもあり、両方を意識して読む必要がある
- 民法第93条(令和2年4月1日施行の改正で第2項新設)、建設業法第3条(軽微な工事は建設業法施行令第1条の2で定義)、刑法第36条(正当防衛の原則と過剰防衛の項を分けた例外規定)
- 条文を読む際は必ず「ただし」という文字を探してから読み進める